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日韓対立を憂う

2019.09.02 Mon

最悪ともいえる日韓関係は、お互いに歩み寄りができないまま膠着状態が続いています。両国の経済や安全保障にとって何の得もない争いであることは明らかで、このままでは両国の溝は深まるばかりです。その原因は、双方の政治家が相手国を困らせることによって、自国での評価を高めようとする「偏狭なナショナリズム」に陥っているからだと思います。日韓は、経済でも安保でも相互依存の関係にあります。相手を痛めれば、自分にもはねかってきます。「欲しがりません、勝つまでは」の意地の張り合いで、お互いに加害と自傷行為を積み重ねていけば、双方が自滅の道を歩むだけです。

 

喧嘩両成敗

 

日韓問題を取り上げるメディアの視点は、どちらが悪いのか、というところが中心で、日本のメディアは言うまでもなく韓国が悪い、ということに終始している印象です。しかし、喧嘩両成敗といいますが、国と国との関係で、どちらが悪い正しい、という話は、双方に言い分があって、どちらかが一方的に悪く、どちらかが一方的に正しい、ということはないと思います。

 

そう考えるようになったのは、1980年代の後半、日米貿易摩擦が激しかったころに、ワシントン駐在の経済記者として、連日のように「日米摩擦」を取材していた経験からです。当時、日本では、国際競争力で負けた米国が日本に難癖をつけてきている、というのが大方の意見でした。しかし、米国で取材すると、日本は国際競争力のない農業を保護主義で守る一方、米国の工業製品については、閉鎖的な商慣行によって日本市場から締め出していると多くの米国民は思っていました。どちらにも言い分はあるのです。

 

ただ、双方の対立が激しくなると、ことさらに相手を貶めるような情報が流れてきます。日米貿易摩擦を思い返すと、日本の公共事業は談合で決められているので米国の建設会社が日本市場に参入できないと、米国が貿易交渉の俎上にのせたことがあります。この日米建設交渉で、談合という痛いところをつかれた日本側は、日本のいくつかの大規模事業に限って、米国企業が共同事業体(ジョイントベンチャー)に参加することを認める、という妥協案を提示しました。米国側が了承すると、すぐに日本の新聞が書いたのは、「談合体質の是正を求めていたはずの米国が談合を要求」しているという記事でした。

 

米国の政府高官は「こちらが要求したことは一度もない」と怒っていましたが、米国で取材していると、「ずるいのはアメリカ」という印象操作が日本の役所から日本メディアにたえず行われているように思いました。どこの国でも、自国政府からの情報量が圧倒的に多いのが当たり前ですから、客観的な報道をしようとメディアが考えていても、どうしても「愛国報道」になりがちです。

 

今回の日韓対立では、韓国の政権内での法相人事をめぐる政治スキャンダルが報じられると、日本のメディアは、韓国の政権が自国の政治スキャンダルを隠ぺいするために、日本の貿易規制措置を利用し、反日ムードを高めている、といった「解説」を繰り返して報じています。たしかに、韓国側にそういう意図はあると思いますが、それを言うなら、今回の貿易規制を韓国への対抗措置としてフレームアップしたのは日本の政権も同じだと思います。参院選を控えた日本記者クラブ主催の党首討論会に私も出席していましたが、安倍首相は、韓国に対する半導体の輸出規制は、国と国との約束を守らない国に対して優遇措置をとることはできないからだと説明、国と国との約束の内容として徴用工と慰安婦問題を口にしていました。貿易規制で韓国に対して毅然とした態度を示す、ということを参院選でアピールしようとしたのは明らかです。

 

その後、世耕経産相は、輸出規制をかけたのは、韓国の管理に安全保障上の問題があるからで、「日韓関係に影響を与える意図はないし、ましてや対抗措置ではない」と、徴用工や慰安婦とは無関係だと説明しています。しかし、韓国がWTO(国際貿易機関)などの場に、この問題を持ち込んだ場合、日本の論理が通るかどうか、微妙だと思います。

 

深い日韓のビジネス関係

 

先日、日本で半導体ビジネスをしている韓国人と話す機会がありました。日韓の半導体ビジネスに精通しているこのビジネスマンは、韓国と日本の関係は半導体製造部品の買い手と売り手という関係ではなく、お互いに何年も前から次世代の製品をつくるための共同開発をしている関係にあると説明していました。したがって、貿易規制という形で、半導体のサプライチェーンを傷つければ、共同開発といった日韓の連携は難しくなる、と言っていました。韓国側も困るでしょうが、日本側も困るのです。

 

今回の日韓紛争で、気になるのは財界からの表立った発言がすくないことです。夏休みで財界としての活動が少ないということもあるのでしょうが、日韓ビジネスという自分たちの足元に火がついているわりには、静観しているように思えます。経団連は、中西宏明会長が病気療養中という事情もあり、会長の代行として7月に会見した経団連事務総長が「深く憂慮」と述べただけです。経済同友会は、櫻田謙悟代表幹事が7月の定例会見で、「経済界としては極めて憂慮している」と述べましたが、「一喜一憂する必要はない」としています。

 

今回の問題の火付け役は経済界を「監督」する経産省ですし、現在の経団連会長は政権との関係が密ということが就任の決め手だったといわれていますから、経済界としては何も言いたくない、ということなのでしょう。しかし、日本の経済活動を円滑に進めるという「国益」から、そのときの政権に対して、ときには苦言を呈してきた財界が静観しているのは、私から見ると、財界は機能不全に陥っているように思えます。

 

国民性の議論は不毛

 

もうひとつ、日韓問題で私が気になるのは、この問題が話題になると、「韓国人というのは」という前置きで話をする日本人が多いことです。韓国でも、「日本人というものは」という前置きで議論をする人が多いのかもしれませんが、韓国側の一連の政策は、韓国人の総意ではなく、文在寅政権の政策です。同じことは、日本にもいえるわけで、現在の日本の政策は、安倍政権が行っているもので、日本人の総意とはいえません。とくに、いまの韓国の政権は、いわゆる左派政権で、韓日あるいは韓米関係よりも、北朝鮮との融和に力を入れているように見えます。

 

先日、日本記者クラブの会見で、韓国での駐在経験の長いビジネス出身の発表者が日韓問題を語る前提として「韓国人の国民性」を紹介していました。

 

・力の強い大国にうまく取り入り自己保身を図る風見鶏的「事大主義」

・自分の実力をわきまえず虚勢を張る「夜郎自大」的感覚

・都合が悪くなるとすぐに他人のせいにする責任転嫁の質

・仏教を排斥し、儒教(朱子学)を国教とした「崇儒斥仏」の為、常に物事を二者択一の「正邪善悪」の価値観で図り、自分だけが道徳的に正しいと考える質

・長年の「礼」に基づく貢物の習慣で賄賂をもらうことは地位の高さの象徴として自らの価値を高めるという感覚

・「野蛮な日本と文明の韓国」という幻想を持ち、日本に対しては何をやってもいいのだという反日ナショナリズム

 

私は、これを聞きながら、日本人は韓国人と似ている「国民性」が多いなと思いましたが、韓国の一連の対日政策を韓国の国民性と結び付ければ、現政権に批判的な韓国人の多くは、「それなら、私たちは韓国人ではないのか」と、怒り出すと思います。最近、韓国の文在寅政権に批判的な韓国メディアの友人と酒を酌み交わしましたが、「安倍政権は、もっと韓国に強い政策を打ち出すべきだ」と言っていました。「文政権をなんとしても引きずり落とすには、日本にがんばってほしいから」と説明していました。

 

今回の日韓紛争は、双方の政権の思惑が引き起こしているもので、双方の国民がその思惑に乗って、相手の国民性を非難するようになれば、これまで双方の多くの人々が築き上げてきた日韓交流も崩れてしまいます。

 

2018年に韓国から日本を訪れた旅行者数は750万人を超え、日本から韓国への旅行者も約300万人になっています。観光だけでなくビジネスも含まれている数字で、両国の密接度がよくわかります。韓国のアイドルグループが歌うK-POPは、日本の若い人たちにも大人気です。スポーツの世界でも、日韓の交流は盛んで、2018年の平昌オリンピックの女子500メートルで優勝した小平奈緒選手が敗れた韓国の李相花選手と抱き合うシーンは、大きな感動を呼びました。

 

歴史問題を超えて

 

日韓の対立の背景には、日本が朝鮮半島を植民地支配した歴史があり、韓国民の反日、日本国民の反韓感情の遠因になっています。双方が未来志向で進むためには、過去に引きずられるばかりでは、うまくいきません。しかし、過去の歴史を忘れるわけにはいきませんし、歴史を学んでいく必要があると思います。

 

「わが国は、遠くない過去の一時期、国策を誤り、戦争への道を歩んで国民を存亡の危機に陥れ、植民地支配と侵略によって、多くの国々、とりわけアジア諸国の人々に対して多大な損害と苦痛を与えました。私は、未来に誤ち無からしめんとするが故に、疑うべきもないこの歴史の事実を謙虚に受け止め、ここにあらためて痛切な反省の意を表し、心からのお詫びの気持ちを表明いたします」(1995年8月15日、村山富市首相の談話)

 

「我が国は、先の大戦における行いについて、繰り返し、痛切な反省と心からのお詫びの気持ちを表明してきました。その思いを実際の行動で示すため、インドネシア、フィリピンはじめ東南アジアの国々、台湾、韓国、中国など、隣人であるアジアの人々が歩んできた苦難の歴史を胸に刻み、戦後一貫して、その平和と繁栄のために力を尽くしてきました。こうした歴代内閣の立場は、今後も、揺るぎないものであります」(2015年8月14日、安倍晋三首相の談話)

 

日本の政治家が韓国と向き合うときには、「過去の問題は解決済み」と突き放すだけではなく、こうした首相談話の精神を忘れてはならない、と思います。

 

私は2008年から3年間、宮城県石巻市で暮らしました。そのとき、布施辰治(1880~1953)という石巻出身の弁護士がいたことを知りました。朝鮮における一連の独立運動で検挙された人々の弁護を朝鮮に出向いて引き受けた人で、国内でも関東大震災における朝鮮人虐殺事件の調査と抗議、朴烈事件の弁護など、日本の植民地化にあった朝鮮人の人権を守ることに尽力しました。その業績が認められ、2004年には、日本人として初めて韓国の「建国勲章」を授与されました。石巻市には、1993年に建立された布施辰治顕彰碑があり、「生きべくんば民衆とともに、死すべくんば民衆のために」という布施の言葉が刻まれています。

 

植民地支配と被支配という歴史を背負った日韓両国が共存していくには、日本側の努力として、「負の歴史」を反省するとともに、布施辰治のような先達の努力を思い起こすことが大切だと思います。

 

(冒頭の写真は、8月21日に北京であった日韓外相会談=外務省のHPから)


この記事のコメント

  1. 考え人 より:

     日本人は何故隣の家をぶっ潰すようなことをやったのでしょうかね。
     目の前の人をやっつけると一生恨まれるし、スキを見て倍返しを喰らうのは当たり前でしょう。
     
     ホントにバカで浅はかとしか言いようがない。

     その点、欧米人は隣国を植民地にするような阿呆なことはやってない。
     自国から遠く離れたアフリカやアジアに目を付けただけだ。

     文部省は学校で、日本がアジア隣国にいかにひどい仕打ちをしてきたかを、護摩化さず事細かく教え続けるべきだ。

     それを徹底すれば、遠いい将来許してもらえるかも。

    欧米人は、そんな馬鹿はやらない。

  2. 小川秀一 より:

    これだけ日韓関係が悪くなったのは朝日新聞の誤報や扇動があったからではないでしょうか?
    それについて高成田さんはどうお考えですか?

  3. 小川秀一 より:

    日韓関係をこのように悪化させた大きな要因は朝日新聞の誤報や扇動報道にあるかと思いますが、それについて如何お考えですか?

  4. 高成田 享 より:

    朝日新聞の「誤報」と「扇動」と日韓関係の悪化との関係がわかりません。朝日が慰安婦で誤報を書き、それで韓国民が慰安婦問題に気づき反日になり、日本に対するいやがらせをはじめたという意味なのでしょうか。もう少し、説明していただければ朝日新聞OBでもある私見を述べたいと思います。

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