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営農型発電は地方振興の「希望の種」

2021.12.16 Thu

安達太良山を望む福島県二本松市笹屋に太陽光を利用した営農型発電所がこのほど完成し、11月中旬に開かれた竣工式に私も出席しました。営農型発電というのは、農地の上に太陽光パネルを設置し、地上では農作物を育て、空中では発電するという新しい農業形態です。日本では「ソーラーシェアリング」、世界では「Agrivoltaic」という名前で知られるようになり、農業や再生可能エネルギーに活路を開くものとして着目されています。

 

  • 農作物と電力の二毛作

 

二本松営農ソーラー株式会社という発電所をつくったのは、ここで農業を営んでいる近藤恵さん(41)で、6ヘクタール(ha)の農地に約9500枚の太陽光パネルを設置、営農型発電としては全国でも最大級の規模です。発電所の最大出力は1930キロワット(kW)、年間発電量は371万キロワット時(kWh)で、一般家庭の600世帯分に相当し、二本松市の3%分の電力量にあたるそうです。社長になった近藤さんは、竣工式の挨拶で、次のように営農型発電の意義を語りました。

 

「日本は、農業もエネルギーも自給率が低い国ですが、ソーラーシェアリングによってどちらの自給率も高めることができます。平地と空中を有効に使う現代版の二毛作で、きょう植樹したブドウが4年後に収穫できるようになれば、600世帯の家庭に電力を供給し、4トンのブドウを生産する“兼業農家”になります。いずれ、エネルギーを販売するだけでなく、農機具やEV(電気自動車)も自分たちの電力で動かす時代が来るでしょう」

 

太陽光パネルの下で育てるのはエゴマとブドウで、竣工式はブドウの苗木約100本を植える植樹式も兼ねていました。なぜ、ブドウを選んだのか、近藤さんに尋ねると、「太陽光パネルを支える柱を有効に使う作物を考えているうちにブドウが浮かびました。営農型発電とブドウとの組み合わせは全国でも珍しいし、ブドウは自分にとっても初めての作物、これからが楽しみです」と語っていました(下の写真)。植樹したのは、いま人気が高まっているサンシャインマスカットと、切り口がハート形でこれから人気を集めそうなマイハートなど7品種です。

ブドウの房がたわわに実ったブドウ棚を思い浮かべると、支柱にブドウの幹が巻き付き、棚にそって枝が広がり、そこにブドウの房がなっています。そうなると、棚の上に太陽光パネルがあっても違和感はありません。営農型の先行事例をみると、下部農地で栽培されているのは、ミョウガ、フキ、アシタバなどの「特徴的な作物」や観賞用植物が多いようですが、ブドウ棚と太陽光パネルの組み合わせは、これからの営農型発電の流行になるかもしれません。

 

日本で栽培されるブドウは、種アリから種ナシに、小粒から大粒に、皮も厚いものから薄いものへと変化をとげていて、巨峰やピオーネなどに続いて、シャインマスカットが登場しました。発展途上の営農型発電に進化途上のシャインマスカットやマイハートはふさわしい作物だと思いました。

 

  • エネルギーの自立は「希望の種」

 

私が近藤さんに初めて会ったのは、2011年3月11日の東日本大震災から半年後の9月、朝日新聞の東北版で連載していた「震災の街を歩く」という企画の取材でした。近藤さんは、東京で育ち筑波大学で農林業を学んだのち、2007年に新規就農者としてここで農地を借りて有機農業をはじめたばかりでした。突然の原発事故で、原発から50km離れた二本松市にも放射能物質が降り土壌は汚染されました。

 

この地域の農家は家族の健康被害を心配する一方、放射線物質が検出されなくても消費者が買おうとしない「風評被害」に苦しんでいる時期でした。近藤さんも、妻の華子さんとふたりの子どもを宮城県美里町にある華子さんの実家に避難させていました。掲載された記事(2011年9月27日、下の写真)を読み返すと、近藤さん自身もどうするのか悩んでいたのでしょう、近藤さんは次のように語っていました。

「『がんばろう!東北』なんて言われるけれど、がんばるっていうのは、じっと放射能に耐えるということでしょう。それでいいのかって思いますよ。子どもたちにここに戻って来いとはとても言えませんから、ここを出なければならないのかもしれません。でも、何か一粒の希望の種をまくまでは、ここを去りたくありません」

 

近藤さんは2011年12月に、妻子の暮らす宮城県に避難したのち、2012年7月に二本松に戻り、参加していた二本松有機農業研究会にエネルギー部会を仲間とともに立ち上げました。その後、原発の事故後にできた太陽光やバイオマス発電などに取り組む福島県飯館村の飯舘電力の経営に参画、再エネの実践に取り組みました。原発事故があるまで、「農業は詳しいと自負していたが、自分の使っている電気について考えてきたことはなかった」と語っていた近藤さんにとって、エネルギーの自立は、二本松で咲かせたい「希望の種」になったわけです。

 

  • 二本松有機農業研究会

近藤さんが二本松に定住して農業をはじめるきっかけになったのが二本松有機農業研究会でした。日本の有機農業の草分けとして知られる大内信一さん(80)が立ち上げたグループで、現在の会員農家は15人で栽培面積は17haになります。半世紀に及ぶ活動のなかで、二本松市中里にある3.5haの大内さんの農地には、有機農業を学びたいという多くの若者が訪ねてきました。近藤さんもそのひとりでした。

 

大内さんは、研究会の農家が生産した有機野菜を県内外の消費者に販売してきました。しかし、震災でとくに県外の顧客が大幅に減ったといいます。前掲の記事で大内さんは、「有機野菜にドロ付きは当たり前だったが、震災後は、皮をむいたり洗ったりしてドロを落とさないと売れなくなった」と語っていました。産直の象徴でもあったドロがきらわれることになったのです。

 

県外の顧客がなかなか戻らないなかで、信一さんの農業を継いだ三男の督さん(48)が取り組んだのが営農型発電でした。近藤さんらと一緒にエネルギー部会で再エネを研究した結果、太陽光発電にたどり着いたことになります。

 

「太陽光というと、山林を開発するイメージがあって抵抗感が強かったのですが、営農型発電を実践しているところを見て、これなら農地の利用なので、自分たちでもできると思いました」

 

2016年には、任意団体だった研究会を一般社団法人として法人化し、営農型発電に取り掛かりました。もっとも苦労したのが農地で発電するための許可を農業委員会から得ることで、「売電のための形だけの農業ではなく、農産物を生産する営農だということを証明するのに、太陽光パネルの下でも農作物の収量が確保できるという資料や論文を集めたり、書類を整えたりするのに多くの時間を費やした」と言います。発電装置をそろえるために銀行から融資を受ける際にも、発電事業を継続するための条件である「営農」を証明するのに苦労したそうです。

 

0.2haの農地に発電所が完成したのは2018年8月で、発電能力は50kWで、年間7万5000kWhの電力を生産することになりました。これは約20世帯の一般家庭の年間使用量に相当するといいます。発電をはじめてから3年になりますが、銀行への返済期限を長くしたこともあり、売電によって年間200万円を超える収入をあげているそうです。(下の写真)

ここで栽培しているのは、小麦と大豆の二毛作で、太陽光パネルによる日照の減少が気になったので尋ねると、大内さんは次のように語りました(下の写真)。

「パネルによる減少はありません。パネルを傾けることで、遮光率を30%未満におさえているためです。パネルの傾斜は30度なのですが、これによって太陽光が地面に届くだけでなく、積もった雪が自然と落下するので冬場の積雪対策にもなっています」

 

  • 全国の農地に広げるには

 

大内さんの話を聞きながら「目からウロコ」だったのは、このあたりの日照はどうなのか、大内さんに尋ねたときの答えでした。「農地というのは、どこも日当たりのいいところにあります」。たしかに、山林を切り開いて太陽光パネルを敷くとなると、日照の良い場所かどうかが決め手になるのでしょうが、農地であれば、日当たりが良いという条件はクリアしているということです。

 

日本の農地面積は450万ha、日照が少しでも減るのは困る作物もあるでしょうから、すべての農地を太陽光にするのは無理でしょうが、上部は太陽光、下部は農作物という二層式の営農型太陽光発電が広がる可能性は十分にあると思いました。農地で農産物だけでなく電気も生産するのですから、これこそ農村を活性化する方策、ということになります。

 

農水省が2021年9月に公表した「営農型太陽光発電について」という資料によると、2019年度までに営農型発電のために転用許可がおりた件数は全国で2653件、742haで、毎年、確実に増加していることがわかります。資源エネルギー庁は1haの農地の太陽光発電能力を500kWと計算しているので、営農型の発電能力は371メガワット(MW)程度で、日本全体の太陽光の設備容量56,000MWの0.6%程度ということになります。営農型は太陽光のなかでも微々たるものですが、2021年に農水・経産・環境の各省庁が定めた「再エネによる農山漁村の活性化基本方針」には、営農型太陽光発電について、次のように書かれています。(下の図は農水省環境バイオマス政策課が2021年に作成した農山漁村への再エネの導入イメージ)

「営農型太陽光発電は、営農の適切な継続を通じて農地の有効活用が図られるとともに、営農による収入、売電収益由来の収入、電力の自家消費による光熱費削減等によって農業者の所得が向上することにより、荒廃農地の再生や条件不利地域での営農や定住を下支えし、地域の農業の振興に資することが期待される。また、多面的な機能を有する農地上で発電をする形態であることから、地域の農業と調和しながら地域の農業を発展させ、地域の活力の向上につなげることも重要である」

 

要するに、営農型発電は地域の農業振興に役立つと書かれています。しかし、この19ページにもわたる文書には、肝心のことが書かれていません。現在の再エネは、固定価格買い取り制度(FIT)によって、電力会社が再エネの生産者から一定期間、固定価格で買い取る仕組みになっています。ところが、太陽光発電のFIT価格は制度ができた2009年には1kWh48円だったのが、毎年のように引き下げられ、2021年度は10kWh未満(住宅)19円、10kWh~50kWh(小規模)12円、50kWh~250kWh(中規模)11円などと設定されました。このFIT価格では、小規模または中規模の発電を想定する営農型発電を考えた場合、採算を取るのが難しいため二の足を踏む農家がほとんどだということです。

 

上掲の「営農型太陽光発電について」の資料では、取り組み事例として5か所の営農型発電が紹介されていますが、すべて売電単価は30円/kWh以上になっています。大内さんの有機農業研究会も、近藤さんの二本松営農ソーラーもFIT契約を結んだ時期が早かったため売電単価は20円以上です。大内さんも近藤さんも現在のFIT価格では「とても無理」と断言しています。

 

再エネをふやすためには、FIT価格を引き上げればいいのですが、そうすると消費者が支払う電気料金が値上がりする仕組みになっています。FITには、固定価格で再エネ電力を買い取っている電力会社に、消費者が電気料金とともに支払う「再生可能エネルギー発電促進賦課金」が還元されます。つまり、電力会社が買い取る再エネの費用は消費者が負担しているわけで、FIT価格を引き上げれば、それだけ消費者の負担も重くなる仕組みになっているのです。

 

この賦課金は、2012年度は0.22円/kWhだったのが再エネの増加によって2021年度には3.36円まで上がっています。標準家庭の負担は月額1,008円、年額12,096円となっています。FITは買い取り期間が10年ないし20年と決まっているので、売電している生産者はいずれFITを“卒業”し、時価で売電することになります。したがって、賦課金のピークは2030年ごろで、それからは減っていくと見られていますが、FIT価格が上がれば、賦課金は減らないことになります。

 

  • 営農型発電は地方振興の土台

 

資源エネルギー庁が作成するエネルギー基本計画の2021年版では、再生可能エネルギーへの取り組みのなかで、「コスト低減とFIT制度からの自立化」という政策目標が掲げられています。再エネをふやすために、インセンティブとしてFITを利用するのはやめていこうということなのでしょう。

 

エネ庁が2021年に公表した「発電コスト検証」によると、2030年の電源別発電コストは、石炭13.6~22.4円/kWh、風力(陸上)9.9~17.2円、原子力11.7~、太陽光(事業用)8.2~11.8などと試算していて、太陽光が最もコストがかからない電源になるとみています。太陽光は、FITからの「自立化」の有力候補ということになるでしょう。

 

営農型は、山林を切り開いてつくるメガソーラーとは違って、農地につくるのですから、規模が大きくありません。規模の利益を受けにくいわけで、営農型をふやすには、FITのような助成措置で売電による農家の手取り収入をふやすことが必要です。また、営農型発電は、近藤さんが竣工式のあいさつで語っていたように、トラクターなどの農機具や運搬用のEVと組み合わせれば、文字通りエネルギーの地産地消になります。ハウス栽培の熱源などへの利用も可能ですし、耕作放棄地を再生させる手立てにもなりそうです。営農型発電は、農業地域を活性化させる「希望の種」になるのです。

 

そう考えると、出てくる答えは、FIT制度からの「卒業」を考えるのなら、「自立化」だと突き放す前に、営農型を対象にした促進策を政府が打ち出すことだと思います。岸田首相は12月に召集された臨時国会の所信表明演説で、「新しい資本主義の主役は地方です」と語りました。首相の提案する「デジタル田園都市国家構想」を実現する地方のインフラは、営農型発電による電力の自立化であり脱炭素化ではないでしょうか。

 

農家の自立には力を入れてきた農水省ですが、営農型発電に対しては、その可能性を評価しながらも、具体的な助成策や促進策となると消極的なようにみえます。エネルギー政策は、経済産業省の領域なので、他省の縄張りには手を出さないという“霞が関の掟”が働いているのかもしれません。

 

「新しい資本主義」とか「新自由主義からの脱却」とか、理念先行の岸田内閣ですが、省庁の壁を超えて、営農型発電を「新しい資本主義」の主役となった地方の活性策として実現できるか、注目していきたいと思います。


この記事のコメント

  1. 長岡昇 より:

    「現代の二毛作」ですか。いろんな可能性を感じます。

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