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変貌する世界とメディア①映像メディアの躍進~PIVOTの竹下隆一郎さんに聞く

2023.12.09 Sat

新聞が読まれなくなった、若者のテレビ離れが進んでいる、といったメディアをめぐる変化が言われて久しくなっています。インターネットの発達によって、人々が自ら情報を発信したり、自分が好む情報を手軽に得たりできるようになったからです。その背景には、メディアの技術革新ばかりでなく、世界や社会の構造変化によるところが大きいように思われます。それを一言でいえば、「分断」だと思います。

 

1990年代のグローバリゼーションは、世界をフラット化させると思わせましたが、21世紀は米中など国家間の分断、それぞれの国でも格差の拡大や政治的な立場の違いによる人々の分断が深まっています。メディアも、そうした分断に合わせるように、それぞれの階層、年齢層、イデオロギーなどに細分化されて、それぞれのメディア空間を築いているように見えます。

 

茶の間に置かれたテレビやテーブルに上にある新聞が家族や地域、さらには国民の共有する情報源として、家族の会話から政治的議論までコミュニケーションの土台になって時代は、もはや後戻りのできません。

 

変化する世界・社会とメディアをどう考えるか、メディアに深くかかわる人たちとの対話を通じてさぐってみていきたいと思います。その初回は、ビジネス映像メディアPIVOTのチーフ・グローバルエディターである竹下隆一郎さんです。(連載は不定期に公開します)

 

PIVOTというメディア

――PIVOTのコンテンツをYouTubeの公式チャンネルで見ると、業界分析や投資情報などの経済情報から国際政治、さらにはサッカー情報など盛りだくさんのコンテンツが並んでいますね。会社のウェブサイトを見ると、創業は2021年6月とあり、ずいぶん新しい会社ですが、YouTubeのチャンネル登録数は2023年9月に100万人を超えたとあります。すさまじい勢いですが、PIVOTとは、どういうメディアなのですか。(下の写真はYouTubeのPIVOT公式チャンネル)

竹下 東洋経済オンラインやNewsPicsの編集長をした佐々木紀彦がビジネス映像メディアというコンセプトで立ち上げたメディアで、私も5人の創業メンバーのひとりです。YouTubeで本格的に配信をはじめたのは2022年6月からですから、1年半で登録数が100万を超えたことになります。コンテンツは、ビジネスが中心ですが、開設の時期に、ロシアによるウクライナ侵攻が始まったこともあり、視野を広げて国際政治も扱うようになりました。当初は、映像とともに記事も載せていたのですが、映像が爆発的に伸びたことから、いまは映像に集中するようになりました。(下の写真は、イスラエルのガザ侵攻について竹下氏がイスラエルの元法相をインタビューしたコンテンツの画面)

――記事よりも映像の時代だというのは、新聞の購読数が激減しているのをみると、納得できますね。振り返ると、新聞はテレビが普及しても、購読数でも広告でも、ある程度、共存関係を維持できたと思うのですが、スマホが普及するようになって、新聞はネットメディアに太刀打ちできなくなりました。そのネットメディアでも、映像が主流になっているということなのですね。竹下さんは、PIVOTのコンテンツは「映像」だと言いましたが、「ニュース映像」とは言いませんでしたね。

 

竹下 そこは議論したところですが、「ニュース」という言葉はやめようということにしました。学びがある、勉強になるという意味で学習コンテンツに近いものにしようという理由です。記者が取材というスタイルは変わらないのですが、アウトプットは、特ダネといった出し手の論理ではなく、見ている人が次の日から人生を変えたり、仕事を変えたりといった受け手に役立つコンテンツをつくろうということになりました。

 

新聞記者からの転身

 

――竹下さんのプロフィールをみると、2002年に朝日新聞に入社し、2016年にハフポスト日本版の編集長となり、それから2021年にPIVOTのチーフに移り、現在は執行役員/チーフ・グローバルエディターをされています。私から見ると、竹下さんは、ニュースメディアの進化の道を個人でも歩んでいるように見えるのですが、転職の動機は何なのですか。

 

竹下 私の天職はジャーナリストだと思っていて、取材をしてそれを発信する仕事が大好きなのです。情報は、取材に基づいた良質なコンテンツであることが大事ですが、圧倒的に流通を押さえないと、情報が読者や視聴者に届かないと思いました。新聞の購読数が減っているなかで、ハフポストはネットでニュースを流し、とくにソーシャルメディア上でニュースを届けるのが世界一うまいメディアだったので、これからの情報の流通を考えて転職しました。

 

――ハフポストは、ネットメディアだと理解しているのですが、ソーシャルメディアを使うのがうまいというのは、どういう意味ですか。

 

竹下 ハフポストは、ツイッター(現X)やフェイスブック、インスタグラムなどのソーシャルメディアからニュースを積極的に見つけ出すと同時に、そのニュースを最適化してソーシャルメディアを通じて発信しています。自分のサイトに人を呼び込むのではなく、いろいろなメディアを通じて、ニュースを発信しようということで、分散型ニュースと米国の本社は呼んでいました。(下の左の写真は、ハフポスト2023年11月18日の記事。右はインスタグラムに掲載された情報)

――竹下さんは情報の流通を考えて転職したと述べましたが、朝日新聞の発行部数は現在400万部で、ピークの800万部からは半減していますが、それでも読者数はハフポストよりは多いのではないですか。

 

竹下 たしかにハフポストのサイトへの入場者数は、朝日新聞よりも少ないかもしれませんが、いろいろなところに分散して発信していますから、閲覧者数は月間2000万ぐらいで、影響力という意味では新聞以上かもしれません。それに、若い人たちは新聞をほとんど読みません。ダイバーシティなどこれまで大手メディアとは視点が異なる情報をほしいという点で、ハフポストをよく見ています。

 

――そういえば、ハフポストの名前を見るのはYahoo!ニュースが多いですね。分散型というわけですね。新聞記者は、抽象的な「読者」に向けて記事を書いているのですが、もっと具体的に、この話題は若い人たちにとか、女性にとか、LGBTの人たちにとか、伝えたいと考えると、新聞というのは、もはや最適なメディアではないかもしれませんね。そして、竹下さんはハフポストからPIVOTの立ち上げに参画するわけですね。

 

竹下 インターネットのメディア環境は大きく変化しています。ひとつは、ソーシャルメディアの荒廃です。トランプ大統領が歪めた情報を流したり、人々を扇動したりしたのもそうですし、いろいろなフェイクニュースが横行するようになりました。さらに、人々が欲しがる情報がテキストから映像に変化してきたことにも注目しています。映像メディアをゼロから立ち上げて、信頼できる情報空間をつくることのやりがいを現在は感じています。

 

――ネット空間が荒れてきている、というのは、「フェイクニュース」とか「炎上」という言葉が日常化していることでもわかります。ビジネス映像という分野は、たしかに荒れているという印象はありません。PIVOTはこれから、何を目指すのですか?

 

日本をPIVOTする

 

竹下 ピボット(pivot)は回転軸という意味ですが、私たちの目標は、日本を方向転換していくためのメディアにしていこうと考えています。メディアとして、YouTubeのチャンネル登録数を現在の100万を150万、200万へとふやしていくとともに、アプリによる視聴者をふやすことも考えています。個人的には、世界に発信するメディアにしたいと思っています。

 

――PIVOTは「日本をPIVOTする」のをミッションとうたっています。何を変えようと言うのですか。

 

★竹下 少子高齢化が進む日本は、このままでは衰退していきます。その日本を方向転換するには、新たな事業を生み出すことが必要で、そのためには世界を知り、いろいろなことを学ばなければなりません。PIVOTのコンテンツを通じて、そのお手伝いをしようと考えています。新たな事業は、いま勤めている会社のなかでも可能でしょうし、会社から独立して事業を興したいという人もいるでしょう。投資に関係するコンテンツが多いのは、若い人たちに投資への関心が高まっていることもありますが、若い人たちのスタートアップ(起業)を助けたいという意味もあります。

 

――1970年代から80年代にかけて、日本の製造業に屈した米国経済が90年代以降に、とくにIT(情報技術)分野で、復活する原動力となったのは、若い人たちが新しい技術やアイデアをもとに次々に起業したからです。ビジネスメディアというと、日本経済新聞を思い浮かべますが、日経は大企業中心の情報ですね。スタートアップを支援するというPIVOTのポリシーは、若い人たちからの支持を得られるように思いますし、日本に希望を与えるかもしれません。いずれは、日経を凌駕するメディアになれますか。

 

竹下 記者数など規模では無理だと思いますが、テキスト情報から映像情報への流れは止まりませんし、私たちがグローバル展開をすれば、それも可能だと私は思っています。

 

アプリの効用

 

――大企業の重役たちが日経記事の切り抜きを拡大コピーで読んでいるときに、若い社員たちがデスクのPC端末やスマホからPIVOT情報を得ているなんて姿を想像すると楽しくなりますね。ところで、竹下さんは、YouTubeばかりでなく、アプリから招き入れる視聴者をふやすと言いました。YouTubeというのは、大量のデータを処理しながら、情報の出し手や受け手、商品の売り手や買い手など利用者同士をつなぐプラットフォームのひとつです。YouTubeで情報を流せば、多くの人に情報を伝えることができるだけでなく、広告収入も得られることになります。PIVOTはアプリでも、コンテンツが見られるようにしていますが、そのメリットは?

 

★竹下 YouTubeは、いまはもっとも効果的な流通チャンネルですが、アプリからPIVOTのコンテンツを見るユーザーがふえれば、独自の広告収入がふえることになります。そのためには、YouTubeでは流さない情報を出すなどの工夫が必要でしょう。

 

――スマホのアプリは便利で、PIVOTを見たいときに、いちいちYouTubeのアプリから入る必要はありませんね。PIVOTはコンテンツが豊富で、それだけに多くの資金も必要だと思うのですが、資金はどうやって確保しているのですか。

 

竹下 現在、20億円ほどの資金をベンチャーキャピタルなどから調達していますので、それもとに編集や技術のスタッフを確保しています。YouTubeからの広告収入もあるのですが、力を入れているのはPIVOTが制作して放映する企業広告です。スポンサーのトップと対話しながら、企業を紹介しています。将来的には、課金もありうると思っています。ニュースのような情報でお金をいただくのは難しいのですが、学習ということになると人はお金を払います。PIVOTのコンテンツには、英語のインタビューも多いので、英語の学習教材として利用することもできるかもしれません。(下の写真は、PIVOTの「学」を考えたコンテンツ)

 ◆米国のメディア環境

 

――向学心はだれでもありますから、より深く学びたくなれば、お金を支払ってもという気になりますね。竹下さんは2014年から1年間、スタンフォード大学の客員研究員として米国のメディアを研究し、米国に本社のあるハフポストの日本版編集長をした経験もあり、米国のメディア事情に詳しい人です。米国のメディアは変化していると思いますか。

 

竹下 圧倒的に変化しています。米国のメディアの変化をみれば、これからのメディアの主流は映像と音声になると実感します。映像のプラットフォームはYouTube、音声のプラットフォームはポッドキャスト(Podcast)が中心ですが、こうしたプラットフォームでは、新聞やテレビなどの既存メディアが伝えない多くの情報が流れています。心配なのは、そのなかにはフェイクニュースも多くあり、実際に政治的な影響を与えています。たとえば、2016年の大統領選は、民主党のヒラリー・クリントン候補と共和党のドナルド・トランプ候補の争いでしたが、ワシントンのピザ店が小児性愛者の拠点になっていて、そこに民主党の幹部が出入りしているという内容のフェイクニュースがネット空間で流れ、「ピザゲート」という言葉が生まれました。それに一役買ったのがポッドキャストで、この陰謀論の広がりがヒラリー氏の敗北に影響したといわれています。

 

――ピザゲートをめぐっては、店の前で抗議デモが起きたり、ライフルを持った男が店に押し入ったりするなど問題が生じました。新聞やテレビは、これがデマ情報であることを伝え、iPodなどのプラットフォームも情報源を削除するなどしましたが、すぐにはおさまりませんでした。それだけ既存メディアへの不信感が強いということなのでしょうね。

 

竹下 新聞やテレビが流す情報が「表」情報なら、ネット空間で流れる情報は「裏」情報です。「裏」というとネガティブな印象が強いので、「昼」メディアと「夜」メディアという言い方をする方もいます。「夜」は暗いのですが、夜明けが必ず来ますからポジティブの面もあります。トランプ氏は大統領に就任してからもツイッターへの投稿をやめず、陰謀論など「裏」や「夜」の情報にお墨付きを与えることになりました。トランプ氏は、人々が興奮するような情報を流すことを「燃料を投下する」と表現していました。

 

――まさに「炎上」をあおる言い方ですね。トランプ氏の取り上げた陰謀論のひとつに、ウォール街やハリウッドのお金持ちなどの「影の政府」(deep state)が政府を牛耳っているという物語がありました。大統領になってもそれを口にしたことで、それを信じる人がふえたようですね。トランプ大統領の「燃料投下」のきわみは、2021年1月に起きたトランプ派の人たちによるバイデン氏の大統領就任を阻むための議会襲撃でした。日本のメディア状況は、米国のような深刻な事態は招いていないと思われますが、米国の状況を日本が追いかけることが常ですから、心配ですね。(下の写真は議会襲撃事件の様子©Tyer Merbler)

竹下 メディアと政治という点では、メディアに対する不信感は米国ほどではないと思います。その背景には、米国のメディアは政治的なポジションを明確にするのに対して、日本のメディアは不偏不党とか中立という建前になっていることがあると思います。中立というのは悪く言えば玉虫色で、あいまいなかもしれませんが、それが極端に走るのを抑制していると思います。ただ、ジャニーズ問題が典型ですが、ネットの世界では広まっている話を新聞やテレビが取り上げないと、既存メディアは真実を報道しないという不信感を募らせることになると思います。

 

分断ではなく共有のメディア空間

 

――たしかに米国の新聞は社説で、どの候補を支持するか明示しますが、その結果、読者が分断され、自分と反する候補を支持した新聞の情報をすべてフェイクだと否定するような傾向が強まっていますね。テレビもCNNはリベラル、Foxは保守と色分けされ、視聴者もそれぞれのチャンネルしか見ないという意味で分断されているようですね。日本国内でも、ジャニーズ問題で言えば、海外メディアが報じて、やっと国内の新聞やテレビが取り上げるという状況は、メディア不信を強めています。大手メディアがおいてきぼりにした「真実」をネット空間が暴くという構図が常態化すれば、大手メディアへの不信はさらに増幅させることになるでしょう。

 

竹下 メディアは国民国家とともに発展してきましたが、いまのように価値観も多様化しているなかで、みんなが同じ景色をみるというのは難しい時代なっていると思います。とはいえ、PIVOTはネットメディアですが、「昼」のメディアが取り上げている閣僚や学者らにも登場してもらい、「昼」と「夜」のバランスを考えながら、とくに若い人たちが話題や議論を共有できる共通の情報空間をつくることを心がけています。先日、岸田首相のフェイク映像が流れて話題になりました。これからは映像分野でもさまざまなフェイクが流れるようになると思います。映像メディアの世界がソーシャルメディアのような荒れた世界にならないように、注意していきたいと思います。

 

――映像の真実度は、テキストに比べて高いように思えます。ハマスとイスラエルの戦争の当初、ハマスのテロ攻撃に対するイスラエルの正当な反撃という見方が広まっていた時期に、イスラエルのミサイルがガザの病院を攻撃し多数の死傷者が出た、というニュースが流れ、イスラエルの過剰防衛という見方が強まりました。その後、イスラエル側は、あれはパレスチナ側からの発射したロケット弾の失敗だったと主張し、その映像を公開したことで、こんどはパレスチナの自尊説が広まりました。ニューヨークタイムズ紙は、そのときにガザで撮影された複数のライブ映像を照合することで、パレスチナ側からの発射ではないという自社の分析を報じました。映像の真実性を見分けるのもメディアの重要な役割になりますね。PIVOTは国際的なメディアをめざすという発言もありましたが、どんな戦略を考えていますか。

 

国際的なメディアをめざす

 

竹下 国際的なメディアをめざしますが、カタールの放送メディアであるアルジャジーラが中東という文化圏を背景に「中東のメディア」といわれるように、PIVOTもアジアの声を取り上げることで、「アジアのメディア」と呼ばれるようになりたいですね。(下の写真はアルジャジーラのウェブサイト)

――テレビや新聞が家族の共通情報だったという時代は過ぎ去り、いまやスマホが情報端末になった結果、個人個人が勝手に情報を得る時代です。しかもその情報もテキストから映像や音声に変化しています。竹下さんの話をうかがいながら、その流れが加速され、メインストリームとなる時期も早いと思いました。メディアが流す情報の虚実を見極めるメディアリテラシーの重要性が指摘されていますが、映像メディアが主流になり、フェイク動画なども入り込むようになると、その虚実を見極めるのはますます難しくなると思います。PIVOTが良質な映像メディアとして、多くの人々にとって共通の情報プラットフォームになることを期待したいと思います。本日は、ありがとうございました。

 

竹下隆一郎さんのプロフィール

 

PIVOT執行役員/チーフ・グローバルエディター 1979年生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。2002年に朝日新聞社に入社、経済部記者、デジタルメディアを担う「メディアラボ」を経て、2014年~15年にスタンフォード大学客員研究員。朝日新聞社を退職し、2016年から21年まで「ハフィントンポスト日本版」編集長。2021年にPIVOTを立ち上げる。TBS系『サンデーモーニング』コメンテーター。


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