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「長井健司氏のカメラ返還」のニュース考

2023.04.27 Thu

2007年9月27日、ミャンマーの首都ヤンゴンの中心部で、軍事政権に抗議する市民のデモを取材中、国軍の兵士の銃撃で殺された日本人のジャーナリスト、長井健司さん(当時50歳)が手にしていたビデオカメラが16年ぶりに遺族のもとに返ってきました。4月26日にタイのバンコクにある外国特派員協会で、カメラを入手したミャンマーの独立系放送局「ビルマ民主の声」から長井さんの妹、小川典子さんらに手渡されたのです。カメラには、亡くなる直前の映像も残されていました。

 

このニュースは、日本でも報じられましたが、NHKや朝日新聞よりも詳しく報じたのは英国のBBCでした。その理由は、銃撃されて倒れたあとも、カメラを手にしている長井さんを写したロイターのカメラマンの写真が2008年度のピューリッツァ賞を受賞し、長井さんのジャーナリスト魂が国際的にも強い印象を残していたからでしょう。(下図の写真は、ロイターの写真を掲載したBBCネット版のニュース画面)

残された約5分間の映像は、NHKのネットニュースなどで見ることができます。映像は、軍政に抗議の声を上げる市民や僧侶の姿を見せたのち、兵士を乗せた軍用のトラックが到着する様子を映しています。その後、自らにカメラを向けた長井さんが音声によるレポートをはじめます。

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230427/k10014050661000.html

 

ただいま軍が到着しました。あそこにあるのが軍です。重装備した軍隊だと思います。お寺の前は、こうした市民で埋めつくされています。仏塔の前にはこうしてみなさん市民が集結しています。そうしたなか、重装備した軍隊のトラックが到着しました

 

これが長井さんの肉声による報告で、長井さんは危険を感じたのか、移動を始めたようで、人々の間を動く映像があり、ペットボトルを抱えた少年がこちらに走ってくる様子が映された直後、映像は乱れ、途切れています。ピューリッツァ賞の写真では、倒れたのちも撮影しているように見えますが、残されたビデオ映像からは、それは確認できませんでした。

 

ところで、BBCが報じていて、NHKや朝日新聞が報じていないところがありました。それは、カメラの遺族への返還の場を整えた国際的な非営利組織「ジャーナリスト保護委員会」(本部・米ニューヨーク)の東南アジア代表のショーン・クリスピン氏が日本政府を非難した部分です。BBCによると、クリスピン氏は次のように語っています。

 

日本政府は、自らの検死結果を明かさないことによって、殺害状況が隠蔽されるのを暗黙のうちに助けました。長井健司氏への正義を追求することよりも、ミャンマーの将軍たちとの良好な外交関係と強力な商業的結び付きを維持することを、恥ずべきことに優先したのです」

 

朝日新聞の記事(デジタル朝日4月27日)は、上記の日本政府への非難を見越したように、次のように報じています。

 

「銃撃を受けて日本政府は、高村正彦外相(当時)が軍政のニャンウィン外相に抗議。警視庁は司法解剖から『1メートル以内の至近距離から撃たれた』とし、軍政側にも真相の解明を求めてきた」

 

日本政府は、司法解剖の結果から、「至近距離からの銃撃」だとしてミャンマー政府に真相解明を求めたそうですから、「隠蔽に加担」という非難は当たらないかもしれません。また、日本政府は2021年のクーデターによる現政権をミャンマー政府とは認めず、「国軍」という名前にしていますし、新規の政府開発援助(ODA)も供与していません。しかし、国際社会では、日本政府はミャンマーの軍事政権に融和的だと見ているようです。

 

ことし2月には、ミャンマー国軍が麻生太郎・前蔵相と渡辺秀央・前郵政相(日本ミャンマー協会長)に名誉称号と勲章を贈ったことが報じられました。圧政を敷き、少数民族を弾圧する軍事政権から勲章を受け取る人物が政権党の副総裁なのですから、日本は国軍政権に甘いと見られるのは当然でしょう。(下の写真は、朝日新聞デジタルが報じた麻生氏と渡辺氏への勲章授与の記事。写真の中央は国軍のミンアウンフライン最高司令官、左から2番目が渡辺氏。麻生氏は欠席した)

市民への圧政と少数民族への弾圧を続けるミャンマーの国軍政権に対して、私たちは、正当ではない非民主的な政権だと思っています、しかし、国際的には、ミャンマーへの見方は共通だとpしても、それだけではなく、日本に対しても軍事政権に甘いと思われていることを、BBCの報道を見てあらためて認識しました。

(冒頭の写真は長井氏のカメラ返還を伝えるNHKのオンラインニュース)


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