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先進国中、最下位と言う日本を立て直すには? 英国人デビッド・アトキンソンの言

2017.07.05 Wed
社会

先進国中、最下位と言う日本を立て直すには?  英国人デビッド・アトキンソン
(日本の会社である「小西美術工藝社」の社長)の言

平成29年(2017)7月  仲津 真治

1  「日本再生は、生産性向上しかない!」

原著は、「日本再生は、生産性向上しかない!」と言うもので、現代日本語で書かれています。
ここに、先進国中、日本が最下位と言われるのは、一人当たりの国内総生産(GDP per Capita) の事で、日本はGDPの総額では、米中に次ぐ世界三位なのに、それを人口で割って得られる一人頭では、ぐっと下がり、長年約二十位辺りであったところ、ここ二十年余りのゼロ成長で、イタリア・スペインなどより低い約三十位辺りに落ち込んだことを指しているようです。
そして、その順位は所謂先進国中最低に位置すると言う事です。

いつも間にか、日本が斯く低迷するようになったことについては、私も大いに関心がありましたので、ずばりのテーマを扱う、本書を早速手にし、紐解きました。

2   日本との御縁

本著者のデビッド・アトキンソン氏は、1965年生まれの英国人で、オックスフォード大学出身、専攻は「日本学」の由、結局この専攻が氏と日本との御縁を決定づけたようです。
そして、今や在日二十八年に及ぶと言いますから、日本語が達者で、「自著を同語で書き表せるとは、むべなるかな。」と思いますが、それにしても舌を巻きますした。

オックスフォード大学を卒業後、大学での日本学専攻を活かしつつ、有名な米国系の金融機関等に勤めた氏は、1992年ヘッドハンティングに逢い、ゴールドマンサックスに遷ります。同社では取締役まで上り詰めます。
金融マンとして功成り名を遂げた観のある同氏は、日本の京都で悠々自適の生活に入る一方、経済界などとは違う世界を志向し、茶道の裏千家に入門します。其処で、茶道を始めとする日本文化の深さに入れ込み、茶名「宗真」を拝受します。

この御縁から、国宝・重要文化財の補修を手掛ける「小西美術工藝社」に顧問として入社、そこで人物を見込まれ、同社の番頭の急逝のあと、余人を持って代え難いと「代表取締役社長」に就任、今日に及んでいます。
同社では、持ち前の才能、知識と教養、度胸の良さと敢闘精神を発揮して、同社の種々の大改革に着手、これらをやり遂げ、小なるといえども同社を新たなる発展軌道に乗せます。

3   主にヨーロッパと比較した日本への批判や提言と、日本への期待

小西美術工藝社での改革

氏は、書き出しの「非効率大国」ニッポンにおいて、自らの「小西美術工藝社」での体験から、金融アナリスト時代に見た「日本経済の問題点や歪み、そして可能性が綺麗に凝縮されている。」と述べています。

同社は、漆、菜色等専門の文化材修繕会社の一つで、全国で二十社程度在る中のトップの由、シェアは四割誇っていると申します。

問題は漆に在るとのこと、それは塗料や接着剤の役割を果たし、文化財の修繕に欠かすことが出来ないものなのですが、それが危機に瀕していたのです。実は、国産の漆は年間一トンしか生産されておらず、ほとんどは価格の安い中国産の漆に拠っていました。年間の輸入量は五十トンに達し、このままでは市場は中国製に駆逐されていた事でしょう。

ならば、国で対応策を講ずべきだったのでしょうが、平成二十八年まで、文化庁は「指定文化財には、原則国産三割に、中国産のもの七割を混ぜて使うよう仕様書で規定していた。」と申します。この規定は、明治以降に作られた由、その理由、中国産七割と義務づけていた分けは、不明のままと申します。斯くて、この仕様書は国産漆の生産や活用を危機に陥らせてきました。国宝などの文化財は、我が国固有のものですから、技術・素材などに当然国産にこだわっているはずなのに、そうでない現実が、漆(英語で言うと、japan)の世界でまかり通ってきたのです。

氏は、「ここに日本人特有の事なかれ主義が在る」と指摘しています。
これは、この文化財の分野だけではないでしょう。一事が万事なのです。
事なかれ主義とは、こういうことを言うのですね。 懸る現象は、至る所に広がっていて、慣例や旧習が、理由も分らず、墨守されていることでしょう。

私は、この氏の指摘を受けて、Max Weber の言う「永遠なる昨日」を思い出しました。
つまり、「今日は、昨日行ったとおりに行う」分けで、何の変化も起きない事を言います。斯くて、何らかの変革や新らしいノウハウが発見されても、それは結局取り入れられず、伝統社会が続いてゆくのです。

この変化の無さは、将に独語で言えば「Das ewig Gestern」でありましょう。
其処では、産業革命などは起きず、伝統や慣習が継続する伝統社会が
厳然として在るのです。

日本に於ける事無かれ主義は、将にその世界です。
さりながら、漆の調達については改まり、遂に平成28年度から、中塗りと上塗りについて、原則国産とし、平成31年度から原則全部国産と言う事になる見通しになったようです。
品質の向上と若干の価格上昇を繁栄して、予算上の措置が講じられる由です。

4   漆の調達の次ぎに起きたこと

それは、在庫管理で起きた由です。その考えがなかった無かったのです。
顔料や膠、金箔など各素材は、現場が出来る度に、発注され、かつて使われ余って日光の倉庫に保管されていたものは使われずに、また、そのままと言う事が繰り返されていました。倉庫の在庫は増える一方でした。

かくて、企業会計の考え方が取り入れられ、在庫管理が始まりました。
各地にあった絵の具を集めてみると、一年分もあったといいます。
それまでは、作業員の頭にしか無かったのです。

5   これらを始めとして、同社長就任後八年にして、大中小あらゆる調整や改革が行われ、小西美術工藝社は、見違えるようになったと言います。
現著者の記すところに拠れば、それらは次のようなものです。

  1. 若い人を雇い、後継者不足を改善
  2. 全員を正社員化
  3. 毎年昇格
  4.  営業を掛けることで、売り上げも安定
  5. 設備投資が行えるようになった
  6. 破綻の危機から脱出

本当に凄いですね。

6   成果が在って、著著は自信を持ったのでしょう。親日の気分も文化への理解も手伝ったのだと思います。それに、異国での新体験は甚だ強烈なインパクトをもたらしたものと思われます。斯くて、日本には潜在能力があるのだからと、観光始め、まだまだやるべき分野が在るとの論説が続きます。

其処には日本人が気づかない切口もあって、眼を覚まされる観があります。
今の日本が停滞していることは確かなようです。 それに、高度成長は過去のことですし、技術力への自信だけでは、明らかに不十分です。
是非お読み頂いて、御参照下さい。


この記事のコメント

  1. 匿名 より:

    3.(表現)、、、、と申します。
     繁栄して、

    「楽しんで読んでいます」

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