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ノートルダム火災の記事を読みながら

2019.04.17 Wed

ノートルダム大聖堂の火災を報じた今朝(4月17日)の朝日新聞を読みながら、気になったことがいくつかあります。

 

第1は、ノートルダム寺院の火災に対する日本政府の対応です。国際面には、ローマ法王、エジプト大統領、オバマ前米国大統領の談話などが出ているのですが、日本政府の反応は出ていません。火災の第1報は、4月16日の夕刊だったのですが、ここにも日本政府の対応は出てきません。インターネットで配信されている「朝日デジタル」をみると、安倍首相がマクロン仏大統領に対して「仏国民の皆様に心からお見舞いを申し上げる」というメッセージを送ったこと、菅官房長官が閣議後の会見で「仏政府より何らかの支援要請がある場合には、日本政府として積極的に検討したい」と述べたという記事がやっと出てきました。

 

新聞は、自国の首相がお見舞いのメッセージを送った事実を軽視するのか、と文句を言いたいのではありません。テレビのニュースを見ながら気になったのは、官房長官の発言です。仏政府から要請があった場合には検討する、という言い方が冷たいなという印象を持ったのです。いうまでもなくノートルダム寺院は世界の文化遺産ですし、木造建築の文化遺産が多い日本としては、仏政府からの要請を待つのではなく、まず協力したいという意志表明があってもよかったのではないか、と思ったのです。

 

朝日デジタルには、官房長官の談話のあとに「再建時の技術的な支援などを検討していくものとみられる」という説明が書かれていました。募金運動などは、民間の役割ですから、政府としてできるのは「技術的支援」くらいかもしれません。それには仏政府からの要請も必要でしょう。そう考えれば、官房長官の談話は適切なのでしょうが、日本とフランスとの文化交流の深さを思えば、仏国民の心に響くようなに言葉があってもよかったと思います。日本政府が音頭を取った「ジャポニズム2018」が昨年、パリなどで開催され、「総動員数」は300万を超えたと、公式ホームページに記述されています。「日本政府として類を見ない規模で文化を発信する一大事業」(安倍首相のメッセージ)を展開したばかりですから、通り一遍のお見舞いではないぞ、という気概を見せてほしかったと思います。

 

ついでにいえば、この日の新聞で気になった第2は、元駐イラン大使のセクハラ疑惑です。社会面の2段という地味な扱いで、記事の内容も、セクハラにあったという訴えを外務省の女性職員が起こし、河野外相が退任後の元大使に注意をした、という概要が書かれているだけでした。しかし、テレビ朝日のモーニングショーを見ていたら、元大使とのインタビュー場面だけでなく、外相の「外務省は被害者に寄り添った対応をしている」という談話も放送されていました。被害女性は、何度も直属の上司や外務省に被害を訴えたそうですが、訴えは無視されてきたそうで、「心に寄り添う対応」がなかったと被害女性が言っていることもテレビは報じていました。

 

外務省が組織ぐるみでセクハラ事件を隠ぺいしようとした疑いがあるのに、新聞報道のなんというそっけなさでしょうか。「他紙が先行した」という“内部事情”があるのかしれませんが、人権問題に寄り添う姿勢が新聞に見られないのは残念です。私が驚いたのは、少なくとも外務省の内部では、このセクハラ事件が問題になっていたはずなのに、この大使が2017年に発足した日本イラン協会の会長に就任していたことでした。大過なく役人生活を終えた人への名誉職として外務省が用意したのでしょうが、セクハラ疑惑など「大過」のうちに入らないという役所の姿勢がよく見えます。

 

イランとの友好団体の会長に推したのは外務省の温情かもしれませんが、テレビ報道によると、この人事によって被害女性は事件を表に出すことを決めたそうです。温情が仇(あだ)になったというべきかもしれません。どこの組織にも「セクハラおやじ」はいて、それを温情だか、能力があるという理由で、かばっていることはあるのでしょう。しかし、外務省ではセクハラ事件が多発しているようで、「外交特権」を味わった人間のありようという点からのメディアの検証が必要だと思いました。

 

気になるニュースの第3は、航空自衛隊のF35Aの墜落事故の記事です。この日の記事は、墜落した機を含め、F35はこれまでに7回の緊急着陸をしていた、というもので、これも社会面2段の扱いで報じられていました。行方不明が報じられた4月10日の朝刊以後、何度か紙面で報じられていますが、1機140億円もするというこの最新鋭のステルス戦闘機の安全性についての詳報がないのは、納税者として納得できません。さらには、墜落したA型だけでなく、垂直離陸も可能なB型も含め、147機も配備するという政府の計画について、安全性や費用だけでなく、安全保障という観点からの記事が読者としては読みたいところです。

 

4月16日の社説では、「F35調達計画 立ち止まり原因究明を」という主張が書かれていて、調達計画の概要はわかりました。しかし、これまでのいきさつを思い返すと、貿易問題を持ち出したトランプ政権への配慮から1兆円を超える買い物をしているとの印象がぬぐえません。イージス・アショアを含め、米国の軍備を丸ごと購入することが日本の安全保障とどうかかわるのか、メディアにはもっと報じてほしいものです。そうなれば、原因究明だけではなく、調達計画そのものについても立ち止まり見直す契機になるのではないかと思いました。

熱心な新聞読者とはいえない日々ですが、ノートルダム火災につられて紙面を読んでいたら、いくつか気になることが浮かんだ次第です。

(冒頭の写真は筆者が2011年に撮影したノートルダム大聖堂を裏側から撮影したもの。裏側からは火災で崩落した尖塔が見えました)

 


この記事のコメント

  1. 射水市・小林 より:

    日本政府がフランス国民の心に届くようなコメントを出せないのは,現政権に「心」がないからです.「辺野古は唯一の解決策」一辺倒だったり,「任命責任を痛感」していながら口にしてみただけだったりと例示に事欠きませんが,首相が言葉を巧みに操るほどに,「美しい日本」のおぞましさが際立ってきます.東京五輪の開催を宣言するのが「心」のない人々であるのかと思うと,実に残念です.

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