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映画「帰ってきたヒトラー」の恐ろしさとおかしさ

2016.07.06 Wed
社会

実に傑作なドイツ映画を見ました。原題は「ER IST WIEDER DA」と言い、直訳すれば「彼は、再び其処に居る」となりましょう。 邦題は「帰ってきたヒトラー」とひとひねりしてあって、実に良く出来訳となっています。 将にヒトラーが帰ってきたのです。

それは何故か、良く分からないのですが、1945年4月自殺したアドルフ・ヒトラーが、現代ドイツのベルリンで、突如、汚れた軍服姿のまま目を覚まします。元総統官邸の敷地の一角で、2014年の或る時なのですが、その分けや事情は一切説明がありません。

もとより、これは実のところ、原作者「ヴェルメシュ」と言うハンガリー系ドイツ人が2012年に書いてベストセラーとなった作品の、導入せるフィクションなのですが、物語とこの映画の世界では、この復活ヒトラーを、物真似の上手な旅芸人として扱います。つまり、復活した当人は本物(の積もり)なのですが、廻りは「実に良く似た、そっくりさん」として遇するので、諸々の実に傑作な事態が生じ、遂には恐ろしいリアリティに富んだ結果も生ずると言うお話です。

幾つか、印象に残った点を記します。なお、作品は各地で上映中ですので、御関心のある向きは是非と存じます。

1 復活ヒトラーを演ずるのは、オリヴァー・マスッチと言うイタリア系ドイツ人の俳優ですが、190cmと言う長身ゆえ、また、もともとの風貌もあまり本物に似ていない由、しかし、メイクの偉力は絶大、且つその言動は、将に当人を思わせるものがありました。姿・形だけで無く、言説・仕草が往年のヒトラーにうり二つなのです。

さて、突然覚醒した当人は、廻りにデーニッツ元帥も側近のボルマンも居ないことに気付きますが、間もなく近くでサッカー遊びに興じていた少年達の縁で、雑誌売店と広告店を営んでいたファビアン・ザヴァツキと知り合いになります。ザブァツキは当人に良く似た、この男を「世に出せば受ける」と見て、縁あるテレビ局に売り込みを駆けます。すると、いろいろ曲折があったものの、この男はさる司会のテレビ番組に登場したり、ドイツ各地を訪ねて回る役廻りに乗っかって行く事になります。
2 ここで、フィクションながら、この物語の神髄と思われる局面が展開し始めます。復活ヒトラーと出遭った各地のドイツ人は、国の現状への不満を口々に表し、移民に反対などと言うのです。そして、懸かる事態に対処できる、強力な指導者を待望するとうったえます。こうした様子を見聞した、復活ヒトラーは、「1930年代と同じだ!」と応じます。

この映画でも、テレビで司会者と対峙する、復活ヒトラーの登場のさせ方や、その静から動に遷るところなど、かつてヒトラーの宣伝映画などに活躍したレニエ・リーフェンシュタール女史の手法を彷彿とさせるものがありました。

他方、自由・民主の価値を重んじる観点から、反ヒトラーの意見や評価を語る人も居ましたが、多くはありませんでした。
3 ここに二点気付いたことを記しておきます。

1) こうしたフィクションの作品であっても、俳優では無く街中の普通の人々が写る所では、その顔はぼかされていました。やはり、ヒトラーを扱う映画となると、現代ドイツでは、自分の風貌が映じるのは困る人々が結構居ると見えます。

2) 昂揚した場面になり、音楽が盛り上がって来ても、ドイツ国歌が流されるところは、ついぞ在りませんでした。まして、今は歌われなくなった、その一番が唱われる事は無かったのです。
4 ところで重要と思われるシーンについて記します。

ひとつは、終始認知症で登場していた、とても高齢のおばあさんが、復活ヒトラーを見て、突如正気に返り、「邪悪な男、大悪魔!」とののしった事です。この映画の生み出した、もう一つの覚醒ですね。このおばあさんは実はユダヤ人で、ナチスによる反ユダヤ主義やホロコーストを確かに覚えており、認知症ながら突然思い出したのです。

もう一つ、復活ヒトラーが、ネオ・ナチの連中とも対話するところがありました。だが、面白いことに意見が食い違い、彼等は復活ヒトラーに圧倒されたのです。時代や課題情況の違いもありましょう。若僧と練達の復活ヒトラーでは物が違いすぎたのでしょうか。不愉快にさせられた彼等は、復活ヒトラーを殴り倒し、気絶させてしまいます。実に傑作な対決でした。
5 なお、現代科学技術と復活ヒトラーの関係では、復活ヒトラーが、コンピューター、インターネット、ミサイル、原子力などに大いに興味を持ち、スビーディーな理解と認識を示したことが注目されました。

斯く面白く、興味津々であり、且つ、深刻に考えさせられる作品でした。ほんのさわりを記しましたが、御関心の在る向きには、あらためて是非と存じます。


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