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備忘録(2)米下院の議長選出の茶番劇

2023.01.07 Sat

議長が選出できずにいた米下院が7日、15回目の投票で、共和党のマッカーシー議員を議長に選出しました。投票が10回以上に及んだのは164年ぶりとか、まさに異例の事態ですが、混乱の影響は今後も続きそうです。

 

議長がなかなか決まらなかったのは、昨年11月の中間選挙で下院の多数派を占めた共和党のなかで、保守強硬派の21人が同党下院リーダーのマッカーシー議員を信認しなかったためです。下院の定数435議席のうち共和党は222議席、民主党は213議席で、過半数は218議席ですから、造反議員が少しでも出れば、過半数を獲得できないことになります。マッカーシー議員は、支持を得るために造反議員への譲歩を繰り返したようで、最終的には造反議員の15人がマッカーシー支持に回り、残る6人は議決に加わらなかったため、マッカーシー議員は216票で選出されました。

 

造反した保守強硬派は、共和党内の候補者選びでトランプ前大統領の支持を受けたトランプ派が多く、バイデン政権を困らせるためなら、どんな議事運営や妨害もいとわない人たちでしょう。今回、マッカーシー議長がこうした議員に妥協したことは、バイデン政権にとっても頭痛の種となりそうです。保守強硬派は、米国のウクライナ支援に消極的ですから、今後、米国のウクライナ支援の足かせにもなりそうです。

 

それにしても、なぜ、党のリーダーに従わない議員が20人余も出てくるのでしょうか。SNS時代だから、というのがその答えだと思います。党の指示に従う目立たない議員よりも、党の指示に反してでも自己主張する議員のほうがSNSによって有権者の支持を得たり、政治資金を集めたりできるからです。つまり、党のリーダーに反対することは恐くないということです。既成秩序にとらわれない言動ができるのです。

 

さらに、もうひとつの答えは、トランプ氏が民主主義のルールを壊したことです。選挙結果を尊重するというのは、民主主義の基本ルールですが、トランプ氏は、駄々っ子のように、「選挙は不正で、本当は僕が勝った」と言い続けました。今回の議長選でも、造反派の人たちの行動は、共和党の団結よりも、エスタブリッシュメント(既成の特権階級)のマッカーシー議員を困らせるためのように見えました。民主主義という仕組みは、ひとつの共同体が持つ擬制(フィクション)であり、幻想ともいえますから、そんなのはインチキだという人がふえれば、あっけなく崩れてしまうのかもしれません。

 

SNSは、政治家という特別な存在が国会という別世界で動かしていた政治を、日常のスマホの世界に招き入れる潜在力があると思います。知名度も資金力のない人が議員になることも、より可能になります。2018年の米下院選挙で、29歳で当選した民主党のアレクサンドリア・オカシオ=コルテス議員は、民主党の予備選では、選挙資金で到底かなわない同党の重鎮を破り、本選挙でも勝利しました。彼女が当選したときに、SNSのフォロワーは900万人で、当時のペロシ議長の4倍以上だったそうです。2020年の選挙でも当選、2期目の議員となりました。(下の写真はコルテス議員)

良くも悪くも、既存の政治秩序を壊すパワーをSNSは持っているようです。日本でも今後、支持基盤はSNSという政治家がふえてくるかもしれません。議会を欠席し続けているガーシー参院議員は、Youtubeの世界では有名人だったそうで、SNS時代の政治家の先駆かもしれません。

 

米議会の議長選をめぐる茶番劇は、いずれ日本でも同じような悲喜劇となって上演されることになるのでしょうか。

 

(冒頭の映像は、米議会で議長席に就いたケビン・マッカーシー氏。米議会の動画から)


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