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備忘録(16)秋本議員逮捕ー政策の歪みはないのか

2023.09.08 Fri

洋上風力発電事業をめぐる汚職事件で、秋本真利衆院議員が東京地検特捜部に受託収賄の疑いで逮捕されました。馬主組合への出資だから贈収賄にならないと、秋本議員は主張しています。その主張が法的に通るのかどうかは裁判所が判断することになりますが、それ以前に、国会質問などの権力を行使する政治家がそれによって利益を得る人から便宜をはかってもらえば、「利益相反」になるのは明らかです。

 

秋本議員の主張は、政治家の倫理に反しても、違法ではなければかまわない、ということです。こうした抗弁が通用すると思う政治家がいること自体が異常だと思います。日本の政治風土というのは、ここまで堕落しているのでしょうか。

 

メディアはこの事件における贈収賄の構造や秋本議員の人となりなどを報道しています。それは必要な情報だと思いますが、私が知りたいと思うのは、それよりも、秋本議員の国会質問や役所への働きかけで、洋上発電の公募ルールが昨年10月に変更された政策決定の正当性です。

 

朝日新聞(9月8日朝刊)は、経産省や国交省による公募ルールの変更は、「秋本議員が国会質問などで求めた変更内容にほぼ沿ったものだった」と報じています。議員による違法な疑いのある働きかけで、ルール変更がなされたのなら、そのルール変更が適切なものであったのかの検討が不可欠です。そのことについて上記の記事は経産省幹部の次のようなコメントを記しています。

 

「公募のルールは、審議会で全てオープンな議論をしてやってきているし、議事録も残っている。見直す必要はまったくない」

 

つまり適切な変更だったということでしょう。そうであれば、秋本議員の行為は、手段は間違っていたが、正しいことをした、ということになります。そうなのでしょうか。日本のエネルギーにとって、洋上風力は必要だと思いますから、それなら政府の政策としては、きるだけ低コストで普及をはかることが第一で、大手商社が落札しても問題はないはずです。ところが改定されたルールの趣旨は、収賄側の日本風力開発のような企業が参入しやすいようにすることです。となれば、コストというもっともわかりやすい基準以外のいろいろな不透明な要素が加味されたことになります。

 

役所の審議会が役所の政策を通すための隠れ蓑になっているのは「常識」ですから、「審議会を通している」などという言い訳は、何の免罪符にもなりません。犯罪を暴くのは警察や検察など司法当局の仕事ですが、役所の政策決定が適切だったのか、そのプロセスを検証するのは、国会やメディアの仕事です。政府に検証をまかせれば、「審議会を通しています」で終わってしまうだけでしょう。国会質問を契機とした政策変更ですから、官邸、関係閣僚なども変更に「関与」しているはずです。その関与は適切だったのか、その検証があいまいのままであれば、秋本議員の逮捕も「トカゲのしっぽ切り」との疑いを残したままになります。

 

朝日新聞(9月8日)の社説は、次のように書いています。

 

「再エネ拡大の切り札として、洋上風力に力を入れる岸田首相にとっても、ひとごとではない。秋本議員の働きかけで政策がゆがめられてはいないか、検証して明らかにするとともに、今後の政策遂行にあたっては、透明性の確保に努めねばならない」

 

いつものごとく「社説」は立派なことを書いていますが、自分たちが大手メディアという自覚があるのなら、国民の知る権利の代行者であるという自覚があるのなら、以下のように書き替えてほしいと思いました。

 

「この問題はメディアにとってもひとごとではない。秋本議員の働きかけで政策がゆがめられてはいないか、私たちも検証していく」

 


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