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大英自然史博物館の東京特別展 

2017.03.29 Wed
文化

大英自然史博物館の東京特別展
ピルトダウン人の贋作は日本のみで展示されると言う驚き
仲津 真治

平成29年(2017)3月18日(土)から圧巻の展示が、東京上野の国立科学博物館で始まりました。それは自然界の至宝と銘打って、英国が誇る大英博物館の一角を占め、原名を英語で「the Natural History Museum, London」と言う大博物館が、選りすぐりの百八十点余りを日本に貸し出して,行う展示なのです。邦題は「大英自然史博物館展」となっていました。

当日は月曜日で通常博物館・美術館などは定休日ですが、お花見の季節で人出が多いと予想されたためか、上野一帯が開いていました。ただ、生憎の雨、しかも時折の吹き降りでみぞれ混じりとなり、難儀しました。栃木県の山の方では雪崩ので遭難があった由、心配です。

ところで、会場は程々の人出で、段々混んで来ました。家族連れがとても多く、小さい子供が結構居て、賑やかでした。外国人は少なかったのですが、所謂理系女が随分居ました。「生物系?」と聞くと「そうです」との答え、時勢を見る思いがします。

1)   ピルトダウン人事件の紹介と展示

この中で、最も注目したのは、贋作で有名なピルトダウン人事件をどう展示し、如何に紹介しているのかでした。先ず、第一に普段から展示されているのかどうか、とすれば、どんな方途なのかに関心のポイントが行きました。
見学当日、この点について、学芸員への質問を残し、翌日メイルによる回答があって分ったことは、この事件の展示がロンドンでは為されていないと言う事でした。つまり、東京での展示と掲示が世界初との事なのです。
ただ、これはこの事態が今回初めて明らかになったと言う事ではありません。
事件は実を言うと、今から百年ほど前に起きています。1912年、イングランド南東部のサセックス州のピルトダウンと言う町で、或る化石が見つかったのです。

その時代の情況を記しますと、ダーウィンの進化論が発表されたのが1859年、その三年前にドイツでネアンデルタール人が見つかっていました。次いで、1868年にフランスでクロマニヨン人(ホモサピエンス)が、更に、1891年にジャワ原人が発見されていました。斯く、こうした貴重な発見・報告が相次いでいたのです。
2) 英国だけは発見が無かった、そうした中・・・・

ところが、大英帝国からは重要な発掘成果や知見が得られず、研究者、学者、関心を持つ人々に焦りの空気が充ち満ちていたと申します。

こうした事情を背景に、この大英自然史博物館のさる地質学者が、ピルトダウン周辺で発見された「エオアントロプス・ドーソニ」という学名の化石の事を発表したのです。斯く其処には、発見者ドーソン(アマチュア考古学者)の名も付けられていました。それは、人類と類人猿の間のMissing Link をちょうど埋める観がありました。当然、大発見と言う事になりました。

それから約四十年、この発見を真実とした前提で世界の人類学は廻って行ったと申します。
3)疑問の噴出と、人類学への悪影響

しかし、重大な疑問が出てきます。それらが指摘され、綿密な測定や実験が行われて、遂に、この発見の約四十年後その贋作たることが明らかとなりました。端的に言うと、この「ぶつ」は、現世人類の頭蓋骨にオランウータンの顎骨をくっつけたものである事が分ったのです。

本展示では、175番から178番までの骨各点が現物証拠として示され、それに二枚の写真と一枚の絵が関係者や追究者を示して補う掲示となっていました。

追って、本展示では、この捏造を行った人物を、断定していないものの、最初から最後までの関係現場に居た、発見者ドーソンが怪しいと見ている由です。現に、そうした解説がありました。彼は弁護士でもありました。もはや故人ですが、その動機たるや謎に包まれていると申します。
4) 教訓など

この事件の教訓としては、その時代の雰囲気、思い込みの効果が大きく、また、発表学者や当博物館自体の権威の存在は否定し難たかったようです。斯くて人類学はこの影響で、約四十年は廻り道をしたと申します。

それにしても、人類学における国家同士の競争意識は、往時凄まじいものがあったようです。それは他の学問分野でもそうかも知れませんし、全くの素人ながら現代でも散見されるように思います。

なお、既に知る人ぞ知るとなっていた、この事件の世界初の公開・展示の場に、東京上野の国立科学博物館が選ばれたとは、大きなサプライズですね。何故でしょう、ともに考えてみたいと思います。

5) 幾つか印象に残ったこと

1ピルトダウン展示の隣に、179としてネアンデルタール人のゲノムが展示されていました。それによれば、約三万年前までホモサピエンス(現世人類)と共存していた「ネアンデルタール人」のゲノムは99%までホモサピエンスと一致する由、この人類と極めて近かった種は、現代人と分岐した後、脳機能と神経システム、それに言語に関係したところに僅かな差異が生じていたとの事でした。

今回の展示は、ネアンデルタール人が、両親ともにほとんど同じのゲノムの持ち主から子供が出来ている事例を提示し、彼らの間で近親交配が著しく進んでいた事を明らかにしていました。それは、滅亡に向かっていたネアンデルタール人の人口減少の所産かも知れません。

なお、今回の展示は、ネアンデルタール人が現世人類と同じく、白眼を有していたかどうかについては、何も触れずじまいでした。因みに、犬、ネコ、猿、チンパンジーなどのいずれの動物も、白眼をほとんど持っていません。

他方、この展示は、2%程交雑が起きていたと推定されている現世人類とネアンデルタール人の間柄については、何も触れていません。
2   この博物館の歩み

18世紀初期に活躍した、有名な収集家で医師のハンス・スローンの七万点余りに及ぶコレクションを、その死後、国が買い上げて、所謂「大英博物館」が発足した由です。それは1753年の事、その後、英国の発展と拡大は、膨大な自然史関連の収蔵品をもたらし、到底古美術品の隙間などでは納らず、足の踏み場も無い状態が現出しました。

この窮状を打開すべく、解剖学者のリチャード・オーウェンが登場、ロビー活動を繰り広げ、大英博物館の分館を造り、自然史部門として立ち上げるよう、精力的に動いたのです。その成果として、「大英自然史博物館」が1881年に開館しました。荘重で巨大な建物ですが、高層ではありません。。
3    信仰と伝統から、観察、批評、実験へ

これは、1650年頃から1800年頃に掛けての時代の変遷を鋭く表わした言葉です。会場の展示にあり、感銘を受けました。それは別の言い方をすれば、中世から、近世へと言う事かも知れませんね。

4  古代エジプトのネコのミイラ

これは36の展示にありました。猫は、遅くとも約三万年前から飼われ始めた犬と違って、せいぜい約五千年前からと言います。ネズミを捕る能力に人が有用性を認め、古代リビアで飼育が開始されたと聞きます。 この可愛らしい展示は、リビア砂漠の一隅であるエジプトで生じたことを証明していました。

5     イグアノドン類の頸骨・・・恐竜時代

この古生物の想像図を見ると、小振りであれぱ現代のイグアナそっくりと思われます。でも、棲息していた時代は、中生代白亜前期の頃で、約一億三千万年も前です。恐竜の一種ですね。

因みに、恐竜即ちDinosaurusとの命名はリチャード・オーウェンの業績と表示されていました。
6      チャールズ・ダーウィンの進化論

有名となったが、その小ささ振り、つまり狭さをダーウィン自身が嘆いたというビーグル号のことが紹介されていました。併せて、1メートル余りに及び、二百歳まで生きたという巨大な陸亀と、ダーウィン自身のペットで在った言う十五センチ程の陸亀の剥製が置いてありました。キリスト教に対し、近代生物学の見方に繋がる決定的な展示でしたね。

7     日本に繋がること

この博物館は江戸時代の末期、日本への探検隊を派遣していました。それは、温帯に属しながら、四季の変化とともに、植物相や動物相が実に豊かな日本列島に注目したからです。

そのなかで、さる英国人女性研究家の調査・研究が実って、或る欧州産アマノリの生態解明と日本での養殖に成功した事が紹介されていました。Red aigaeとも呼ばれた、そのアマノリは一つの産業をこの国に興したと展示は語っていましたね。
8     サーベルタイガー

僅か一万二千年前まで、 サーベルタイガーと言う大型の肉食獣が北米大陸に居た由です。巨大な牙はまるで剣のよう、恐ろしい殺傷力を持っていたと推定されます。北アメリカの原住民は遭遇して居たに違いありません。
その他盛り沢山な展示でしたが、程々の見学時間に納りました。他方、本家の博物館自体、収蔵品が全体で約八千万点に達すると言います。恐ろしい数ですが、その数字はいろんな感慨をもたらすとも言えます。

本展示は、6月11日の日曜日まで、そして東京会場だけで終了します。


この記事のコメント

  1. 奥井英夫 より:

    仲津さま ご無沙汰いたしております。大英博物館展の偽原人の件拝読いたしました。ビルトダウン人についてはまったく存じておりませんでしたので、鑑賞の項目が一つ増えました。貴重な情報をありがとうございました。奥井

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