大手メディアが伝えない情報の意味を読み解く
情報屋台
政治
国際

今そこにある朝鮮危機

2017.04.13 Thu
政治

朝鮮半島で戦争が起こるのではないか、という心配が高まっています。米国も北朝鮮も、言葉のうえでの非難や挑発は高まる一方で、米空母カール・ビンソンの朝鮮半島近海への派遣は、戦争の現実性を示しているようにも見えます。

しかし、冷静に考えれば、いま米軍がただちに北朝鮮に攻撃を加える状態ではありません。米国によるシリア空爆では、化学兵器の使用を封じるための「限定爆撃」で、シリア・アサド政権を倒すのが目的ではない、というメッセージが米国からシリアに伝えられたようです。朝鮮半島でも、同じようなメッセージが伝わるようであれば、米軍は躊躇なく空爆に踏み切ると思いますが、北朝鮮は、米国が攻撃してくれば、「韓国の首都ソウルは火の海になる」と以前から警告しています。

いくら「限定」だと米国が主張しても、北朝鮮が全力で反撃してくれば、韓国や日本が無傷というわけにはいきません。全面戦争になれば、米国は地上軍を北朝鮮に送り込み、北朝鮮の首都ピョンヤンを制圧する必要がありますから、米軍も無傷というわけにはいきません。

日本の外務省が「スポット情報」で、韓国への滞在・渡航について注意を喚起したことから、「有事」が近いとの憶測が流れているようです。しかし、米国は、いよいよとなれば、韓国に滞在する自国民の避難を呼びかけるはずですが、いま現在、そうした情報は流れていません。東日本大震災による福島原発事故のときに、福島県内に居住する自国民に避難を勧めた米国大使館の対応ぶりを見れば、いま、米国が攻撃を決めている状態でないことは明らかです。

米国がいま、北朝鮮に対して戦争も辞さないという強い姿勢で臨んでいるのは、北朝鮮の核・ミサイル開発が米本土への大陸間弾道弾(ICBM)による攻撃能力を備える可能性が出てきたためです。韓国や日本が攻撃されることはあっても米本土への攻撃は許さない、という「米国第一主義」です。そのためには、北朝鮮を説得できるはずの中国に本腰を入れさせる必要があるということで、米国はいま中国に「圧力」をかけている最中です。これが不調に終わったときに、北朝鮮攻撃という選択肢が出てくるわけです。

米国の事情は、米本土の安全保障という、それなりにまっとうな理由だけではないと思います。支持率が低下しているトランプ政権は、「危機」をつくり国民の統合をはかる、という動機もあると思います。シリア攻撃で支持率は上向いたようで、やはり「危機」の効果は抜群なのです。

また、トランプ政権を発足当初から悩ませているのがロシアとの「癒着」です。米情報機関の情報では、ロシアのプーチン政権はトランプ大統領を誕生させるため、米大統領選挙に情報操作で介入したといわれていますし、トランプ氏本人やその周辺が以前からロシアと近い関係にあるのは、「情報屋台」に掲載された長岡昇さんの「権力者に『ゴミの山』と罵られたメディアへの讃歌」(2017年1月15日)でも明らかです。このままでは、ロシア疑惑を理由に弾劾裁判にかけられるおそれもあり、トランプ政権としては、ロシアと対立する場面を国民に見せたいと考えているはずです。

日本のテレビメディアが朝鮮半島危機で大騒ぎしているのは視聴率稼ぎという理由が大ですが、朝鮮半島危機をめぐり、いろいろな情報を発信している安倍政権にも、森友問題からの目くらましという願望があるでしょう。もちろん、北朝鮮の非核化は、日本にとって死活問題ですが、米国と北朝鮮との対立がエスカレートするなかで、沈静化に向けてのメッセージをまったく出さない日本政府には、それだけでない思惑もあると思います。

米国がいま、攻撃に踏み切る理由はないのですが、緊張が高まれば、「不測の事態」が起きるおそれもあります。先日、北朝鮮の最高人民会議に出席した金正恩氏の映像がニュースで流れていましたが、「目が泳いでいる」という印象で、金氏が心理的に相当追い詰められているように見えました。トランプ氏の強気な発言が米国による先制攻撃という誤ったメッセージとなり、「黙ってやられるぐらいなら先手を打って」という北朝鮮の「暴走」を引き起こすおそれもあります。ICBMでなければ米国は動かないと思って核実験をしたら、トランプ氏は米国に対する宣戦布告だと受け取る可能性もあります。何をするかわからないという「資質」は、金正恩氏だけではなくトランプ氏にもあてはまります。

米国が振り上げたこぶしを下ろすには、北朝鮮が核兵器とミサイル開発の放棄に応じることが不可欠で、北朝鮮からすれば、それには、米国が北朝鮮政府の存在を認め、攻撃をしないという確証が必要だと主張するでしょう。リビアの独裁者だったカダフィは、1986年に米国のミサイル攻撃で戦闘意欲をなくし、それ以降はおとなしくしていたといわれますが、2010年から11年にかけて起きた「アラブの春」の民主化運動にからんで、2011年に抹殺されました。米国からみれば、民主化を求めるリビア国民がカダフィを排除したとなるでしょうが、金正恩氏からみれば、おとなしくしても、最後はCIAの陰謀で殺される、とみていると思います。

今回の危機が回避できても、結局は北朝鮮の核・ミサイル開発をめぐるこの20年間の繰り返しになる可能性が高く、いずれ米国が十分な準備を重ねたうえで、金政権の排除に動く可能性はあると思います。そうならないためには、中国が北朝鮮を抑え込むことが必須ということになります。中国にとっては、面倒な役割かもしれませんが、「北朝鮮カード」を握っているという中国の存在感は高まります。

平和主義を貫く日本としては、中国への働きも忘れるべきではないと思います。

 


この記事のコメント

  1. Sung-Gi Kim より:

    日米政府は一貫して北朝鮮を一方的に悪者にしているが、小国が独立を守るためにあらゆる手段を講じる事は、当然の権利だ。核保有国は自国の核は棚に上げ、核を含む強大な軍事力で世界中に戦争を撒き散らしている。北朝鮮はこれまで他国を侵略したことはなく、侵略国家が一方的かつ不当に圧迫を加えている。北朝鮮の非核化を望むなら、平和的手段に徹して交渉すべきだ。

Sung-Gi Kim にコメントする コメントをキャンセル

内容をご確認の上、送信してください。

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)

政治 | 国際の関連記事

Top