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米朝首脳会談で問われる日本

2018.06.13 Wed
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「歴史的な」という形容詞が付いた米朝首脳会談が終わりました。事前の期待度からいうと、北朝鮮の核放棄についての具体的な時期や方法などが共同声明で示されなかったため、中途半端であいまいな合意だという印象を世界に与えました。たしかに、この会談は、いったん米国から中止が告げられたあと、金正恩委員長のトランプ大統領あての親書を含め、北朝鮮側からの要請で再び設定されたものと理解されていました。だから、米国側がずっと要求していた「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化」(CVID)という文言が必ず入ると思われていただけに、この程度の合意内容なら、いったん中止というのは何だったのだろうか、と思うのも当然だと思います。

 

メディアの報道も、米国が北朝鮮に「体制保証」という大きな特典を与えた割には、その見返りが少ない、という視点が強く出ていました。13日付け朝日新聞の国際報道部長の解説には、「自賛の合意、軽率な譲歩に不安」というトランプ批判の見出しがついていました。そうした批判はあたっていると思いますが、半世紀以上にわたって敵対してきた国同士が和解に向けて動き出すには、無条件降伏ではないのですから、段階的というプロセスも時間も必要だともいえます。下記のような共同声明が発せられたことは、「歴史的な」出来事だと素直に「評価」したうえで、この流れのなかで、世界と東アジアにどんな変化が起こるのか、それこそ歴史的な視点で考えることも必要だと思います。

 

トランプ氏は北朝鮮に安全の保証を与えることを約束し、金正恩氏は朝鮮半島の完全な非核化に向けた確固とした揺るぎない責務を再確認した。

 

第1の視点は、朝鮮戦争の終結と核・ミサイル問題です。北朝鮮の核武装やミサイル開発は、一般的な国家防衛の品ぞろえではなく、朝鮮戦争が継続しているという北朝鮮側の認識のなかで、進められてきたものです。朝鮮戦争の終結は、その意味で、北朝鮮にとっては、核・ミサイル放棄の前提となるものでしょう。

 

今回の共同声明には、朝鮮戦争の終結という言葉が盛り込まれませんでした。しかし、

共同声明には「板門店宣言」の再確認という言葉が盛り込まれています。板門店宣言では、朝鮮半島での非正常な現在の休戦状態を終わらせるという文脈のなかで、朝鮮半島の非核化という目標が示されています。この宣言を米朝の首脳も「再確認」したのですから、朝鮮戦争の終結という方向は明らかになったとみるべきでしょう。トランプ大統領は、米朝首脳会談後の記者会見でも、「今や朝鮮戦争がまもなく終わるという希望を持つことができる」と語っています。

 

上記の朝日新聞国際報道部長の解説には「記者会見でのトランプ氏は饒舌だったが、共同声明の内容は乏しい。意欲を示していた朝鮮半島終結を想起させる言葉が見当たらない」と、書いています。しかし、板門店宣言の再確認という言葉があり、会見でも終結への希望をトランプ氏が語っているのに、戦争終結を「想起」すらできないというのは、目が曇っているとしか言いようがありません。結果的には、トランプ氏の希望は、希望にすぎなかったということになるかもしれませんが、今後、少なくとも韓国は、戦争の終結に向けて積極的に動くでしょうし、北朝鮮の核放棄問題と同時並行して、戦争終結の動きが中国やロシアを含めた国際的な問題になることは間違いありません。朝日新聞には、そうした視点も含めた「国際報道」を期待したいと思います。

 

第2の視点は、トランプ政権の東アジア政策です。何を考えているのかわからない、というのがトランプ大統領への一般的な評価で、私もそう思ってきました。しかし、米朝首脳会談後の大統領会見では、一貫性のあるトランプ政権の外交姿勢を明確に語っていました。

 

朝鮮半島における米軍を削減するのかと問われて、大統領は次にように答えています。

 

私たちの兵士たちを家に帰してあげたいが、今の時点でそのつもりはありません。ただ、今後の交渉で「戦争ゲーム」をやめることになれば、巨額のお金を節約することになります。

 

朝鮮戦争を終結させ、「戦争ゲーム」をやめ、在韓米軍を削減することになれば、巨額の軍事費を節約できる、という考え方です。日韓軍事演習についても、これは「戦争ゲーム」だとしたうえで、「これに費やすお金は途方もないものです」と語っています。軍事費は、「仮想敵国」を想定したうえで、仮想敵国との戦争に勝つ軍備を整えることで、仮想敵国が戦争をあきらめさせ、戦争を抑止するというのがひとつの基本ですから、まさに「戦争ゲーム」です。その戦争ゲームが現実だとして、政治的影響力を行使してきたのが米朝首脳会談で、大統領の横にいたボルトン補佐官ですから、大統領のあからさまな発言に驚いたに違いありません。

 

トランプ大統領の考えを推し進めれば、いずれ在韓米軍、さらには在日米軍を撤退させて、軍事費を削減してそのお金を、減税を含めて米国のビジネスでの競争力を強化させることに使う、ということになります。しかし、朝鮮半島での戦争の危険が消えてなくなるわけではありませんから、米軍不在の穴を韓国は自力で埋めなければなりませんし、日本も同じことが言えます。これは、米国が東アジアで果たしていた警察官としての役割を韓国や日本が肩代わりしなければならないということです。

 

北朝鮮が核兵器を廃棄するためにかかる莫大な費用について質問されたトランプ大統領は、こともなげに「韓国と日本が北朝鮮を助けると思うし、韓国や日本は助ける準備をしている」と語りました。大統領がここまで言うからには、米韓や日米首脳会談で、非核化の費用は韓国と日本で持つ、という話が了解されているということでしょう。米国は、自国の東アジアにおける軍事的なプレゼンス(存在感)を弱めていくが、その空白部分は、日本や韓国など当事者が負うべきだ、というのでしょう。

 

わかりやすく国民受けする論理ですが、日本や韓国にとっては、大問題ということです。歴史的な視点で今回の会談をみたときに、米国がアジアから引く、という大きな流れに沿って一歩踏み出したということが重要であり、日本にとっては、軍拡を続ける中国とどう向き合うか、という問題が外交、防衛、財政面でより先鋭化するということになります。

 

またまた朝日新聞の紙面ですが、北朝鮮の非核化コストの肩代わりの問題と、東アジアの全体像についての考察がほとんどありません。「安倍首相は、非核化をめぐって、トランプ大統領にどんな約束をしたのか」は、今後、国会でも議論されると思います。なぜ、朝日がこの論点を落としたのかわかりません。また、米国の姿勢を踏まえての日中関係や日ロ関係を含めた東アジアの今後のあり方についての考察がないのは、編集責任者の能力の問題なのか、そうした記事を書ける記者がいないのか、わかりません。どちらにせよ、一読者からすると、情けないという思いがします。

 

第3の視点は、第2の視点の続きですが、このままトランプに日本が流されれば、巨額な軍事費を日本が負担し、しかも、その軍事費は米国の防衛産業を潤すことに費やされる、ということになりかねません。日中間の軍事的な緊張を高まれば、防衛にかかる費用は天文学的に膨らみます。経済力からみて、軍拡競争で、先にへたるのは日本です。となれば、両国間の緊張を和らげ、必要な軍事力のハードルを下げるしかないと思います。言うは易くですが、海軍力の強化を進めている中国と、軍備競争を弱める外交は、とても難しいと思います。

 

米国のイエスマンでしかない日本の政治の在り方を根本から見つめ直す時期にきている、ということでしょう。


この記事のコメント

  1. 福田大治 より:

    ご無沙汰しております!最後の「米国のイエスマンに~」、全く同感です。ある意味で、北朝鮮問題云々の前に日米関係を改めて考えなければならない、その意味でも今回の流れは好機だと考えます。

  2. 高成田 享 より:

    米国をにらみながら、自立した安全保障を構築するために苦闘してきたのが福田さんがご専門の南米の歴史だと思います。日本は、フォルクローレを聴きながら、アンデスの爪の垢でも飲まなければ…。

  3. 中北 宏八 より:

    国際報道部長の解説は、私も物足らなく感じていました。米国が軍事力を背景にした世界支配を断念するとき、冷戦構造そのままに日本がその肩代わりをする必要があるのでしょうか。中国はたしかに警戒すべき存在ですが、むしろ東アジア共同体のような平和的秩序づくりを目指すべきかと思っています。甘いと言われるかもしれませんが、交通通信の発達で世界が一つになっている現在、国家間の対立を前提にした勢力均衡論などからは脱却すべきではないでしょうか。

  4. 高成田 享 より:

    北朝鮮の核・ミサイル放棄はこれから紆余曲折があると思いますが、トランプ外交が東アジアのありかたにパラダイムシフトを起こす方向性が見えてきたように思います。そうなれば、日本の外交のありかたもご指摘のような方向に変えていくべき、というか、日本の平和と繁栄を維持しようとすれば、それしかないと思います。

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