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変わりたくても変われない自民党

2021.09.30 Thu

菅義偉首相を辞任に追い込んだコロナ感染症の蔓延ですが、首相がいよいよ辞める時期になったら、ウソのように感染者数が減っています。「こんなことならもう少し頑張るんだった」と悔やんでいるかもしれません。人生は皮肉です。

 

自民党は菅総裁に代わる新しい総裁に岸田文雄氏を選びました。岸田氏は10月4日に開かれる臨時国会で首相に選ばれ、岸田内閣が発足することになります。岸田さんのほか、河野太郎、高市早苗、野田聖子の3候補が争った総裁選を振り返れば、派閥による権力争いという点では、代わり映えのしないものだった一方、決選投票で争った岸田さんと河野さんの政策をみると、これまでの自民党とはずいぶん違うことを主張しているように思えました。

 

総裁に選ばれた岸田さんの第一声も「生まれ変わった自民党を国民に示す」でした。時代の変化に応じて自民党が変わろうとしていると見ることもできるでしょう。しかし、私には自民党の政策が行き詰まっているとしか思えませんでした。政策の行き詰まりは、いずれ政党の崩壊につながると思います。

 

岸田さんが掲げたのは「新自由主義からの脱皮」で、規制緩和や構造改革によって持てる者と持たざる者とに分断された格差社会を「成長と分配の好循環」を通じて立て直すと言っていました。規制緩和による成長路線は、小泉内閣以来、菅内閣まで一貫して流れていた経済政策で、その結果、社会的な格差が広がったのは明らかです。典型的なのが雇用形態の規制緩和で、派遣労働が広がることで、非正規労働者が大幅にふえた結果、労働者の賃金が伸び悩む一方、企業の利益や内部留保は増加しました。

 

新自由主義からの転換や格差是正のための分配政策の重視は、立憲民主党などの野党が掲げる経済政策の基本で、それを自民党の総裁候補が取り上げたことに驚きました。もちろん「分配」政策だけでなく成長も掲げ、「所得倍増計画」などと言うのは自民党的ですが、このまま新自由主義を続けていては、少数の富める者がますます富み、大多数の貧しい者がさらに貧しくなるという感覚を、国民の声に耳を傾けたという岸田さんも実感しているのだと思います。

 

河野さんの取り上げた「将来は原発ゼロ」という原発政策も、再稼働を認めるという点で穏やかではあるものの、「原発の新増設は行わず、すべての原発の速やかな停止と廃炉をめざす」という立憲民主党の主張と同じような流れに沿っているように思えます。また、年金の基礎年金部分を最低保障年金として年金保険料ではなく全額国費(税金)で賄うという年金改革も、10年前の民主党政権がマニフェストで掲げながら実現できなかった「月額7万円の最低保障年金」と同じ考え方です。

 

河野さんが民主党に歩み寄ったというよりも、すぐに全廃は無理だとしても将来は原発ゼロの社会が良いというのは国民の多数意見であり、再生エネルギーなどの開発が新たな雇用や成長をもたらすという「グリーンディール」政策も欧米諸国が取り組みはじめている政策です。河野さんもそれを理解し、その旗振り役になりたいと思っているのでしょう。

 

河野さんが一般党員の投票では40%を超える得票をしながら、議員票で岸田さんに大きく差をつけられた要因のひとつは、自民党にとって脱原発政策というのがまだまだ過激な政策だからでしょう。原発の維持を求めているのは、原発という巨大な設備を保有する電力業界だけではなく、再稼働を含め原発の維持管理で大きな利益をあげる電機メーカーなど原発関連産業もあります。さらに、原子力政策を長期にわたって維持してきた経済産業省の官庁の存在も大きいと思います。こうした“原子力ムラ”の力が河野さんが首相になることを阻止する方向に働いたのだと思います。

 

それでは首相になる岸田さんの脱新自由主義はどうでしょうか。高市さんに肩入れした安倍元首相は決選投票では岸田さんを推したとみられていますが、岸田さんの脱新自由主義は、脱アベノミクスでもあるはずですが、背後霊のように張り付いた安倍さんが新自由主義からの転換をすんなりと認めるとは思えません。岸田さんは「新しい日本型の資本主義」などと言っていますが、新自由主義で潤った経済界が労働者への分配をふやすような政策を支持するとは思えません。自民党という政党が脱新自由主義政策を進めることは、自分の支持基盤に歯向かうことになるわけで、岸田さんの「脱新自由主義」は、掛け声倒れに終わるしかないと思います。

 

欧米をみれば、経済政策の軸足は新自由主義から社会民主主義に移りつつあります。それに伴って、政策を実行する政党も、これまでとは違う政党に変化しています。米国では共和党から民主党へ、ドイツでも中道右派から左派への主導する政党の政権交代が起きています。

 

日本の場合、小選挙区が中心になっているのに、野党がまとまっていないことや、野党の中心となる立憲民主党が電力労連などに忖度して、脱原発へのエネルギーが強まらないなど、国民に政権選択を迫る力がまだ備わっていないように思えます。変わりたくても変われないのは自民党だけではなく野党も同じでしょう。

 

「わかっちゃいるけどやめられない」自民党政治が悶々と続けられるなかで、不十分な「分配」で貧富の格差は広がり、グリーンディールの不発で欧米からさらに遅れをとることで、1990年代以降の長期停滞はこれからも続くのではないでしょうか。

 

中国や韓国などとの近隣外交の改善、菅さんが最後までできなかった国民へのアピールなど岸田さんに期待できる面もあります。岸田政権の具体的な政策については、あらためて論じてみたいと思います。

(冒頭の写真は自民党のHPから)


この記事のコメント

  1. 杉浦 右藏 より:

    各氏のなかなか素晴らしい御意見に感謝しています。

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