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問題の学校法人、さらに5000万円を融資

2020.09.30 Wed

市民オンブズマンとして、山形市の学校法人がグループ企業に3000万円融資した問題を調べてきましたが、この学校法人がさらに理事長個人に5000万円の融資をしていたことが9月24日、新たに判明しました。

この学校法人の理事長と企業の社長は同一人物で、吉村美栄子・山形県知事の義理のいとこの吉村和文氏です。いずれも「利益相反(そうはん)行為」に当たりますが、県も学校法人も私立学校法に定められた手続きを踏んでいませんでした。

吉村和文氏が理事長をしている学校法人は「東海山形学園」で、東海大山形高校を運営しています。3000万円の融資は2015年度に東海山形学園がダイバーシティメディア(旧ケーブルテレビ山形)に対して行ったものですが、この学校法人は2013年度にも吉村理事長個人に対して5000万円を貸し付けていたことが分かりました。私学助成を担当する山形県学事文書課は「事実関係を調査中」と表明しています。

3000万円の融資に関しては、私が山形県にこの学校法人の財務書類の情報公開を求めたところ、県側は文書の詳細な部分を白塗りにして隠し、不開示にしたため、情報公開を求めて裁判に訴えました。この間の経緯はすでに、情報屋台のコラムでお伝えした通りです。一審の山形地裁では敗れたものの、控訴審の仙台高裁で逆転勝訴し、高裁は山形県に財務書類の全面開示を命じました。県側は最高裁に上告しましたが一蹴され、判決が確定しました。5000万円の融資はこの判決に基づいて開示された財務書類を精査して判明したものです。

山形県は裁判になった財務書類の不開示決定のほかにも、別の情報公開請求に対して「存否応答拒否」の決定をするなど不可解な対応をしてきました。「なぜ、そこまで無茶苦茶なことをするのか」といぶかしく思ってきましたが、今にして思えば、この5000万円融資のことも隠したかったのかもしれません。

5000万円の融資はグループ企業に対してではなく、グループを率いる吉村和文氏個人に対する貸付で、学校法人の理事会で検討され、追認の手続きが取られたかどうかも今のところ分かっていません。

吉村一族の企業・法人グループについては、山形県の入札や業務委託をめぐってさまざまな疑惑が表面化しており、なお追及中です。県知事の吉村美栄子氏は3000万円の融資について「学校法人が適切に運営されているのであれば、よろしいのではないか」などと釈明してきましたが、「適切な運営」という前提は崩れ去ったと言うしかありません。

吉村知事と一族企業グループの問題について、当地の月刊誌『素晴らしい山形』の10月号に20回目の寄稿をしました。5000万円の融資が判明する直前に書いたものです。問題の経緯と背景を詳しく説明していますので、長い文章ですが、ご一読ください。

   ◇   ◇

知事12年でも「道半ば」?   あと何年居座るつもりか

 

権力の座に長く居続けると、人はこんな風になってしまうものなのだろうか。

山形県の吉村美栄子知事の言動を見ていると、普通の人の普通の感覚が分からなくなり、自分に都合のいい見方しかできなくなった人間の悲哀を感じる。

学校法人の東海山形学園が民間企業のダイバーシティメディア(旧ケーブルテレビ山形)に3000万円の融資をした問題は、ごく普通に考えれば、「おかしなことだ」とすぐに分かる。金を貸すのは学校の仕事ではない。資金が必要なら、銀行に頼めばいい。

そのうえ、この融資では学校法人の理事長と会社の社長は同一人物、吉村知事の義理のいとこの吉村和文氏である。「グループの中で学校の金を使い回している」と見るのが当然ではないか。「そんなことが許されるのか」と疑問を抱くのが普通だろう。

火のないところに煙は立たない。腐敗のないところから腐臭は漂ってこない。

4年前、この融資のことを月刊『素晴らしい山形』の記事で知った時、私は強烈な腐臭を感じた。元新聞記者として「これをきちんと調べていけば、臭いの元にたどり着ける」と直感した。

取材は素朴な疑問を解くところから始まる。最初の疑問は「なぜ、銀行に金を貸してくれるよう頼まなかったのか」ということだ。「銀行に頼めない事情があったから」と推測した。

その推測を立証するのは、それほど難しいことではない。吉村和文氏の自宅や彼が率いる会社の土地・建物の登記簿を調べればいい。山形地方法務局に行って手数料を払えば、誰でも登記を見ることができる。

山形市小白川町にある吉村和文氏の自宅の登記簿は、土地も建物も抵当権が何重にも設定されていた(図1)。映画館を運営する「ムービーオン」が山形銀行や荘内銀行から億単位の資金を借りた際、社長として自宅の土地と建物を担保に提供したからだ。これだけ抵当権が設定されてしまえば、自宅の土地や建物にはすでに担保価値はない。

吉村一族の企業グループの中核、ダイバーシティメディアはどうか。図2のように、その登記簿も真っ黒だった。4階建ての本社ビルからケーブルテレビの放送施設やテレビカメラまで、一切合切まとめて銀行の抵当に入っていた。こちらも、これ以上抵当権を設定するのは無理だと分かる。

多額の借金を抱える「ムービーオン」の登記簿は調べるまでもない。要するに、吉村一族の企業グループにはこの時期、担保として提供できるものがなかったのである。担保のないところに、銀行は金を貸したりしない。そこで、資金が潤沢な学校法人から回したのだ。

こうしたことが分かった段階で、東海大山形高校を運営する東海山形学園の財務調査を始めた。貸した側からも「3000万円融資」の事実を確認したかったからだ。

学校法人は政府や都道府県から私学助成を受けており、資金収支計算書や貸借対照表などの財務書類をすべて監督官庁に提出している。そこで、情報公開制度を使って、山形県に財務書類を開示するよう請求した。

それに対して、山形県は詳しい項目と金額を白塗りにして隠し、開示しなかった。不開示の理由は「開示すると、その学校法人の正当な利益を害するおそれがあるから」というものだった。「財務書類を公開すると正当な利益が害される」などということは、あるわけがない。

一部上場企業の場合、そうした財務書類を公表することが法律で義務づけられている。それによって、ライバル企業に秘密やノウハウが漏れて損をしたなどということは聞いたこともない。ましてや、公的な助成を受けている学校法人でそうしたことが起きるなどとは到底、考えられない。

山形県の不開示決定は違法と考え、裁判所に訴えた。一審の山形地裁では敗れたが、仙台高裁ではこちらの主張が全面的に認められた。詳しい経緯は今年の本誌5月号でお伝えした。県側は上告したが、最高裁に一蹴され、9月10日に渋々、書類をすべて開示した(図3)。

この裁判と並行して、「利益相反行為」についても県に情報公開を求めた。同じ人物が代表をつとめる会社と学校法人の間で金の貸し借りをすれば、どちらかが得をして片方が損をする可能性がある。この3000万円の融資は、典型的な利益相反行為に当たる。

こういう場合、民間企業なら取締役会や株主総会で承認を得れば済むが、公金が注ぎ込まれている学校法人の場合はそれほど簡単ではない。私立学校法に特別の規定があり、「所轄庁(山形県)は特別代理人を選んで、学校法人の利益が害されないようにせよ」と定めていた。

山形県はその責任を果たしたのか。それを確認するため、「特別代理人の選任に関する文書」の開示を求めた。すると、県は「存否(そんぴ)応答拒否」という、とんでもない決定をした。「文書があるかどうかも明らかにできない」というのだ。理由はまたしても「学校法人の正当な利益を害するおそれがあるから」。懲りない人たちだ。

今度は裁判ではなく、県の諮問機関である情報公開・個人情報保護審査会に異議を申し立てた。審査会の専門家もあきれたのだろう。「そもそも決定にあたり、慎重かつ十分な検討が尽くされたのか」と苦言を呈したうえで、存否応答拒否を取り消す答申を出した。

この答申を受けて、県は同じ9月10日に「文書はありませんでした」と認めた。私立学校法に定められた「特別代理人の選任」という責務を果たしていなかったのである。

吉村知事は9月15日の記者会見で、この問題について問われ、こう答えた。

「特別代理人の選任については、利害関係人である学校法人(東海山形学園)から県に選任の請求がありませんでした」

そんなことは分かっている。ポイントは、学校法人から請求がない場合、「所轄庁は職権で選任しなければならない」と私立学校法で定められていることだ。つまり、どんな場合でも、県は特別代理人を選任して学校法人の利益が害されないようにしなければならないのだ。

この点については「学校法人の財務書類等からは、選任の必要性を判断することは非常に困難であります。県としては知り得なかったわけであります」と釈明した。驚くべき発言だ。知事みずから、「担当職員の目は節穴なんです」と認めたようなものである。

思い起こしていただきたい。この3000万円の融資問題は、月刊『素晴らしい山形』の発行人である相澤嘉久治(かくじ)氏がダイバーシティメディアの貸借対照表を見て気づいたことから発覚した。

相澤氏は会計の専門家でもなんでもない。素人である。そういう人が見つけられるものを、仕事でチェックしている県職員が見つけられなくてどうするのか。

知事は「当該取引(3000万円融資)について県で法人に確認をいたしましたが、理事会で追認を行い、適切に対応されていたということでありました」とも述べた。「借りた金は返したし、後日、理事会で追認されたのだから何も問題はない」と言いたいのだろう。

利益相反行為をした当人(吉村和文氏)と同じ理屈、同じ説明をしている。行政は公平、中立の立場で物事を考え、対処するところであるということを忘れているようだ。

毎年、億単位の血税を助成している学校法人で起きたことなのだ。県には監督官庁として「なぜ融資が必要だったのか。貸し倒れに備えて、担保や保証人は確保していたのか」といったことをきちんとチェックする責任がある。「追認されたから問題ない」というような簡単な問題ではない。

東海山形学園の理事会のメンバーを見てみよ。理事長の吉村和文氏に抜擢された元校長や和文氏と昵懇(じっこん)の間柄の市川昭男・前山形市長ら、和文氏のお友達がずらりと並んでいる。理事会での追認の内実も想像がつこうというものだ。

記者会見で、吉村知事は東海山形学園の融資問題についてしつこく追及された。あまりのしつこさに、知事は「なぜそこまで問題にされたのかな、ということもちょっと思います」と、愚痴までこぼしている。

「甘ったれるんじゃない」と言いたい。3000万円を借りたダイバーシティメディアには設立されて間もなく、山形県が1200万円の出資をしている。山形市や天童市、上山市なども出資した。いわゆる「第三セクター会社」で、今でもそれぞれ株を保有している(図4)。そういう会社が、人件費など経常経費の半分を税金で賄っている学校法人から3000万円も借りたのである(この学校法人への私学助成は年間3億円から4億円)。

しかも、知事当選後の2009年の資産公開で、吉村知事はこの会社の株主であることが明らかになっている。翌年以降の資産公開では、ケーブルテレビ山形(当時)の株は保有資産一覧には登場しない。

「さすがに好ましくないので手放したのか」と思って調べてみたら、何のことはない。長男に譲っただけだった。株主名簿を見ると、「吉村美栄子」と記してあったところに、長男の展彦(のぶひこ)氏の名前が載っている。資産公開の対象から外すためと見られ、一種の脱法行為をしているのである。情けない政治家だ。

学校法人をめぐっては、これまで様々な不正や不祥事が表面化した。学校法人を代表する理事長が関与しているケースも少なくない。

文部科学省はこうした事態を重く見て、2004年に「理事長についてはできる限り常勤化を図り、兼職の制限を行うことが期待される」との事務次官通知を出した。それを受けて、高等教育局私学行政課は「理事長については責任に見合った勤務形態を取り、対内的にも対外的にも責任を果たしていくことが重要と考える」との文書を発出した。

吉村和文氏のように「数多くの会社を経営して学校法人の理事長も兼ね、学校には滅多に顔を出さない」というようなことは好ましくない、とはっきり言っているのだ。

だが、山形県の学事文書課はこうした文書を漫然と各学校法人に流しただけで、具体的な指導は何もしていない。知事に至っては、こうした通知すら知らないのではないか。

どんな社会でも、教育はその社会の礎(いしずえ)であり、教育が揺らげば、社会そのものが揺らぐ。教育の営みは、文字通り「未来づくり」である。そういうところで、3000万円もの怪しげな融資が行われた。そして、監督する立場にある知事が「学校法人の運営が適切に行われているなら、問題ないのではないか」と平気でうそぶく。それがまかり通ろうとしている。

教育関係者はこの問題をどう見ているのか。高校を運営する学校法人の理事の一人はこう語った。

「私どもは授業料にしても私学助成にしても、教育のためにいただいています。その資金は教育活動のために使うのが当然と考えています。資金を運用するにしても、公正さと透明さが求められるのではないでしょうか」

救われる思いがした。

吉村知事は来年1月の知事選に立候補するかどうか、まだ態度を明らかにしていない。だが、鶴岡市内で開かれた農林水産関係者との会合で出馬を促され、「エールをいただいた。まだ、道半ばという思いもある」と応じた。意欲満々のようだ。

3期12年もつとめて「道半ば」とは恐れ入る。あと何年つとめるつもりなのか。いったい、何がしたいのか。

 

*「◇ ◇」以下は、月刊『素晴らしい山形』2020年10月号の連載⑳を転載(一部手直し)

*図1から図4は、クリックすると表示されます

≪写真≫

◎月刊『素晴らしい山形』2020年10月号の表紙イラスト。人物は吉村美栄子・山形県知事と義理のいとこ、吉村和文氏

 

 


この記事のコメント

  1. 高成田享 より:

    学校法人が法人理事長に融資というのは、学校法人という公的な組織を理事長が私物化していることになり、モラルの問題ではなく、違法行為ではないでしょうか。新聞メディアは、この問題を取り上げていないのですか。

  2. 長岡 昇 より:

    監督官庁(この場合、山形県)は利益相反行為がある場合、私立学校法に基づいて利害関係のない第三者を特別代理人に選んで、チェックさせる責任があります。それをしていないのですから、私立学校法違反ですが、罰則はありません。また、借りた側は金を返していますので実害はない模様で、山形県は「違法性はない」と説明しています。さらに、政府(文部科学省)は昨年、私立学校法の改正案を国会に提出し、可決されました。改正法では特別代理人を選ぶ必要はなくなっています。この間の経緯については、文部科学省高等教育局私学行政課に問い合わせているところです(ずっと返事がありません)。

  3. 長岡 昇 より:

    当初はメディアも議会も黙殺状態でしたが、情報不開示で裁判を起こした頃から、それなりに報道するようになりました。県議会でも取り上げられ始めています。新聞は、地元の山形新聞以外は扱いは小さく、すべて県版扱いです。新たに判明した5000万円の融資問題は、共同通信が9月25日に配信したようなので、全国の地方紙にも一部掲載されたのではないかと推測しています。

  4. 高成田享 より:

    実害がなかったから違法性はない、というのは結果論ですね。融資した段階で、学校法人にリスクを与えているのは明らかです。県が資料の公開を渋った理由がよくわかります。

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