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困難にぶつかっても、とことん取材--新聞協会賞受賞者の講演から

2021.12.26 Sun

横浜のニュースパーク(日本新聞博物館)で開催された「新聞協会賞受賞者講演会(第2回)」を聞いてきました。ニュースパーク会場とZoom併用の開催でしたが、あえて会場参加を選びました。(2021年12月18日)

 ※2021年度新聞協会賞の発表

講演者は、朝日新聞、NHK、河北新報の方々でした。NHKって新聞協会に入ってるの?という疑問を持つ人もいそうですが、NHKと主要民放も加盟しています。
(第1回は、中日新聞・西日本新聞、毎日新聞、高知新聞の人が登壇したのですが、都合で聞けず残念でした。)

◎朝日新聞「LINEの個人情報管理問題のスクープ」 峯村健司氏(編集委員)

朝日が受賞した調査報道は、LINEの顧客データが中国内の関連会社から閲覧できるようになっていたというのを明らかにしたものです。

 ※朝日記事
 ※LINEの発表 

きっかけはITに詳しいある芸能人から、政府や自治体が軒並みLINEを使っているけど、個人情報が流出する恐れがあるのでは?という指摘をもらったことでした。そこからLINE中国の存在が浮上してきました。調査が進むにつれ、LINEのすべての画像、動画が韓国内で保管されているこということもわかりました。

取材におよそ半年かけて満を持してスクープ記事を掲載した日は、Yahoo!ジャパンとLINEの経営統合発表から16日後のことでした。

LINEに限らず、情報の重要さを自覚していない組織がかなりあるという印象を峯村さんは持っています。

峯村さんは、学生のときに朝日のリクルート報道を見て記者になりたいという気持ちになったそうです。

◎NHK「緊迫ミャンマー 市民たちのデジタル・レジスタンス」  善家賢 氏(放送総局大型企画開発センターチーフプロデューサー) 

NHKが受賞した報道は、昨今ジャーナリズム界で話題の「オープンソース調査(OSINT=Open Source Intelligence)」の実践例と言えます。

  ※ウェブ特集 

報道は「現地に行ってナンボ」と考えてきた善家さんにとって、コロナがもたらした取材の制約はOSINTへの取り組みを後押ししました。つまり公開情報から事実を追求することです。

ミャンマーから届くのは軍の発表ばかりでした。善家さんの率いるチームは、デモに参加していて銃で撃たれて死んだチェー・シンさん、通称「エンジェル」さん(19歳)の死の真相を突き止めました。複数の市民がアップしていた動画を突き合わせて、専門家の判断も得て、自動小銃、つまり軍しか持ってない銃によるものだと解明したのです。

今後は、社を超えてどこまで連携できるかは未知数ながら、メディア間協力ということを課題として善家さんは意識しています。

◎河北新報「東日本大震災10年」  今里直樹氏(編集局報道部長)

企画に当たっては全社員にアンケートを取りました。“アニバーサリー報道”に意味があるのかとか、このテーマじゃ新聞が売れないよと声もありました。しかし、地元紙の使命として、震災の記憶を風化させたくないという思いでやることにしました。

  ※ウェブ特集 

記者全体のうち今や2割は震災後に入社した人たちだと言います。今里さんは、担当に当てた若い記者を見て、知らない強みもあるんだなと感じたそうです。

読者からは「もう見たくない」という反応がかなりあり、「自分たちはいったいいつまで被災者をやってればいいのか」という声も届きました。

おまけに、311の8年前に宮城県沖地震があって、次に備えるための記事もかなり載せたりしていましたが、いったいあれが役に立ったのだろうかという忸怩たる思いもありました。
それでも、10年という長い間ずっと地元の人たちとつながって来たというのが地元紙としての自負であると今里さんは言います。

会場に全国紙への就職が決まっている人がいて、全国紙の役割について質問しました。それに対して、今里さんは、全国メディアから気づきをもらうことがあるし、また世論や政府を動かすには全国メディアの力は大きいというメッセージを送りました。

毎年100万部も部数が減っていくような厳しい状況にある新聞ですが、マスメディアとしての役割は依然として大きいということが報告から実感できました。経営的には恵まれているNHKですが、映像メディアならではの取り組みにおおいに期待しています。

注)写真はいずれもニュースパーク(日本新聞博物館)にて

付記:最近筆者が外部で書いた記事です。お読みいただければ幸いです。
ネットワーク型地域報道への期待 「メディア展望」2020年10月号
デジタル新聞の歩き方(上・下) 「朝日新聞デジタル Web論座」2021年8月31日、9月1日
平面から立体へ―デジタル化が開く新聞の新世界 「教育改革通信」2021年12月号


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