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争点なき選挙の「笑顔」効果

2026.01.28 Wed

「高市早苗の高市早苗による高市早苗のための解散総選挙(敬称略)」。朝日新聞の「多事奏論」欄(1月24日)に掲載された高橋純子編集委員のコラムが見抜いた通りの選挙戦が始まりました。

 

選挙の争点は何か、多くのメディアは、消費税が争点だとして、各党の消費税についての公約を並べて、論じています。しかし、消費税よりも社会保険料だというチームみらいを除けば、どの党も消費税を引き下げるかゼロにするかという主張で、有権者には似たり寄ったりの公約に見えます。

 

これまで消費税に手を付けることには消極的だった自民党ですが、各党が物価対策として消費税を選挙公約に掲げたためか、「飲食料品を2年間限定で消費税の対象からはずす」という公約をあと出しジャンケンで加えました。その結果、野党の主張する消費税減税のインパクトがなくなったように思えます。

 

そうなると、選挙の争点は、高市首相が提起したように、「高市早苗が内閣総理大臣でよいのかどうか」(1月19日の記者会見)、ということになるのでしょうか。高市内閣への支持率は高いですから、高市さんとしては、自分への信認選挙にしたい、と考えたのでしょう。しかし、発足して間もない高市政権が何をしてきたのか、また何をしようとしているのか、その具体策はほとんど国民に示されていませんから、有権者にとっては、高市政権への判断材料が少ないように思えます。

 

危ういなと思ったのは、高市さんが19日の会見で、次のように語ったことです。「予算成立のあとに政府が提出しようとしている法律案、これもかなり賛否の分かれる大きなもの。だからこそ国会が始まる前に国民の皆さまの信を問いたい。信任をいただけたらこれは力強く進めてまいります」。

 

予算成立のあとに提出される「賛否が分かれる法律案」が何なのかについて、首相は明確に語っていません。だから、今回の選挙で有権者に求めているのは、高市さんへの白紙委任状ということになりかねません。

 

自民党の選挙公約をネットで見ると、自衛隊の明記や緊急事態対応などの憲法改正、皇族の養子縁組を認めて皇統に属する男系の男子を皇族とする皇室典範の改正、旧姓の通称使用の法制化、などが書かれています。

 

これは、憲法9条を改正し、女性天皇の道を塞ぎ、選択的夫婦別姓制度の機運をつぶす、ということでしょう。こうした賛否の分かれる問題こそ、本来なら、国会でじっくりと論議してもらいたいものですが、高市さんは選挙に勝てば、国民の信任を得たとして、国会論議もおざなりに多数決で進めようというのでしょうか。民主主義にとって危ない話です。

 

隠された争点はあるのに、表向きは争点にならない消費税が争点の選挙となれば、いちばんの争点は、この100日の高市首相の「印象」ということにならないでしょうか。そして、高市さんへの印象となると、なんといっても、あの笑顔です。これほど笑顔を見せる首相を見たことはありません。「目は笑っていない」とか「気持ちが悪い」とか言いたくなりますが、支持率が高いのは、あの笑顔が多くの人に好印象を与えているのでしょう。

 

最近、関西学院大学教授の善教将大さんが書かれた『民度―分極化時代の日本の民主主義』(中公新書)を読んだら、興味深い実験結果が書かれていました。18歳から22歳の若年有権者を対象にして、候補者の笑顔が投票行動にどの程度影響するか、という調査です。

 

何人もの架空の候補者の真顔と笑顔の写真を用意します。そして、ひとつのグループには、ランダムに選んだ候補者の写真とともに、その人の政党、経歴などの情報を示し、もうひとつのグループには、最初のグループに示した写真と情報のほかに憲法改正、消費税増税などの具体的な政策への姿勢を加えて示します。そこで、どの候補に投票するかを答えてもらいます。

 

この実験で得られた結果は、政策の情報がないグループでは、笑顔が投票選択に与える影響はおよそ14ポイント、政策が示されたグループでは、笑顔の効果はおよそ7ポイントで、政策が示されなければ笑顔がより大きな影響を投票行動に与える、というものでした。

 

判断材料が少なければ、笑顔の候補者に入れる傾向がある、という結果は、そうだろうな、と思います。調査対象は若年層でしたが、こうした傾向は、どの年代にもあてはまるでしょう。

 

高市さん陣営の参謀がこの本を読んで、具体的な政策などの情報が少ない時期に笑顔の選挙をと、考えたとは思いませんが、消費税などの争点はぼやかして高市さんの笑顔を選んでもらう選挙、という戦略はあるのだろうと推測します。

 

政策論議は、妥協の余地もでてきますが、「顔選び」となると、好きか嫌いしかなく、感情的な対立が生まれます。善教さんも『民度』のなかで、民主主義の政治を危うくするものとして「感情的分極化」をあげています。米国の共和党対民主党の対立もトランプの登場によって、トランプが好きか嫌いかの感情的分極化を強め、両党の対立を激しくしているように見えます。

 

今回の選挙で政策論争は生煮えになりそうですが、せめて「感情的分極化」を強めるものにはなってほしくない、と切に願います。

 

(冒頭の写真は、1月26日に日本記者クラブで行われた7党首討論会)

 

 


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