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遠藤誉の近著「習近平対トランプ」で読み解くもの 

2017.07.31 Mon
社会

昭和16年(1941)生まれで、チャイナの吉林省長春市出身の日本人学者の遠藤誉女史(昭和28年帰国 筑波大学名誉教授 理学博士)が、表記のような新著を上梓したというので、早速入手し、読みました。それに、同著は少し前に世に大きくアピールした「毛沢東ー日本軍と共謀した男」(新潮新書)を補完し、フォローする面も在りましたので、注目したところです。

本書は内容が多岐に渉り、豊富ですので、拙印象でポイントを絞り、幾つかの事を記したいと思います。

1   ヘンリー・キッシンジャーの存在

アメリカ合衆国の言動が現政権になってチャイナ寄りに傾き始めた主な要因は、背後にヘンリー・キッシンジャー元米国務長官が居るからと言うのが、遠藤見解の大事な視座の様です。著書はこれを「ペンシルベニア大学のアーサー・ウォルト゛ロン教授」の、キッシンジャーは「キッシンジャー・アソシエイツのコンサルティング会社に多くの国からの顧客を抱え、その国のためにアメリカという国家を動かしている。莫大な金が入ってくるが、見返りが最も大きいのは、圧倒的に中国で、ロシアも相当なもの」との発言を引用しています。

外交経験の無いトランプは、キッシンジャー(既に93歳と言うが、報道などには出てこないものの、健在で活躍中という。)にとって、此の上なく利用価値が高いとみられると言うのが遠藤誉女史の見方です。
この辺りは、プロの持つ鋭い視角ですね。

2  王槴寧と言うブレーン

他方、チャイナ側には、江沢民、胡錦濤、習近平の三代に仕える優れたブレーンが居ることのことです。

その存在は謎に包まれているようですが、米中首脳会談等に通常同席、チャイナ側トップの隣に座り、適宜耳打ちしていると言いますから、全く秘密にされているのではない由です。当人は1955年生まれ、中国共産党員の由、何事にも通じており、学者然としている一方、出世欲はまるで無く、従って将にブレーンに撤して機能していると申します。

江沢民の「三つの代表」論や胡錦濤の「科学的発展観」はいずれも同人の作と言われ、党規約に明記されている由です。そして、現習近平は最も重用しているとのこと、現在の「中華民族の偉大なる復興」などのスローガンは其処に発する由です。

こうした情報には本当に驚きました。斯くて、遠藤誉情報に拠れば、トランプ大統領は、習近平主席との会談の折り、この人物の不在を狙って、大事な話を伝えたと言います。
すると、習からは長く返事がなかったと申します。つまり、その人が居ないと、国家主席はどう応答して良いか良く分からなかったようなのです。懸かる人物の登場と活用は、将に一党独裁の現中国共産党体制の所産と言うべきでしょう。

3  インドは、チャイナ提唱の「一帯一路サミットフォーラム」に代表を送らず

チャイナは、つい最近の2017年5月に「一帯一路サミットフォーラム」を主宰し、大いに喧伝しましたが、インドはこれに代表を送りませんでした。

現代版「シルクロード」とも言われる一帯一路の構想は、鉄道、道路、通商路などからなる陸路と、海上交通を中心とする海路から成り、ソフト型の民心路を含むと言われます。
それはチャイナを中心とした巨大経済圏の形を装いながら、精神面をもカバーし、安全保障面で世界を制覇しようとするものであると言われます。 遠藤誉女史によれば、その本質と狙いを見抜いているインドは、斯くて、此のフォーラムに参加しませんでした。

既に、例えば、インドの隣のスリランカでは、チャイナ被支配の変化が起きつつ在り、其処はチャイナの新植民地の観を呈しつつ在ると申します。しかし、日本からは、このフォーラムに関係者が参加した由です。

他方、AIIBは、この一帯一路の構想を推し進める、チャイナ主導の金融と投資の機関で、早や北京に本部を置き、活動を始めています。遠藤誉女史は、この
AIIBに日本は参加すべきでないとしています。 チャイナの覇権のために、日本国民の血税やお金が使われ、利用されてはならないと言う分けです。

大事なことですが、欧州諸国と違い、日米はAIIBに加盟していません。

4  「チャイナの夢 中華民族の偉大なる復興」に顕れたる、その意図

其処で、チャイナの主張、発言、論理、実際の行動や実力行使を見ていると、何がチャイナの究極の意図か、そのチャイナの狙いは何か、ここ十年余り、力をつけたチャイナは隠さずに言い、実示するようになっています。

「中華民族の偉大なる復興」とは、遠藤誉女史によると、「アヘン戦争をきっかけに列強諸国により中国は植民地化されたが、これからは中国の時代。その復讐をして、今度は中国が経済的に植民地にする。」という心を内に秘めていると申します。

実に厳しい見方ですが、遠藤誉女史はそう言っています。 世界各地で見られる、あからさまなチャイナの主張、発言、論理、実際の行動や実力行使を見ていると、何がチャイナの究極の意図か、その狙いは何か、力をつけたチャイナが明言し、実示するようになっていることを認識せざるを得ないと思われます。

私どもは今やそう言う時代に生きているのです。

5   遠藤誉女史が経験した過酷な戦時体験

遠藤誉女史は幼少の頃、戦時中から戦後に掛けてですが、長春(旧 新京)に居て、戦後起きた国共内戦を体験、その帰趨を決した長春の包囲戦の渦中に放り込まれ、数十万人の無辜の民の餓死を目撃、自身も飢餓を体験、遺体に囲まれて、其処に布団を敷き何日も寝たという苛烈な体験を持っています。既に記憶がある年頃ですね。そして、運良く生き残り、その地を脱出、昭和28年舞鶴へ引揚げたと言います。この御家族を含めた凄まじい体験が、女史の世界観、人生観に大きな影響を与えたことでしょう。


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