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「粛清の王朝 北朝鮮」を読んで

2017.08.10 Thu
政治

本書はこの6月、東洋経済新報社から刊行されました。

原著者の「羅鍾一」氏は、1940年京城生まれのソウル大学政治学科卒業、英国ケンブリッジ大学で政治学博士を取得した俊英です。韓国国家情報院の北韓(北朝鮮)担当第一次長などを経て、歴代大統領の補佐官、駐英大使や駐日大使などを歴任し、現在、韓国嘉泉大学教授の任に在ります。
著書多数の由、そして本書は諸情報に溢れ、臨場感満点の大変な力作になっています。
邦訳もこなれていて、読みやすいですね。ちなみに、原題は直訳で「張成沢の道」、韓国内でベストセラーとなり、海外メディアからも大好評と申します。

先ず、驚いたのは著書が韓国に居るのに、北朝鮮内で起きていることを実に良く知っていて、まるで現状を視聴したような感のあることです。
これは同一の韓民族ゆえであるからでしょうし、また著者が長年情報分野に関わってきたことや、著者自身の優れた能力に拠るのでしょう。

本書の核心は、北朝鮮を失敗国家とし、その根本原因は、「金日成が自身の権力を強化し、集中することに過度に成功した」事に在るとしていることでしょう。

そして、後継の息子で在る金正日がその権力を承継、いわゆる「遺訓統治」を引き継ぎます。
斯くして、「先代が犯した失策を反省し、新しい政策を実行する余地がなくなります」。
この事は、三代目の金正恩にも続いており、改革・開放の可能性を閉ざしてしまいました。

これに対し、旧ソ連やチャイナでは、後継者が先代の指導者の過ちを批判して、新たな政策路線を追求しました。
スターリンのあとのフルシチョフ、そしてゴルバチョフがそうですし、毛沢東の後の鄧小平がそうでした。
いずれも各改革は指導者の交代に伴って行われていますが、北朝鮮ではこれがなかったのです。

以上総括すれば、北朝鮮では権力集中が過度に成功しすぎ、その権力の継承制度が欠如していたと言う事になります。

そこで、著者はうったえます。
その失敗が暴走に繋がれば、「それは金王朝の失敗に止まらず、私たちに与える被害は甚大なものになります。北朝鮮の失敗は、いまや私たちの失敗になってしまうのです」。

斯くて、本書が提起する重要な問いは、
「北朝鮮政権崩壊後の事態を管理する能力が、わたしたちにあるかどうか」
と言う事です。私たちとは、つまり世界です。

ちなみに、本書の帯には、「首領様、朝鮮のない地球は必要ありません」という金正日の言が引用されています。


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