激動する国際情勢とAIの急発展が同時進行する時代 海外特派員への期待とは
この賞は「報道を通じて国際理解の促進に顕著な貢献のあった記者個人を表彰する年次賞」で、1950年から毎年発表されている伝統ある賞です。公益財団法人新聞通信調査会が主催。
https://www.chosakai.gr.jp/project/hyosyo/bone/
◇「私が取材しなければ歴史に残らなかった・・・そういう取材をこれからも」
金子淳さん(毎日新聞、3月末までカイロ特派員、4月から本社外信部)は、24年12月、写真映像報道部の和田大典さんとともにシリアのアサド独裁政権の崩壊直後に入国して、荒廃した現場を歩きまわりました。同時に、無血“開城”の発表に踏み切った首相に単独インタビューをしました。
受賞を特集した毎日新聞の記事から引用します。
「無数の「政治犯」が収容され、拷問や処刑が繰り返された拘禁施設。多くの遺体が埋められた集団墓地。アサド政権が化学兵器を使用した住宅街や、軍が秘密裏に運営していた麻薬工場。これまで隠されてきた独裁政権の実態を取材するほど、住民の歓喜の意味が実感できた」(毎日新聞、2026年2月26日)と書いています。
当時の報道で特に話題を呼んだのは、最後の首相を務めたムハンマド・ジャラリ氏へのインタビューでした。国際政治学者の高橋和夫さんは「政権崩壊の内幕がよく分かる内容だった。特にアサド政権を支援してきたロシアが、最後の段階で反体制派への空爆をやめ、アサド氏を見限っていたという点は興味深かった」と語っています(毎日新聞2026年2月26日)。
首相は、最後の決断は自分の家族を守るためという気持ちが押したと語ったそうです。そうしないと、反政府軍によって何をされるかわからなかったからと。首相は、政府要人でありながら、アサド大統領の携帯番号さえ知らされてなかった立場でした。
気が小さいのでおっかなびっくりで国境を越えたという金子さんは、自分が取材しなければ明らかにならなかった事実を歴史に残せた。今後もそういう取材をしていきたいと語っていました。
※[記事] ボーン・上田記念国際記者賞 毎日新聞・金子淳記者に シリアの光と影、克明に
◇日中一触即発の真相、偶発的武力衝突の恐ろしさ
共同通信の福田公則さんは、北京特派員だった2024年、海上自衛隊の護衛艦「すずつき」が中国の領海に誤って侵入した事件を報じて、共同通信加盟の地方紙などに掲載されました。
1954年の自衛隊発足以来、事前の通告無しの侵入ははじめてでした。誤侵入の時間は約20分だったとか。その間、日中のホットラインは使用されませんでした。ホットラインは形骸化していたようです。
報道当初は「領海侵入」とまでは書かなかったのを、裏付け取材を経て明記したときは緊迫の決断だったようです。なにしろ政府は起きた事実そのものを認めていませんでした。しかし、上司がきっぱりとゴーサインを出しました。
公文書が公開される30年後には、このときの事実が明らかになるものと思われます。今後も日中のせめぎあいの中で偶発的な事件は起こりうるので、注視してゆきたいと福田さんは言います。
福田さんは神戸大学を出て読売新聞に入社、8年ほど勤めて共同通信に移っています。共同には読売を筆頭に他社から移籍した人がかなりいます。
※ボーン・上田賞を伝える共同通信配信のYahoo!ニュース記事(Yahoo!ニュースの記事は一定期間後の抹消されます)
◇ボーン・上田賞により制作会社に光が当たった。
特別賞を受賞した日本テレビ報道局の坂井英人さんは外部のニュース制作会社フェイドインに所属しています。ご本人からいただいた名刺は日テレの名刺ですが、所属会社名が明記してあります。
坂井さんは、受賞講演の中で、自分個人が受賞したが、内外のチームプレイによって報道が成り立っていることと、番組制作会社にこのような形で光が当たったことがうれしいと述べました。
なお、坂井さんらが取材したウクライナの実情については、日テレのnews everyやNNNドキュメントで放映されていますが、放映しきれなかった分をYouTubeの日テレチャンネルで発表しています。
※日テレニュースから
【避難の11歳少女】「ウクライナに残った父と祖母に会いたい」
※戦地からの伝言 ウクライナ侵攻4年 家族の記録
◇これまでの受賞トップは共同・朝日・毎日
新聞通信調査会のサイトにこれまでのボーン・上田記念国際記者賞の受賞者の一覧が載っているので、カウントしてみました。
総計98人で、トップ3は共同通信、朝日新聞、毎日新聞でした。
うち女性記者は 産経3人、毎日2人、朝日・読売各1人。

◇AI時代になっても海外特派員の役割は減らない
ボーン・上田賞のことを取り上げて、ふと気になったのが海外特派員の数の変化です。経費節減のため、新聞社や通信社は特派員数を減らしているのではないかと想像しながらデータを見てみました。
私の手元にある数字は年次が飛び飛びですが、全体として減少傾向にあることは確かなようです。その中で、特に欧州と中東・アフリカの減少が目立つのが気になります。
昨今の国際情勢を考えると、特派員の役割はますます重要になるでしょう。踏ん張ってほしいです。今回の受賞例を見てもわかるように、記者はどこかの発表を受けて報道したのではなく、自ら現場に行き、しかるべき人に当たって書いたり映像にしたりしています。AIがどんなに発達しても、足で歩く、体を運ぶという「身体性」は生身の人間の役割として残るでしょう。
現地から生々しいニュースを送ってくる特派員の仕事はたいへん苦労が多いですし、社としては負担も大きいですが、これからも大事にしていってほしいものです。


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