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北斎とジャポニズム・・・国立西洋美術館での展示

2017.11.29 Wed
文化

北斎とジャポニズム・・・国立西洋美術館での展示
平成29年 2017年 11月
仲津 真治

上野の国立西洋美術館で、この展覧会を開催中と言うので、時間を見つけ足を運んで参りました。 平日というのに、相当混んでいました。外国人も多く、学生・生徒も結構来ていました。

ジャポニズムは自分の中学校時代以来、長年関心のあったテーマですから、ゆっくり目に歩きながらも上野駅公園口まで行きましたが、その甲斐が在りました。

以下、幾つか印象に残ったことを記します。

1  浮世絵の日本史に於ける特性

浮世絵、その中でも「葛飾北斎」の作品が幕末から明治に掛けて、欧米絵画界に驚きを持って受け止められ、其処に深甚な影響を与えたことは確かなようです。
それは、西洋絵画と違い、遠近法を用いず、大胆な構図を用い、且つ陰影があまり無いと言う事でした。同時に、欧米の美術が「大和絵」と呼ばれていた日本の絵画界に多大のインパクトをもたらし、驚愕を持たれたことも深く認識されているようです。

つまり、作用は双方向であったのです。これは幕末・明治期の文化交流の大きな特徴でしょう。日本は、それまで長年、東洋文化・文明の一方的流入先であったのです。然るに幕末・明治期の懸かる文化交流は双方向であったのでした。

そして欧日ともにお互いに驚いた事が開示されて、この展示が始まったことは新鮮でした。

2  展示作品数の多いこと

本展は、展示作品数が多く、これには正直参りました。 約三百もありました。他方、会場の大きさは一定ですから、それは結局、今回の作品が平均的に言って小振りなることを物語っているのでしょう。 そう言えば、並行して開催中の鎌倉時代の運慶展は概して物が巨大でした。

3  ダリのような作品があった

作品番号84の「クビーン」という作者の「恐怖なる作品は、浮かぶ小舟のそばに頭蓋骨が立ち、其処に梨かリンゴのような物が突きささっている奇妙な光景を描いたものでした。 まるで、それは後年近代の「ダリ」の絵のようで、会場の係の人もそうだと言っていましたが、これも北斎などの浮世絵の影響の所産なのでしょうか。 良く分かりません。

4  北斎作 富嶽三十六景 神奈川沖浪裏

有名な作品ですね。 大きいものではなく、所謂半紙二枚分位でしょうか。巨大な浪に翻弄される二艘の舟、その浪下の彼方に雪を抱く富士の雄姿がくっきりと遠望されます。

H-7 と言う番号が付されていました。Hは北斎の作品を示している
ようです。一覧表ではHが41点あり、HB(北斎ブック の略と思われる)は38点在りました。その大半は、欧米の美術館の所蔵でした。

5   欧米の美術館の所蔵と言う事

浮世絵や類するものの欧米への流出は、これだけ見ても歴然としています。因みに、この大波の作品はアメリカ合衆国「ミネアポリス美術館」で普段展示されています。同館には他に「深川万年橋下」が在ります。

一方、ウィーンのオーストリア応用美術館からは、これまた有名な「甲州石班沢」など計十点が展示されていました。往時、ウィーンのハプスブルク王家の資産となっていたのでしょうか。 大半が「錦絵」です。

6 富嶽三十六景など シリーズ方式

これらは、若干を除き、いすへれも「富嶽三十六景」の各作品ですが、こうした同種のテーマでいろいろと描くという絵画の方式は、当時のヨーロッパには無かったと言われ、これも浮世絵の影響と申しますが、以降、西洋で採り上げられて行った絵画手法との事です。

7  カミーユ・クローデル の「波」

作品番号 199でパリのロダン美術館からの出展でした。
その事と作者名から見当が付きましたが、これは、最近フランスの映画作品となった彫刻家「ロダン」の弟子で且つ恋人の、カミーユ・クローデルの作品でした。

ロダンの弟子であるカミーユも、北斎の影響を受けていたのです。
大浪は波と成り、岩で表現されていました。その波上に若き女が
三人あたかも浮くように座していました。

なお、師匠格のロダン自身については、春画で若干繋がりがあった様です。

大きくは、国立西洋美術館自体、前庭に、「地獄門」や「考える人」などの、ロダンの鋳造作品が多く展示されていますね。

8  北斎漫画

本展示には、版本と言うジャンルがあり、その中に「北斎漫画」と言われる戯画風の諸作品が各所に展示されていました。 ヨーロッパの諸美術家は其処からも影響を受けたと言われる様です。

それは、一枚ごとに仕上がる錦絵や、摺物用の版木とは違い、北斎などの浮世絵師が戯作として気楽に書いた諸作品で、北斎にはこうしたものが特に多く、それは随分残っているようです。それらは、「北斎漫画」と呼ばれていて、今回も関連付けて、各部屋に展示されていました。 それは今日で言う漫画では無く、まるで図鑑や解説書の挿絵のように見えます。

それらは、日本国内に個人蔵などで関係箇所に保たれているのが
通常ですが、中には、ヨーロッパに渡ったものがあるようで、本展示ではポーランドの「クラコフ博物館」から四点展示されていました。 と言う事は、こうした北斎漫画も、こうした所を通して、ヨーロッパの画家などの目に触れ、欧州の各地に影響を与えたのかも知れませんね。 何か、芸術には滲み出るような感じがあります。

9  アイリ ぺーテシェン 「夏の夜」に現れたる北斎  165番

この絵は北欧ノルウェーの画家の1886年作とされている作品です。

同国の山奥と思われる池に微かな光を放って白い月が映って懸かり、その左真ん中に、画面を大きく突っ切るように木立が一本立っています。その更に左には枯れた木が力尽きて池に力なく倒れている様子まで描いておりました。これは、それまでの西洋の絵画では描かれないタイプの絵だったのでしょう。

こうした構図は北斎の「富岳三十六景」の中の、甲州三嶌越」に出てきます。 月に当たるのが富士で巨木に切られ、その木が旅人を圧倒しています。

伝統的な西洋の絵画では、均衡の取れた構図にして、絵の主人公である中空の月をしっかりと正面に描き、絵中に切り裂くように立つ木立など書かなかったに違いありません。 こうした展示で比べると、 北斎は日欧の縁が繋がって二十年もすると、北欧のノルウェーまで、その影響の及んだことが分かります。

10  北斎の影響が陰に陽に及んでいると思われる欧米の芸術家

素人なりに、その名を知る、該当する人々を列挙してみます。

シーボルト、オールコック、ドガ、ロートレック、モネ、ゴーガン、ロダン、クリムト、クールベ、ゴッホ、モロー、スーラ、カミーユ、セザンヌなど


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