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応用 クモの糸

2017.12.15 Fri
文化

応用 「クモの糸」

平成29年 2017 12月
仲津真治
1) 小説「蜘蛛の糸」

「蜘蛛の糸」と言えば、芥川龍之介の有名な小説ですが、地獄に落ちた
「ガンダダ」という男が、目の前に降りてきた蜘蛛の糸に掴まり、助かろうと登り始めたところ、大勢の男どもが後を追い、同じように登ってくるのを見て、「お前等は関係ない」と叫びました。すると、にわかに、蜘蛛の糸が切れ、皆落ちてしまったと言う物語です。 もとより、フィクションですが、「それを見ていたお釈迦さまは、悲しそうな様子で其処を離れました」という趣旨の終わり方になっていたと思います。

これは古代インドでなく、「とき遷り、皆、ともに救われる大乗仏教の時代となって、その心を描いた芥川作品」だと思いますが、もし、クモの糸が本当に、このような応用が可能になれば、凄い事と考えられます。実は、その道が拓かれつつあると言うのです。

2)  でも実際の「クモの糸」は直ぐ切れますね、何故?
だけど、知られざる強靱性に驚く時代がやって来そうです

東大本郷キャンパスの一角に在る「武田計測先端知研究所」に御縁のある
財団から「科学のとびら」というシリーズ型の本が出ています。 その中で「素材」を扱っている本を紐解くと、「蛋白質」が素材として有望で、使いこなせそうなもののの中に「クモの糸」が上げられていました。

でも、私どもが日頃出くわす「クモの糸」は直ぐ切れ、「巣」は壊れてしまい
ます。 どうしてか?  それは「クモの糸」が極めて細いからと申します。 その
直径は大体四マイクロメートル(10のマイナス六乗メートル)くらいしか在り
ません。  これに対し、髪の毛は細く見えても約八十マイクロメートルも在る
ため、遙かに太く、簡単には切れないのです。

一方、自然界には凄まじく強靱な糸を出すクモが居ます。 マダガスカル島で2010年に発見された「ダーウィンズ・パーク・スパイダーと言うクモは、今のところ世界で最も強靱で、二十五メートルも在る巣を張る由です。 その強靱性は、炭素繊維の二十倍、高張力鋼の三百倍と言います。 それ程で無くても、自然界には、炭素繊維の十倍や鋼鉄の百倍という糸を紡ぎ出す「クモ」が棲息していると申します。こうなると、俄然、その活用、応用に関心が出てきますね。古来、それは在ったのですが、現代に至り、その時が到来しつつあります。

3) クモの糸は蛋白質で出来ている

自然界には、夥しい種類のクモが居て、確認されているだけでも世界で約四万五千種、そのうち日本では約二千種に達すると言います。 しかも、同じクモでも、巣の枠に使う糸、巣の横糸、ぶら下がるときの糸、獲物をぐるぐる巻きにするときの糸、卵をくるんでおくための糸など色んな用途によって使い分けていると申します。強靱性だけで無く、伸縮性なども加味されていて、其処に自然の持つ恐るべき複雑さと知恵が内包されているようです。

でも、その素材は全て蛋白質という点で共通しています。 ただ、精確に言うと、これらの各用途によって、使われている蛋白質は異なると申します。

斯くて、クモ糸の活用、応用となれば、その中の何をどれくらい、どう使うと言うだけで無く、ユーザーの強度や伸縮性などに関わるニーズに応じて、試作・設計し、供給していくことになると申します。しかも、それを分子レベルから取りかかると言うのです。 それが、クモの糸などの、蛋白質素材の活用・実用化の道の由です。

4) アミノ酸とDNA

こうした蛋白質はたくさんのアミノ酸から出来ていると申します。研究では、そのアミノ酸がどんな並び方をして、蛋白質を組成しているのか、それらが機能にどんな影響を及ぼしているのか、仮説を立て、それに基づいて、DNA配列を設計し、合成し、検証する由です。 其処には素人には分からない知恵と工夫、アイデアが必要でしょうし、恐るべき根気が不可欠と思われます。

こうして設計したDNAを人工的に全合成するとのことです。 それは、端的に言えば、低分子の出発物質から、複雑な高分子を化学的に合成することと申します。クモの糸について記せば、「その遺伝子は非常に多くの繰り返し配列を持っているが、それを全合成する技術が無かったので、其処から取り組んだ」とのことのことです。

そして、この技術を使ってDNAを構成する段階を踏み、それを微生物の中に
組み込んで実際に作らせ、その生産性を評価した上で、今度はそのポリマーとしての評価をし、次の分子設計の段階へとフィードバックすると言うプロセスを繰り返した由です。

こうした実に忍耐を要する作業を経て、世代を十回前後も重ね、遺伝子を進化させて、生産性を大いに向上、近年では研究初期の四千五百倍くらいに達していると申します。

5)  人工クモ糸製品の試作

この研究の代表者で在る関山和秀氏に依れば、既に試作品の出現まで到達した由、そのドレスの写真を見ると、凡そ見慣れたクモの糸から想像も付かない美しい製品ですが、早やここまで進んでいるのですね。

この研究企業体(慶応義塾大学先端生命科学研究所)の規模はスタート時の八年後の2015年末で、資本金で七十億円、大半が研究員である社員数で七十名を越えている由です。

ただ、試作製品のドレスは、「手作り」で織られた由、発表した当時の2013年では、それを勢い在る「機械織り」で織ることは、このときの「クモ糸」ではまだ無理だったようです。

諸課題の克服、本格製品の登場、生産、市場化、他分野への発展が期待されます。


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