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新たなステージを迎えた被災地

2016.03.10 Thu
社会

東日本大震災から5年、福島原発の破壊で多大な影響を受けている地域を除けば、被災地の復興は少しずつ進んでいるように見えます。土地のかさ上げや高台の宅地整備ができた地域では、仮設住宅に暮らす人々の「自宅」への移動がようやく本格化しています。三陸海岸の主力産業だった水産加工業も、工場を再建できたところは、従業員を再雇用し生産ラインを稼働させています。

とはいえ、住居や雇用を求めて別の地域に移った人々をどうやって元の地域に戻すのか、仮設から脱出できそうにない貧困層をどうするのか、子どもから大人まで広範囲に残る「心の傷」をどう癒すのか、工場は再開したものの売り上げが震災前に戻らない企業をどう支援するのか、などといった課題が新たに生まれているのも事実です。こうした課題にどう取り組むのか、震災復興は第2のステージに入ったと見るべきでしょう。

どこの海岸線にも築かれている防潮堤のように、被災地では建設土木の公共事業が目立ちますが、「集中復興期間」が2015年度で終わるため、2016年度からは、こうした公共事業も含め復興予算の配分も減ることになります。心配なのは、これからが重要な仮設に取り残された高齢者や障害者、PTSD(心的外傷後ストレス障害)に苦しむ子どもたちなど、被災弱者と呼ぶような人たちへのケアがおろそかになり、こうした人たちがますます孤立することです。

これまで、こうした被災弱者に手を差し伸べてきたのは、NPOなどの民間組織でしたが、震災から年月が経つにつれて支援団体を支えてきた企業や個人からの寄付などが減っていることもあり、被災地から撤退する組織もふえています。

水産加工業の再建には、多額の公的補助金が支出されました。ですから、これからは自助努力が原則だと思います。とはいえ、売り上げが震災前に戻った企業が3分の1程度というのは深刻で、原発事故によるいわゆる風評被害で買い手が減った、休業中に顧客を他の売り手に奪われた、被災地の人手不足で従業員が集まらないなどの理由を聞けば、自助努力と突き放すだけでは解決にならないと思います。水産加工業界の話を聞いていると、このままでは数年以内に、「復興後倒産」が続出するのは確実だと思います。

被災弱者への支援を強化するには、NPOなどを活用するのが最善だと私は思います。いま被災地で活動しているNPOなどの団体や個人は、地元にも溶け込み、それぞれの地域に応じた支援のノウハウも身に付けているからです。民間からの寄付などが細っているとすれば、公的資金で補えば活動を継続できるところも多いと思います。

仮設から自立する人たちがふえるにつれて、仮設の統廃合や集約化が加速するのは仕方のないことでしょうが、残された住民にとっては、何度目かのコミュニティーに属することを強いられているわけです。復興公営住宅などでも新たなコミュニティー作りが必要になっています。こうしたところでコミュニティーを生かす潤滑油となるのもNPOなどの団体や個人です。

せっかく立ち上がった工場を生かすには、販売網の確保が必要で、公的な経営アドバイザーの充実や消費地での物産館の設置など、公的な支援も必要だと思います。各地で開かれる「被災地フェア」が人気を呼んでいることを考えれば、常設の売り場を首都圏などに置けば、さらに売り上げが伸びるように思います。

こうした被災地の要望を並べていけば、被災地の「甘え」との声も出てくると思います。しかし、人口流出による「地方消滅」の危機、貧困高齢者など「下流老人」の孤立、地方の農林水産業や製造業の衰退など、被災地が抱える課題は日本の縮図であり、被災地はそれを凝縮し先取りしたとみることもできます。

だとすれば、NPOなどの助けを借りたコミュニティーの再構築による高齢者や障害者などの見守りやケア、消費者と結び付いた最終商品の開発と販売システムの確立などの方策は、日本全体を救う処方箋にもなるのではないでしょうか。被災地を助けた5年間に続く第2ステージが「被災地に学ぶ期間」になってほしいと思います。(この原稿は、藤原書店発行の『機』に寄稿した原稿をもとに、手を加えました)

 


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