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総選挙の争点は何か

2017.09.19 Tue
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解散・総選挙だそうです。森友・加計問題のうえに、おごる自民を象徴するような豊田真由子議員のパワハラ事件で、泣きっ面に蜂状態となり、支持率が下降していた安倍内閣。ところが、新たに代表となった前原誠司氏が率いる民進党が山尾志桜里議員の不倫疑惑や、相次ぐ議員離反で、支持率が回復しないのを見て、今泣いたカラスがもう笑う、一気呵成の「火事場泥棒解散」(週刊ポスト)へとなった次第です。しかも、この指とまれとばかり、自分の指を高く掲げて打ち鳴らしたのは、鐘や太鼓ではなく、国民の愛国心と一体感を高めるアラートとくれば、安倍さんの好き放題、やりたい放題に見えてきます。

 

森友・加計問題を追及するため野党が求めて開かれることになった臨時国会の冒頭で、解散することになれば、森友・加計隠しという意図が丸見えですし、国民の多くを恐怖に覚えさせたJアラートも、総選挙ができる程度のリスクだったということになれば、党利党略どころか安倍利安倍略の道具だったという批判を受けることになるでしょう。

 

「いま解散をしないと、北朝鮮情勢で、これからもっと深刻な危機がくる」という、官邸サイドから伝わってくる「大義名分」は、敵失に乗じるという作戦をごまかす言い訳にしか思えず、こんなこどもだましに国民が騙されるはずはない、と言いたくなります。その結果、自民党の大勝となれば、党内の反安倍勢力も、連立する公明党も、メディアも、“泣く子と安倍には勝てず”で、沈黙を強いられ、憲法改正に向けてまっしぐら、という悪夢が正夢になるかもしれません。

 

しかし、本当の悪夢は、それだけではないかもしれません。「これから、もっと深刻な危機がくる」というのが選挙用の口実ではなく、親密なトランプさんからの情報だった仮定した場合です。

 

国益よりも個性で判断しているとしか思えないトランプ大統領の政権運営をみていると、北朝鮮攻撃は、十分にありうるシナリオに思えます。もちろん、戦争は外交の手段ですから、米朝協議で、北朝鮮に核・ミサイル開発の現状凍結を約束させたうえで、6か国(北朝鮮、米国、韓国、中国、ロシア、日本)協議で朝鮮半島の安定化をはかるといった内容の和平路線で、米朝が妥協する可能性はあります。しかし、大統領への支持率が回復せず、再選はありえないと思われるトランプ氏が起死回生というか歴史に名を残すには、北朝鮮の政権転覆を考えても不自然とは思えないのです。

 

2001年9月11日の同時多発テロを受けての米国のアフガニスタン攻撃は、自衛と報復の戦争として、米国からみれば必然でしたが、イラク戦争まで戦争を広げるかについては、米国内にも反対論は強く、中東の混乱をさらに悪化させるだけ、という見方が多かったように思います。9.11からアフガニスタン戦争の時期に私は朝日新聞記者としてワシントンに駐在し、イラク戦争は難しいという意見をたくさん聞きましたし、イラク戦争の前に帰国して論説委員だったときには、こうした見方からのイラク戦争反対論を書いていましたから、イラク戦争後の混乱が想定外とは到底思えません。

 

しかし、当時のブッシュ大統領は、それでもイラク戦争に踏み切りました。そこに誘導したのは、チェイニー副大統領をはじめとする「ネオコン」で、そのなかには、米国がイラクに進駐すれば、イラク国民は花束で米軍を迎える、といった意見を言う人もいました。大統領は彼らの甘言に乗ったとしか思えません。米国には、どんな戦争でも戦争は正しいという「信仰」のもと、軍備拡張とその実行をはかろうとする「軍産共同体」が、共謀の意図があるかどうかはわかりませんが、存在するのは確かです。

 

トランプ政権の場合、軍事や外交の「常識」を超えて大統領自身の判断で戦争に踏み切る可能性はありますし、大統領が「戦争」といえば、軍隊はそれにしたがって攻撃をはじめるしかありません。米国の法律では、戦争宣言の権限は大統領ではなく、議会にあるのですが、それが必ずしも戦争の歯止めとならないのは、戦争を「事変」と言い換えて、日中戦争を拡大した旧日本陸軍の例をみてもわかります。

 

安倍首相がトランプ大統領から、時期が来れば攻撃する、という示唆を受けていたとすれば、今回の「早期解散」は妥当である、と私が主張したいのではありません。むしろ、トランプ氏が米国による北朝鮮征伐というシナリオを描いているのであれば、日本の首相は韓国の大統領とともに、トランプ大統領を諫めなければならないのに、全面的に賛成と言いかねない首相を日本が抱えていることが悲劇になりかねないと思っているのです。

 

今回の選挙で、自民党が大勝しないとしても、大敗がないとすれば、安倍首相の続投は必至で、米国による北朝鮮攻撃の止め男にはなりえません。仮に米国の北朝鮮攻撃による米朝戦争が勃発するとすれば、この戦争は北朝鮮と米国との戦争であり、北朝鮮の反撃で火の海にされるという韓国や、攻撃目標とされる米軍基地を抱える日本の戦争ではなく、韓国も日本も、巻き込まれる形で戦争に突入することになります。

 

米軍基地を抱えるリスクは、米軍の航空機が事故を起こして墜落することや、米兵による犯罪が起こることもありますが、最大のリスクは、米国の敵国から基地を攻撃され、その周辺にも被害が広がることです。中国と台湾との戦争の可能性があった時代には、中台戦争で米国が台湾に加担し、中国が沖縄などの米軍基地に攻撃をするというリスクが常にありました。ですから、戦争に巻き込まれるリスクは、今回の北朝鮮危機が初めてではありませんが、そのリスクは、中台の緊張関係が高まった時期よりも、もっと高いように思えます。

 

「巻き込まれる」という言葉を使うと、受動的で日米同盟を理解していないと批判されそうですが、米朝戦争で北朝鮮から日本の米軍基地に飛んでくるのは火星12号や14号ではなく、ずっと以前に開発済みのノドンです。アメリカファーストのトランプ政権が韓国や日本を危険にさらしても、守ろうとしているのは米国本土であり、この点では、日本や韓国の利害と米国の利害が必ずしも一致していないことは明らかで、韓国ファーストや日本ファーストの立場になれば、米国に戦争はさせないというのが第一の利益のはずです。北朝鮮の金正恩政権や体制が看過できないという思いは、多くの人たちと共有しているつもりです。しかし、だから武力攻撃ということにはなりません。

 

韓国の文在寅大統領は、こうした事情をよく理解していると思われる発言を繰り返していますが、安倍首相の発言からは、それが伝わってきません。むしろ改定した安保法制の集団的自衛権を行使する機会と考えているようにすら思えます。日本国内の米軍基地が攻撃されるような事態は、まさに安保法制が規定する日本の「存立危機事態」になるからです。

 

「これから北朝鮮危機が深刻化する」という「官邸情報」を私が気にするのは、トランプ大統領が文大統領との電話会談が時間をかけているように思えるからです。直近の会談は、トランプ大統領が金正恩委員長を「ロケットマン」と呼んだことが話題になり、会談時間も25分でしたが、8月7日の会談は1時間と伝えられています。聞く耳を持たないトランプさんですから、会談が長時間になったということは、トランプさんが文大統領を説得しようとしたからで、だとすれば、米国による北朝鮮攻撃の可能性だったとしか思えません。

 

米国による北朝鮮攻撃の可能性が高まれば、北朝鮮からの先制攻撃の可能性もでてきます。金体制の維持が北朝鮮の第一の目的で、ミサイルや核実験は、そのための手立てとみるのは合理的な考えですが、米朝の緊張感が高まれば、お互いの疑心暗鬼から、どちらが先制するかは別にして、戦争の危険が高まると思います。

 

今回の選挙の最大の争点となるべきは、森友・加計問題でも、憲法改正も出なく、北朝鮮危機であり、日本の国益第一の観点から、米国による戦争にノーと言える政権選択だと思います。そうであれば、野党の核となる民進党の選挙協力体制もおのずと生まれてくるのではないでしょうか。


この記事のコメント

  1. 中北 宏八 より:

    米韓大統領電話会談の長さへの注目、さすがですね。戦争を利用したいばかりの政治屋どもに一泡吹かせる選挙にしなければ。踊らされるだけのメディアが心配ですが・・・

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