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イシバサンガコロンダ!

2025.09.08 Mon

自民党内でくすぶっていた「石破おろし」が両院議員総会で爆発する寸前、石破首相が辞意を表明しました。昨年10月の衆院選、今年7月の参院選で、自民党は大敗を喫し、両院で「少数与党」になったのですから、自民党の総裁である石破さんが責任を取るのは当然なのでしょう。しかし、このふたつの選挙で、自民党が議席を減らした大きな理由が派閥のパーティーで集めた資金を「裏金」にするような自民党のあり方だったとすれば、石破さんを降ろしたところで、国民の自民党への不信はぬぐい切れないのではないかと思います。

 

今回の「石破おろし」で、積極的だったのは、旧安倍派、麻生派、旧茂木派などといわれています。裏金問題の発端だった旧安倍派はもちろん、麻生派も旧茂木派も、お金の問題で身ぎれいだと言い切れない、と世間は見ています。自民党の改革を期待する有権者は、むしろ石破さんにがんばって、派閥まみれ、カネまみれの党のイメージを変えてほしかったのではないでしょうか。石破続投を支持する意見が多かった世論調査の内訳で、自民党支持層の続投支持が多かった、というのは、そんな気持ちの表れだと思います。

 

今回の「石破おろし」を見ながら、「三木おろし」を思い浮かべた人も多いのではないでしょうか。1974年、「金脈問題」で田中角栄首相が辞任、代わった三木武夫首相のときに、ロッキード事件が発覚、田中前首相が逮捕される事件に発展しました。このとき、自民党内からは「三木おろし」の動きが何度も起こり、衆院解散を諮る三木首相に反三木派の閣僚が署名を拒否して解散が流れたり、総裁を降ろすための党大会の開催を求める動きが活発化したりしました。1976年末の任期満了に伴う衆院選挙(ロッキード選挙)で自民党は大敗、三木首相はその責任を取って辞任しました。

 

「三木おろし」と「石破おろし」の相違点はたくさんあるでしょうが、民意から離れた倒閣運動というところは、似ているように思います。一方、違うと思われるのは、メディアの姿勢です。「三木おろし」の動きに対しては、「ロッキード隠し」という批判をメディアはしましたが、「石破おろし」では、大手メディアは参院選の敗北を受けて、こぞって引責辞任を求めました。その後の世論調査をみると、民意離れは大手メディアも同じだったのです。

 

そんなメディアの空気のなかで、あれっと思わせたのは、朝日新聞(8月30日)の「多事奏論」というコラム欄でした。「茂るイシバサン支持 舟なき民の漂流、行き先は」と題した高橋純子編集委員の記事で、次のような下りがあったからです。

 

国政選挙で連敗したのだから、首相は責任を取って辞任すべきだ――まったき正論である。ところが私の周りは「石破さんのこと好きじゃないけど、辞める必要なくない?」と、小声でささやく女性たちだらけ。

 

「首相の進退 政権居座りは許されぬ」と社説(7月24日)で首相の辞任を求め、「自民の党則は、特に緊急を要するときは、新総裁は両院議員総会で選任できるとしている」と、総裁・首相の降ろし方まで親切に伝えた朝日新聞の「社論」に対して、ささやくような小声で、「辞める必要なくない?」と書いた編集委員の筆遣いは秀逸でした。

 

次の総裁選は、高市早苗さんと小泉進次郎さんらが有力候補なのでしょうが、気になるのは、石破首相に辞任を促す談判をしたのが小泉さんだったことです。辞任表明の前夜、小泉さんは元首相の菅さんとともに官邸で石破さんと面会し、菅さんが帰ったあとも、官邸に残ったと伝えられています。辞任を説得する役は、「他意がない」人がするものだと思っていたからです。

 

金脈問題で田中首相が辞任する際、次の首相を大平正芳、福田赳夫、三木武夫の3氏が争う中で裁定役となったのが椎名悦三郎でした。その過程で、椎名暫定内閣の話が出たことから、「行司がまわしを締めた」との批判が出て、この話は流れたことがありました。そんな話をふと、思い出しました。

 

石破辞任で自民党のみなさんは、ほっとしているのでしょうが、もしも、「辞める必要なくない?」というのが民意だとしたら、次の選挙はどうなるのでしょうか。

 

イシバサンガコロンダ! これは、高橋編集委員の前述の記事の書き出しでした。私は、英国のわらべ歌で、この稿を閉じることにします。

ハンプティ・ダンプティ 塀の上/ハンプティ・ダンプティ 落っこちた/王様の馬と王様の家来のみんなして/ハンプティを元に戻せなかった

Humpty Dumpty sat on a wall/Humpty Dumpty had a great fall/ All the king's horses and all the king's men/Couldn't put Humpty together again

 

(冒頭の写真は、首相官邸のHPからコピーした9月8日の辞任会見の様子)


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