韓国映画:ノーザン・リミット・ ライン (南北海戦)
韓国映画:ノーザン・リミット・ ライン (南北海戦)
平成28年(2016)4月
仲津 真治
久々に映画を鑑賞する機会がありました。作品は、去年韓国で制作されたばかりの映画です。それは2002年6月29日に北朝鮮と韓国の間で実際起きた第二延坪海戦を取り上げており、将に迫真のドラマです。現実の戦闘は三十分余り続き、双方に相当数の犠牲者が出ていますが、韓国側では戦死六名、負傷二十二名に達しました。映画も戦闘場面を実際と同じ上映時間の長さで捉え、忠実に再現していて、実に凄まじいものがありました。内蔵が噴出したり、腕が飛ぶ場面などが出て来るのです。北朝鮮も戦闘を仕掛けた艦長自身が終了間際に命中弾を受け、即死しています。
ノーザン・リミット・ ラインとは?
ところで、朝鮮戦争は1950年6月25日、北朝鮮側の「良く計画・整備された全面的な対韓国侵攻」で始まり、三年余の死闘の末、1953年7月27日停戦、休戦協定が結ばれます。然りながら、その陸上のラインは北緯38度線より概ね北に食い込んだ軍事境界線として敷かれたものの、海上についてはそうしたものが無かったのです。 そのままでは其処で再び戦端が開かれる恐れがあると見た、国連とアメリカ合衆国は、海上についても境界線の設定が必要と判断し、休戦から約1か月後の1953年8月30日、黄海の海上における韓国と北朝鮮の軍事境界線として、ノーザン・リミット・ライン(北方限界線)を設定しました。これで南北間の衝突防止を図った分けです。北側がそれに合意したのでは無い様ですが、長く実際、海の休戦ラインとして機能して参りました。
しかし、陸上の休戦ラインとは違いがありますので、海上では時折紛争が起きてきたのです。 それは最近、やや多目になりつつ感じがありますが、 この映画の第二延坪海戦もそのひとつです。
そして、それを主テーマとした、この作品は七年もの歳月をかけて撮影された由、其処には近年伸張の著しい韓国映画の粋を集めた感があり、観客動員も実に同国全土で約六百万人(因みに韓国の全人口は五千万人強)に及んだと言います。かくて、日本でのこの4月から公開となった分けですが、原題は韓国語でハングル表記、邦題が「ノーザン・リミット・ ライン (南北海戦)」となっていました。また、本邦での上映館は、東京のシネマート新宿と大阪のシネマート心斎橋の二館の様です。
さて本作品は全編、韓国語ですが、その音や意味が分からないものの、サブタイトルに従い、印象に残ったところを幾つか記しますと、・・・。
1 まず、邦訳で「必勝」となっている敬礼のシーンが良く出て来ました。
その発音を良く聴いていると「ヒス」と声を出していました。これは、漢字で書けば、「必勝」となるところ、韓国語の音で「ヒス」となると思われます。意味は、読んで 字の如しで、韓国軍では、対北との対決で、こうした言い方をその度の敬礼に採用して いると理解しました。
2 北朝鮮側の司令部と思われるところが登場して来ましたが、其処の遣り取りでは韓国 側の事を「南」と言っていました。自らを唯一の正当国家と主張する北朝鮮側にすれば、
「韓国」や「大韓民国」との言い方は、避けなければならないのでしょう。
3 韓国海軍の高速艦艇に乗り込んで、黄海での非常訓練に出動するとき、上官に隠れて、
下士官や水兵数名が艦の一角で、旨い海老料理をコンロで温め、みんなでほおばる場面 がありました。間もなく、艦長に見つかり、制裁として全員で腕立て伏せを命じられる のですが、艦長は何故か、しっかりと理由を告げます。コンロなどの火を遣うと、敵か ら見えて、秘匿の訓練が知られてしまい、まずいと言うのです。そこの所は、いきな りビンタを浴びせたりするのではないので、合理性が感じられました。
4 北側は韓国艦艇の展開する辺りに、漁民に偽装させて敢えて南侵し、韓国側にわざと 拿捕されます。韓国側はその「漁民」が北の将校で在る事を見抜きつつも、艦長の規 則に従った判断で釈放しますが、そのとき、偽装した北の将校は、韓国側の装備や対 応の程度を鋭く観察し、以降の対「南」軍事行動に役立てます。このケースでは、北 の「漁民」は、何と偽装した北の艦長自身でした。
5 その日は、サッカーのワールドカップの韓国対トルコの第三位決定戦が行われる日で した。そして、それを楽しまんとする将兵がアンテナを艦に持ち込んで、将に試合を 見ようとすると、その心情が良く分かる艦長は今度はそれを許します。その時に、何 と本当の非常召集が懸かり、全員が配置に着くことになります。その途端、突如北側の 不意打ちの砲撃が始まるのです。
一方、この海戦の熱戦の最中に、サッカーの試合も始まり、韓国の大応援団が会場や 通りを埋め尽くして、「大韓民国」と絶叫します。皆、黄海の海上での衝突を知るよ しも無く、応援に夢中となるのでした。
暫くして、韓国側は艦艇のみならず、戦闘機や救援ヘリが緊急出動します。斯くて、 その上空を飛ぶ姿を見て、サッカーの観戦者も異変を知ることとなります。
この映画は、斯くて海上の激戦と、韓国の国技とも言われるサッカーの国際試合を並行 して取り上げたのでした。
6 終わりに悲しみの葬儀などの場面がありました。
そこでは、この作品で唯一箇所、漢字が使われているところが出て来ました。それは 故人の「故」と言う字です。 他は、悉くハングルでして、ところどころでアルファベ ットや算用数字を散見しただけです。
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