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メディア環境7つの変化-- 超多チャンネルメディアの中でマスメディアの存在価値は?(上)

2026.06.04 Thu

 京都府南丹市で児童が行方不明になった事件では、SNS上で多くの人が「探偵」のように推理を行い、憶測やデマが拡散しました。近年の選挙でも、演説動画の切り抜きがSNSやYouTubeで大量に流通し、支持・反対双方による「情報戦」が展開されています。噂やデマは昔から存在したのですが、現在はメディア環境の変化によって、その広がり方や影響力が大きく変わっています。以下、変化を7項目に分けて概説します。

1◇端末とメディア利用の個人化

 電話というメディアに注目すると、現在では個人にとって携帯電話(スマホ=スマートフォン)があたりまえで、固定電話の無い家も増えています。振り返ると、電話というメディアの利用形態は、隣近所(地域共同体)共用→家庭内共用→個人利用と変遷してきました。多くのメディアは、このような「個人化」(パーソナライズ)をたどってきました。ラジオはマスメディアの中で最も早く個人化(ラジオ受信機でラジオ放送を聴く)が進みました。

 ニュース報道の“王様”を自認していた新聞(紙の新聞)は家庭内共用の段階からなかなか脱することができていません。言い換えれば、一家に一紙という高普及を達成した成功体験が足かせとなって、デジタルの時代に個人化がうまく果たせず、ネットの中で存在感を十分持ちえないでいます。

 個人化のきわめつけはスマホでしょう。電話の個人化とコンピュータの個人化が合わさった端末です。インターネットにつながって誰もが受発信できる端末として、多くの人が常時持ち歩くようになっています。夜中の思いつきやデマまで瞬時に発信できる背景のひとつに、このような究極の個人化があります。

2◇超・多チャンネルメディアの出現

 かつては情報発信を一元的に担っていた新聞やテレビといったマスメディアは、誰でも発信できるソーシャルメディアの時代になって、「膨大に存在する情報発信者の一つ」になってしまいました。昨今のテレビ(受像機)のリモコンにそれが如実に現れています。電波(地上波、衛星)で送られてくる従来のテレビチャンネルに加えて、YouTubeやアマゾンのPrime Video、Netflix、Tverといったインターネット経由の映像配信サービスがボタンひとつで呼び出せるようになっています。

 このボタンの中で特異なのはYouTubeで、いまや日本国内では、300万を超える個人や企業などが発信者となっています。その多くが“一人放送局”のようなものなので、編集者のような立場の人の目を通っておらず、リモコンにあるボタンの中で、YouTubeだけがすさまじく玉石混淆です。

 いずれにせよ、視聴者からは電波もネットも区別する必要がないので、テレビリモコンから見えるメディア環境は「超・多チャンネルテレビ」です。さらに、スマホやパソコンがあれば、ネットを通じて映像のほか、音声、文字(テキスト)などさまざまな種類の情報に接することができます。SNSのような人対人のコミュニケーションサービスも含めて、その発信元のサイト(ホームページ)やアプリの数は文字通り天文学的なレベルに達しています。リモコンから見える超・多チャンネルテレビを含めて「超・多チャンネルメディア」に私たちは囲まれているということができましょう。

3◇ニュースとの二大接点 ニュースプラットフォームとソーシャルメディア

[ニュースプラットフォームの台頭]

 マスメディアの代表格である(紙の)新聞もテレビも、コンテンツを届ける経路(流通チャネル)が限定されていたのに、その優位性がなくなってしまいました。いまやインターネットという経路の登場により新聞やテレビはネットの中では横並びの中のひとつになってしまいました。

 ニュースの流れ方を、新聞社に焦点を当てて見てみましょう。現在、新聞社が、紙離れのもと、いちばんねらっているルートは、読者から料金をもらう自社ニュースサイトです。トップは日経電子版で、有料読者数約100万に達していますが、この数年頭打ちになっています。次いで朝日新聞(デジタル)が約30万で、こちらもなかなか増えないのが現状です。 注)紙をとらないデジタル単独の料金は、日経4277円、朝日980円~3800円)

 いちばん太い流れは、読者が金を払わないルートであり、主にニュースプラットフォーム(Yahoo!ニュースなど)からと、SNSやYouTubeのようなソーシャルメディアを通じてニュースを見るというルートです。日本のオンラインニュース環境の大きな特徴は、Yahoo!ニュースやSmartNewsのようなニュースプラットフォームへの接触率が非常に高いことです。(大森翔子、総務省情報通信政策研究所による調査 2023) 注)ニュースプラットフォームはニュースアグリゲーターとも言う。

[公共性重視と“断片ニュース”]

 Yahoo!ニュースのトップページを見ると8項目のニュースが掲載されています。Yahoo!ニュースの発行者によれば、上の方の項目には、アクセス数が見込めなくても、多くの人に知らせたい公共性の高いニュースをあえて載せているとのことです。Yahoo!ニュースは新聞のようなアジェンダセッティング(課題設定)機能を有しているという言い方もできるでしょう。エンタメ、スポーツなどやわらかいニュースは下の方に置かれています。そのため、エンタメ志向の強い人でも、Yahoo!ニュースのようなニュースプラットフォームを見ていると政治意識が高まる傾向があることが確認されています(稲増一憲 2025)。

それに対して、ニュースプラットフォームを見る習慣がなく、ソーシャルメディアに接する度合いの強い人は、そのアルゴリズムによって、特定のテーマのニュースや話題に偏って接することが多くなります。フィルターバブルと呼ばれる現象です。それとうらはらに、ニュースを自分から探さなくても、ニュースの方から自分を見つけてくれるという意識が広まっています。NFM(News Finds Me)という概念です。(大森翔子 2025年)。

 ソーシャルメディア経由の場合、いわば“断片ニュース”を見ています。そして、メディアの編集者による選択や順序づけを経ず、読者・視聴者のもとにバラバラに届きます。

 山越修三氏(慶應大学法学部教授)は、そうした状況について「SNSユーザーの一部はもはやテレビや新聞などの伝統的なニュースを日常的に参照していない。それはニュースよりもSNS上の話題や動画の参照を通じて政治的に社会化されるということを意味する。そうしたユーザーにとって、『政治』とは何かという感覚はSNSを通じて形成されていくのである」と語っています(朝日新聞2024/8/9)。

[一次情報をだれが集めているのか]

 ニュースの流れの図の中で、注目してほしいのが、一次情報をどこが収集しているかという点です。大部分は、伝統メディアないしオールドメディアと呼ばれる既存の新聞社、テレビ局、通信社の記者が集めています。さまざまな相手に取材をしたり、現場に足を運んだり、資料やデータを探索したりして、記事やニュースにしています。Yahoo!ニュースなどのニュースプラットフォームは、それらの配信を受けて流しています。言い換えれば、新聞社もテレビ局も通信社化しています。ただし、多数のメディアのどの記事・ニュースを取り上げるかは、圧倒的にアクセス数の多いプラットフォーム側が決めるので、力関係ではメディア側が弱いというのは否めません。

4◇YouTubeの“テレビ”化 受動的視聴の広がり

 YouTubeは誰でも自由に映像を発信(配信)できるソーシャルメディアの一種です。コメントをつけられる場合が多いですが、XとかFacebookといったSNSと比べると双方向性は弱いと言えます。

 YouTubeは、いったん出会った番組(チャンネル)を選んだあとは、YouTubeのシステムが備えているアルゴリズム(推奨メカニズム)によって、次々に興味に沿った番組が提案されます。また、それまでに自分が選んだ映像をYouTubeが自動で「ミックスリスト」としてまとめてくれて、まるでDVDアルバムのように連続して視聴することができます。つまり、いずれの場合も、従来のテレビのように受動的に視聴できます。あたかも泡の中に浮かぶように受動的にひたることができます。すでに述べたフィルターバブルです。

 ところで、2026年2月の衆院選期間中にYouTubeの自民党公式チャンネルで公開された、高市早苗首相を前面に押し出したメッセージ映像は、なんと1億3000万回以上も再生されました。つまり、フィルターバブルにより個々の人を異なる“泡に浮かべる”だけでなく、YouTubeがマスメディアとして多くの人々に同一のメッセージを配信することも可能になってきました。

 

※(下)では、下記の項目を掲載します。

◇個人(パーソナリティ)主導のジャーナリズムの進展
◇複合メディア環境の広がり
◇アテンションエコノミー(関心経済)

◇マスメディアへの期待

※本稿は、ミニコミ『教育改革通信』に掲載された論考からの転載です。若干補筆しています。


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