大手メディアが伝えない情報の意味を読み解く
情報屋台
社会
暮らし

「保養」という名の「再創造」

2019.07.16 Tue

「保養」という言葉で私たちが思い浮かべるのは、海や山など自然に恵まれた環境の施設で、温泉につかりながら、日ごろの疲れをいやす、といった休日の過ごし方です。しかし、放射線被曝への不安を抱く福島の人たちにとって、「保養」という言葉は、もっと複雑な意味が込められているようです。

 

7月の3連休に、新潟県長岡市寺泊で行われた福島県内の子どもたちとその保護者を対象にした「保養プログラム」を見学してきました。私が参画しているNPO法人(特定非営利活動法人東日本大震災こども未来基金)が助成金を出しているプログラムでもあり、どんな思いでスタッフは実施しているのか、また保護者は参加しているのか、話を聞いてみたいと思ったのです。

 

このプログラムを実施しているのは、「SEEDS OF HOPE」というNPO法人です。2011年3月の東日本大震をきっかけに福島県内で除染作業などの支援事業を進めるなかで設立された団体。放射線量の少ない地域で子どもたちを遊ばせたい、という保護者の要望を受けて、2012年4月から「保養プログラム」を始めました。これまでに1200人を超える子どもや保護者がこのプログラムに参加したそうです。

 

今回のプログラムには、福島県いわき市、郡山市、福島市などから6家族20人が参加していました。寺泊の民家が海岸を目の前にしたところでもあり、子どもたちの遊びは海辺が中心で、スノーケルで泳いだり、砂遊びに興じたりしていました(冒頭の写真)。

 

夜の懇談の席などで、保護者からいろいろな話を聞きました。

 

「いまは放射線量もだいぶ低くなっているのですが、それでも自然の状態よりも高いところが多く、子どもの健康を考えると不安があります。いちばん幼いこどもが妊娠中に原発事故が起きたので、この子のことがとくに心配です」

 

「除染されたところでは、放射線量は下がっていますが、除染されていない森林や野原もあり、子どもたちを外で遊ばせるときは、とくに不安を感じます。だから、子どもが外で遊べるような保養プログラムにはできるだけ参加するようにしています」

 

「放射線についての不安を近くの人に言ったら、『まだ、そんなことを言っているの』と、強い言葉で否定されたことがあり、ふだんは放射線や保養のことを口にすることはありません。保養プログラムの説明会や保養先で、知っている人に会うと、お互いに『あなたも気にしていたの』と、同志を見つけたような気になります」

 

「ふだんは、放射線の話などできないので、保養に参加して、本音の話がいろいろとできるのはうれしい」

 

「経済的に余裕のある家庭では、県外に母子だけ移しているという話をよく聞きます。放射線のリスクがあるのかわかりませんが、親としては、できるだけ子どもの安全を優先させたいと考えるのが当然で、こうした保養プログラムに参加しています」

 

「放射線のリスクはあまり気にしていないのですが、いろいろな地域の子どもたちと子どもが遊ぶ経験をするのは、こどもたちにとっても良いことだと思うので、保養プログラムに参加しています」

 

保護者の話を聞きながら、このプログラムに参加している保護者が「レジャー」というよりも、「保養」に意義を見出していることがわかりました。とくに、放射線被ばくによる健康被害への不安を持っている保護者が多く、県外の自然環境で遊ばせたいという切実な思いを感じました。

 

放射線の被曝による子どもへの健康被害でいちばん懸念されるのが甲状腺がんで、福島県は「県民健康調査」の一環で子どもの甲状腺検査を進めています。現在は4回目の検査に入っていますが、これまでの先行検査(2011年度~2014年度)では90人、2回目の検査(2014年度~2016年度)では71人、3回目(2016年度~2017年度)では24人が「悪性ないし悪性の疑い」と判定されています。

 

健康調査の検査結果を分析する検討委員会の甲状腺検査評価部会は今年6月の「まとめ」で、2回目の検査結果についての評価をしていますが、そのなかでは、①2回目の甲状腺がん発見率は先行調査よりやや低いものの、依然として通常の推計有病率よりも数十倍高い、②地域別の発見率は、先行検査では地域の差はみられなかったが、性、年齢等を考慮せずに単純に比較した場合、2回目の検査では、避難区域等13市町村、中通り、浜通り、会津地方の順に高かった、③発見された男女比がほぼ1対1で、臨床的に発見される傾向(1対6程度)と異なる、などの結果が書かれています。

 

ここだけ読むと、放射線被ばくが子どもの甲状腺がんの発現に影響しているように思いますが、「まとめ」は、「悪性ないし悪性疑いの発見率には多くの要因が影響していることが想定される」として、いくつかの要因を分析した結果「現時点において、甲状腺検査本格検査(2回目)に発見された甲状腺がんと放射線被ばくの間の関連は認められない」としています。

 

「関連は認められない」と言い切った部会のまとめを受けた7月の親会議にあたる検討委員会では、この結論をめぐって、激しいやりとりがあったようです。

 

2017年に日本学術会議が発表した報告「子どもの放射線被ばくの影響と今後の課題」は、「子どもの健康影響に関する不安は根強い。これは線量推定やリスク予測の不確かさから専門家間の見解に相違があることにも関係している」と指摘しています。こうした状態がいまも続いているわけで、「保養」に参加した保護者が真剣な思いでいるのも当然でしょう。

 

この保養プログラムのリーダーである青山徹さん(52)に、「参加者の思いはずいぶん切実なのですね」と私の感想を話したら、次のような答えが返ってきました。

 

「私たちは放射線と健康被害との関連については、予見を持っていません。ただ、福島県内にいまも不安を抱えている人たちがいる以上、私たちはその気持ちに寄り添って、保養プログラムを続けていこうと思っています。私たちの団体のフェイスブック(※)では、ほかの団体のたくさんの保養プログラムを紹介しているのですが、それ以外にも多くの保養プログラムがあります。それだけニーズがあるのだと思います」

 

https://www.facebook.com/SeedsOfHopeonJAPAN/

 

プログラムの参加費は有料(おとな1人5000円、こども1人2500円、1家族限度額1万円、母子家庭は半額)です。青山さんは「有料したのは、費用の補填というだけでなく、『レジャー』ではなく『保養』を求める家族に参加してほしいから」と言います。

 

青山徹さんは、岐阜県中津川市で自動車販売業を営んでいます。東日本大震災の直後に、宮城県石巻市に入りボランティアの支援活動を開始、その後、福島県で除染にかかわり、さらに保養プログラムをはじめました。活動の範囲も広がり、2016年4月の熊本地震、2018年7月の西日本豪雨など大きな災害があると、現場に行ってボランティア活動をしているのだそうです。

 

「1年の3分の2はボランティア活動、本業は3分の1ですね。おかげで売り上げは減りましたが、人生はお金じゃありませんから、生活を維持し、ボランティア活動ができる程度に稼げればいい、という考えになりました」

 

海岸が目の前に迫る施設の持ち主は、東京で投資運用会社を経営する古川千春さん。東日本大震災が起きるとすぐに、「フェニックス救援隊」(現在は一般社団法人フェニックス災害支援機構)を立ち上げ、被災地の支援活動をはじめました。フェニックスの名前は、2004年の中越地震後、長岡花火大会で打ち上げられる復興祈念花火「フェニックス」から取ったそうです。長岡市内に実家が中越地震で被災したこともあり、被災者やボランティアの拠り所として約1000㎡の敷地にある民家を買い取って「フェニックス・ハウス」と名付け、その後も救援隊の研修所や保養プログラムなどに利用しています。また、日本三大花火大会のひとつである長岡まつりの花火大会にも、被災地の人々を招待し、ここを宿泊所として提供しているそうです。

 

古川さんも、東日本大震災以降、大きな災害があると現地に入るボランティア活動のいわば常連で、青山さんと知り合ったのも広島土砂災害の現場だったそうです。この保養プログラムの直前には、ロンドンでビジネスをこなし、長岡に入る当日の午前中は、東京・赤坂で週末に開く「ヒルズマルシェ」に出店している石巻市の木工作家、遠藤伸一さんの店番をボランティアでしていました。

 

「日本の災害ボランティアは、東日本大震災以降、半ば職業として有給で取り組む人たちと、我々みたいに本業を持ちながら無給のボランティアで活動する人たちと、ときどき参加するひとたちと3層構造になっています。こうした構造ができ、それぞれの層に厚みもでき、最近の災害現場では、自分の持っている専門技術を駆使する『プロボノ』や、災害の救援や支援技術にたけた『災害エキスパート』と呼ばれる人たちもふえています」

 

寺泊の宿泊施設の倉庫をのぞいたら、新しい小型の重機がありました。災害現場では、小型の重機が活躍する場面が多く、災害ボランティアのなかでも、重機を備えたり、そのための免許や技術を修得する人たちもふえているそうです。古川さんも小型の重機を操縦できる免許を取得し、海岸に漂着する流木や漁網、プラスチックごみなどを撤去しながら、重機の操縦演習を行っています。実際の災害現場には、まだ持ち込んでいないそうで、これから災害ボランティア活動では、出動の機会があるかもしれません。

 

災害は、いつどんな場所で、どのような規模で起きるの予測できません。災害ボランティアのなかでは、古川さんは長岡市、青山さんは中津川市に、それぞれ災害救援活動に必要な道具を置いていますが、こうした分散保管の動きは茨木県常総市、石巻市、東京都あきる野市などにも広がり、互いに連携、協力をしているのだそうです。

 

この保養プログラムには、青山さんや古川さんのほか、東京の公的機関に勤める男性や地元の女性の教員らがスタッフとして参加していました。だれからの強制もなく、お金のために働いているわけではないせいでしょう、みな生き生きとしているのが印象的でした。保養で来る子どもたちも親たちも、そしてプログラムを動かすスタッフたちも、「保養」によって日ごろの生活を「再創造」(recreationレクリエーション)させているのだと気づきました。


この記事のコメント

  1. 中北 宏八 より:

    避難した人たちはどうしているのか、支援しているのはどんな人たちか、具体的によく分かりました。

  2. 考え人 より:

     東電原発事故の放射線被曝は限定され、もはや新聞でも地元住民の不安や警戒は殆ど取り上げられてない。
     でも、本当にそうなんだろうか。
     思い出すのは、事故直後の当時の政府対応である。
     原子炉が爆発して放射性物質が空中に飛び出し、風に乗って周辺に拡散した。特に西北西の風が強かったため福島県のその方向に向かって集中し飛んで行った。
     その時の政府の対応について、後日、我々庶民の耳に入ったのは、担当大臣が 
     ”今、このことを地元に伝えたら、避難行動で地域の交通事情が大渋滞となり、住民が大混乱、自己中心の大騒動になり収拾がつかなくなる。だから問題なしと伝えろ!!”と云ったということである。
     確かに非常時は我を忘れるのは仕方ないことと理解はできる。
     ただ、私が思うのは、こういった事実のあったことを、国の安全確保には、時期が遅れても国民に正直に伝え明らかにすることだと思う。
     我々は現実を、例え辛く悲しいと動揺続けても、起きてることの真実を把握できれば問題の本質を理解できる。
     そうすれば事故の未然防止に繋がり、対応のアイデアや組織の形成、損害の僅少化へ道筋など有効な対応が可能になる。
     日本政府の現状は、こういった有効な手段の確立がとても不得手と思えて仕方がない。

     特に目立つのは、国民への伝達がウソとゴマカシのオンパレートになってることだ。
     大阪財務局の職員自殺に政府関係者の謝罪と贖罪の実行があってしかるべきだろう。

  3. 小林一 より:

    いい記事ですね。長岡もいわきも縁があり、興味深く拝読し、シェアさせていただきました。

  4. 高成田 享 より:

    見出しで「再創造」(レクリエーション)としたら、「遊び」と誤解されると言われましたので、( )をはずしました。レクリエーションは余暇とかレジャーなどと混同され、遊びと同義語になっていますが、レクリエーションの言語的な意味は「再創造」で、日本では戦前、「厚生」と訳され、それが厚生労働省の名前にも生きています。筆者の意図は、これが本当の「レクリエーション」(再創造)ということです。

コメントする

内容をご確認の上、送信してください。

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)

社会 | 暮らしの関連記事

Top