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吉村一族企業の闇は深く、県政への信頼は失われた

2020.11.29 Sun

吉村美栄子・山形県知事の義理のいとこ、吉村和文氏が社長をつとめる「ケーブルテレビ山形」は、2016年1月に「ダイバーシティメディア」と社名を変更した。

吉村県政が誕生した後、会社の売上高は急増したが、2011年3月期をピークに減少に転じた。とくに、主力のケーブルテレビ事業の収入が減り続けている(図1)。その落ち込みを補うためには経営を多角化するしかない。社名の変更は、その決意を示したものだろう。

この会社が学校法人、東海山形学園から3000万円の融資を受けたのは、社名変更から2カ月後のことだ。かなりの金額である。その融資が何のためだったのか、経営のかじ取りをする社長が記憶していないはずがない。

融資の目的について、和文氏は山形新聞の取材に対して次のように答えている。

「ダイバー社のハイビジョン化の設備投資を目的に、複数金融機関の融資承認がそろうまでの間の短期貸付だった」(2017年7月4日付の記事)

先細り気味とはいえ、ケーブルテレビ事業は売り上げの7割を占める。その部門への設備投資を怠るわけにはいかない。けれども、メインバンクの山形銀行をはじめとする金融機関はなかなか金を貸してくれない。それで自分が理事長をしている学校法人から借りた――というわけだ。

その3000万円をダイバー社は2カ月後に返済している。融資の審査が終わって銀行が貸してくれたのか、といった疑問は残るものの、それなりに筋の通った説明だった。

ところが、和文氏は最近になって「設備投資のための融資説」を撤回し、あれは「学校法人の資産運用だった」と言い始めた。今年の10月15日付で報道各社に配布した「東海山形学園の貸付についての経緯説明」という文書で次のように記している。少し長いが、冒頭部分をそのまま引用する。

「東日本大震災後の2013年当時は、国や県から校舎の耐震強化についての指導があり、本学園においても、生徒と教職員の命に関わる大事業に取り組むにあたり、いかにして自己資金を増やし経営を安定させるかが大きな課題でありました」

「このことについて理事会では何度も議論を重ね、学園の資金を増やし、耐久年数が心配される校舎の改築費用に充て、私立学校の高額な授業料を減額する目的で、文部科学省の『学校法人における資産運用について』を参考に『運用の安全性』を考慮し、元本が保証され資産が毀損(きそん)しない相手として、2013年に私個人に5000万円、2016年にダイバーシティメディアに3000万円の貸付を行いました」

本コラム(2020年9月30日)でお伝えしたように、和文氏個人にもダイバー社にもこの時期、担保として提供できる資産はほとんどなく、金融機関は融資を渋っていた。それを「元本の返済が保証される相手」と記す感覚には驚いてしまう。貸付に伴うリスクをまるで考えていない。

文書はA4判で2ページ分ある。2ページ目には、この資金運用について学校法人の理事会でどのような手続きをしたか、私学助成を担当する山形県学事文書課からどのような指摘を受けたかについて詳細につづっている。

とりわけ、和文氏が学校法人の理事長と会社の社長を兼ねていることから、金銭の貸付が利益相反行為になることについては「所轄庁である県に(特別代理人の選任を)申請しなければなりませんでしたが、その認識がなく、それを行っていませんでした。(中略)当学園の責任であり、心よりお詫び申し上げます」と陳謝している。

利益相反行為について「その認識がなかった」と書いている部分は正直とも言えるが、「会社の金も学校の金も自分のもの」と考えていたことを“自白”したようなものだ。学校法人の理事長としての資質を問われかねない重大事だが、そうした意識もないのだろう。

文書では、最初から最後まで「資産の運用だった」という主張を貫いている。「設備投資のための融資」という表現はまったく出てこない。してみると、先の山形新聞の取材に対しては「口から出まかせのウソ」を言った、ということだろう。河北新報にも当時、「資金は設備投資に充てた」と答えている。これもデタラメだったことになる。

報道機関に対してウソをつくのは許しがたいことである。ウソをつかれたと分かったなら、記者は猛烈に怒らなければならない。読者や視聴者はそれを事実と受けとめるからだ。少なくとも、報道する者にはその矛盾をきちんと追及し、フォーローする責任がある。黙って見過ごしてはいけない。

では、今回の釈明は信用できるのか。

文書によれば、最初に問題になった2016年の3000万円融資については、2カ月後に年利2・5%の利息13万円余りを付けて返済したという。そして、この秋に発覚した2013年の5000万円については「8日後」に同じ年利で2万7397円の利息を付けて返した、と記している。

資産の運用は通常、株式や債券などを購入して行う。リスクはあるが、見返りも大きい。リスクが心配なら、国債を買ったり、金融機関に定期で預けたりするのが常道だ。「8日間、金を貸して利子を得る」のを資産運用と言い張るのは和文氏くらいだろう。

金を貸して利子を取るのは「貸金業」という。もし、東海山形学園がこうしたことを繰り返せば、今度は貸金業法に触れるおそれがある。文部科学省も山形県も、学校法人が「資産運用のため」貸金業を営むのを認めることはあるまい。

いずれにせよ、利益相反行為の場合に必要な「特別代理人の選任」を怠ったので、東海山形学園は理事会でこれを追認する手続きを踏まなければならなかった。2016年の3000万円の貸付は、その年の9月の理事会で追認した。一方、2013年の5000万円については今年10月の理事会で追認したという。

なんと、7年もたってからの追認だ。異様と言うしかない。しかも、こんな重要なことを県には「口頭で報告」したのだとか。それで了承した学事文書課もどうかしている。議事録を添えて文書で報告させ、議事の内容をきちんと確認するのが当然ではないか。東海山形学園も県当局も常軌を逸している。

報道各社あてのこの文書は、10月27日に山形県私学会館で開かれた県内の学校法人の理事長・校長会でも日付だけ手直しして配布され、和文氏が釈明にあたった。出席者によれば、この会合でも「8日間の資産運用というのは短すぎるのではないか」という質問が出た。これに対し、和文氏は「試しに運用してみた」などと説明して煙に巻いたという。

質問はこれだけだった。出席者の一人は「少子化で生徒が減り、どこの高校も経営が厳しい。銀行から金を借りるのならともかく、貸すことなど考えられません」と述べ、こう言葉を継いだ。「ただ、私立学校にはそれぞれの立場があります。よその学校のことについて、あれこれ言うわけにはいきません」

誰も納得していない。和文氏はなぜ設備投資のための融資説を撤回したのか。これで資産の運用と言えるのか。和文氏に手紙をしたためて問い合わせたが、返事はない。説明を求めようと会社に電話をかけても、彼は出てこなかった。

本当は何に使ったのか。この5000万円については「プロレスに投資したのではないか」との憶測が消えない。

ジャイアント馬場、アントニオ猪木といったスター選手がリングを降りてから、プロレス業界は四分五裂の状態に陥った。5000万円の貸付があった2013年当時も、人気プロレスラーの秋山準ら5人の選手がそれまで属していた団体から離れ、全日本プロレスに移籍する騒動があった。

事情通によると、この時、秋山選手らを支えたのがケーブルテレビ山形の吉村和文氏とジャイアント馬場の元子夫人だった。元子夫人は横浜市青葉区にあるプロレスの道場と合宿所を提供し、資金はケーブルテレビ山形が負担する段取りになったようだ。興行権の確保や新会社の設立準備などのため数千万円の資金を必要としたはず、という。

翌2014年の夏、和文氏は「全日本プロレス・イノベーション」(本社・山形市)という持ち株会社と運営会社の「オールジャパン・プロレスリング」(本社・横浜市)を立ち上げ、両方の会社の取締役会長に就任した。社長は秋山選手である。

ケーブルテレビが生き残るためには、NHKや民放が放送しない、あるいは放送できない番組を提供しなければならない。プロレスはそのための有力なコンテンツの一つ、と考えて進出を決めたようだ。

和文氏はかなり前から、プロレスに関心を寄せていた。彼のブログ「約束の地へ」で「プロレス」と打ち込んで検索すると、この10年間で122件もヒットする。

ブログの主なものに目を通してみた。2013年ごろ、山形南高校応援団の後輩でプロレスのプロモーターをしていた高橋英樹氏や「平成のミスタープロレス」と呼ばれた武藤敬司氏、馬場元子夫人らが相次いで山形を訪れていた。和文氏に会うためで、彼は「プロレスのタニマチ」のように振る舞っている。新しいビジネスへの進出に意欲を燃やしていた。

ただ、この業界は昔から「売り上げの分配」をめぐる争いが絶えない。それぞれの選手にいくらギャラを払うのか。興行主の取り分をどうするのか。関連グッズの売り上げは・・・。新たにスタートした全日本プロレスも例外ではなかった。

別冊宝島のプロレス特集(2016年2月28日)によれば、立ち上げから1年で、新生全日本プロレスは5000万円の赤字になってしまった(図2)。「始める前は気分が高揚して期待を持ってしまうのだけれども、見通しが甘すぎるのと、現場の選手たちは誰も親会社に恩義など感じていないので、結果としてこうなってしまう」のだという。和文氏が会長をつとめる持ち株会社の最近3年間の決算を見ても、ずっと赤字続きだ。

秋山選手はすでに社長を退き、別のプロレス団体のコーチをしている。新会社の立ち上げ時に何があったのか。事実関係を問いただそうとしたが、ついに接触できなかった。

5000万円は何に使われたのか。いまだ闇の中である。

   ◇    ◇

3年前、東海山形学園からダイバーシティメディアへの3000万円融資問題が表面化した際、吉村美栄子知事は記者会見でどう思うか問われ、「(学校法人が)適切に運営されているのであれば、よろしいのではないかというふうに思っております。(中略)そのことについて問題ないようだというふうに担当のほうから聞いております」と涼しい顔で答えた。

その後、東海山形学園が私立学校法に定められた「特別代理人の選任申請」をしていなかったことが明らかになった。3000万円融資の事実は県に提出された貸借対照表に記載されており、担当者はそれが利益相反行為に該当することを知り得たのに、漫然と見過ごしていたことも判明した。

学校法人は、ちっとも「適切に運営」されていなかったし、「担当のほう」もまるで頼りにならない仕事ぶりだった。さらに、5000万円の貸付について担当者はその後、気づいたのに、市民オンブズマンが発表するまで隠していた。知事の涼しい顔は、次第に苦々しい顔に変わっていった。

とはいえ、吉村知事は4期目をめざして、来年1月の知事選に出馬することを表明した。「いつまでも、こんなことに構っていられない。知事選に全力を注ぐだけ」という心境だろう。

出馬表明の記者会見では、新型コロナウイルスへの対応と経済対策との両立を図る考えを示し、最初の知事選の時の初心に帰って「正々堂々と政策を掲げて戦いたい」と述べた。県政と吉村一族企業との問題など小さな争点にすらならない、という風情だ。

だが、一族企業と学校法人の問題はそんなに根の浅いものではない。実は、吉村和文氏は毎年のように利益相反行為を繰り返している疑いがあるのだ。

和文氏はダイバーシティメディアの社長であり、学園の理事長であると同時に、映画館運営会社「ムービーオン」の社長も兼ねている。

東海大山形高校の教職員や生徒、保護者の証言によれば、学園は毎年、生徒全員分の映画チケットを購入し、タダで配っているという。映画チケットは各映画館共通のチケットではない(そのようなものはない)。生徒に配られたのは「ムービーオン」という特定の映画館のチケットである。

筆者の取材によれば、少なくとも2014年まで遡ることができる。関係者が多数いるので、確認するのも難しいことではない。

東海大山形高校の生徒数は図3の通りである。ここ7年間の平均だと、800人ほどだ。高校生の団体割引の映画チケットは1枚800円なので、生徒数を掛けると年間64万円、7年で448万円になる。

それほど大きな金額ではないが、問題はそれらの映画チケットの購入が「東海山形学園 吉村和文理事長」の名前で行われることにある。この学校法人を代表して購入契約を結ぶ権限があるのは理事長ただ一人だけだ。

つまり、東海山形学園は毎年、理事長が社長を兼ねる映画館会社のチケットを大量に購入して売り上げ増に貢献しているが、それらのチケット購入はすべて「利益相反行為」になる、ということだ。

利益が相反する以上、そうしたことは理事長の権限で行うことはできない。私立学校法に基づいて、学園は毎年、所轄庁の山形県に「特別代理人の選任」を申請し、利害関係のない第三者に取引が公正かどうかチェックしてもらう義務があった。

さらに、今春施行の法改正によって特別代理人の選任は不要になったが、利益相反行為であることに変わりはないので、今後も理事会で厳正にチェックする必要がある。一族企業と学校法人の間で、資金の融通や物品の購入を勝手気ままに行うことは、いかなる場合でも許されないのだ。

ことは、東海山形学園とダイバーシティメディア、ムービーオンだけの関係にとどまらない。学園が一族企業と交わすすべての契約について「利益相反行為」の疑いが生じ、チェックする必要が出てくる。

多数の企業を経営する人物が学校法人の理事長を兼ねれば、常にこういう問題が起き、公平さを疑われる事態を招くことになる。

だからこそ、文部科学省は「理事長についてはできる限り常勤化や兼職の制限を行うことが期待される」との事務次官通知(2004年7月23日付)を出し、さらに「理事長は責任に見合った勤務形態を取り、対内的にも対外的にも責任を果たしていくことが重要と考える。兼職は避けることが望ましい」との見解(高等教育局私学行政課)を出しているのだ。

普通なら、都道府県の職員は中央官庁の通知に沿って、粛々と実務を進めていく。だが、問題の学校法人の理事長は知事の縁者で、知事室にわがもの顔で出入りしている人物だ。誰もその権限を適切に使い、職責をまっとうしようとしない。

それどころか、県内周遊促進事業の業務委託問題で見たように、和文氏にすり寄り、便宜を図った者がトントンと出世していく。それを周りの幹部や職員は見ている。県庁の空気はよどみ、活力が失われていく。

中堅幹部の言葉が忘れられない。彼は次のように嘆いた。

「県職員として一番やりがいを感じたのは、係長や主査のころでした。新しい事業を立ち上げるため、みんなでアイデアを出し合い、『これがいい』『こんな方法もある』と、侃々諤々(かんかんがくがく)の議論をして練っていきました。それを課長補佐や課長に上げて通し、予算化していくのが実に楽しかった」

「吉村知事は2期目の頃から、何でも自分で決めないと済まないようなスタイルになっていった。下から積み上げていっても、気に入らなければ歯牙にもかけない。一方で、上から突然、ドスンと新しい事業を下ろしてくる。フル規格の新幹線整備事業のように。これでは、若い職員はたまらない。振り回されるばかりで、意欲がなえていくのです」

吉村知事は政治や社会の小さな動きには敏感だが、歴史の大きな流れには鈍感だ。情報技術(IT)革命のインパクトのすさまじさがまるで分っていない。それゆえに、県庁ではいまだに「紙とハンコ」を使って仕事をしている。

菅政権が「デジタル庁の創設」を言い始めた途端、「県の業務のデジタル化」などと言い始めたが、この12年、いったい何をしていたのか。

「道半ば」と知事は言う。その道はどこに通じているのか。何を信じて歩んでいるのか。

 

*このコラムは、月刊『素晴らしい山形』2020年12月号に寄稿した文章を若干手直しして転載したものです。

*写真は月刊『素晴らしい山形』12月号の表紙イラスト

*図1~図3をクリックすると、内容が表示されます。

 


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