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ウクライナ戦争を考える①「核」の不安

2022.03.08 Tue

ロシアによるウクライナ侵略は、戦闘が長引くにつれてロシア軍による民間の住宅などへの攻撃が目立つようになり、一般市民の死傷者も増加しています。破壊された住宅の映像、隣国へ「難民」となって逃れる人々の映像は、見ているだけで胸を締め付けられます。

 

こうした暴挙の張本人であるロシアのプーチン大統領は、市民への無差別攻撃など戦闘をエスカレーションさせているだけではなく、原子力発電所などの原子力施設を攻撃したり、核兵器の使用を含めた核抑止部隊に「特別警戒」を命じたりするなど、「核」を持ち出してきました。

 

「汚い爆弾」(dirty bomb)

 

ロシアは今回のウクライナ戦争で、原子力発電所の制圧に力を入れています。電力源を抑え、市民生活に停電などの圧力を加えるためとみられますが、狙いはそれだけではないでしょう。

 

ロシアにとって、今回のウクライナ侵略には、大義名分がありません。東部の親ロシア地域の住民を保護するということであれば、東部地区への侵攻で住民保護の目的は十分に達成できます。しかし、今回の侵略は、文字通りウクライナ全土への侵攻で、民主主義で選ばれたゼレンスキー政権を倒そうとしています。

 

その理由としてロシア側が持ち出しているのは「ウクライナは核兵器を開発しようとしている」という根拠のない話です。ロシアが核関連施設を攻撃、占拠したのは、ウクライナが核開発をしているという「証拠」を示すのも目的の一つだと思います。原子力施設を占領してしまえば、それらしい核開発の道具などを持ち込んで「証拠」をでっちあげるのはたやすいことでしょう。

 

米国はイラクが大量破壊兵器を保有しているという理由で、英国などとともにイラクを攻撃しましたから、核開発の証拠を示せば、米国に文句を言われる筋合いはないというのでしょう。米国は、その証拠を示すことができず、イラク戦争は根拠のない侵略戦争になりましたから、ウクライナでは証拠を見せて、米国の鼻を明かそうと思っているのかもしれません。

 

さらに考えられるのは、原子力発電所などを「汚い爆弾」の道具として使うことです。「汚い爆弾」というのは、原子炉を破壊して「死の灰」を大気中に拡散させたり、核廃棄物を河川や貯水池に投棄して、長期間にわたって水を汚染させることで、その地域での住民の生活を困難にさせたりする核廃棄物など核物質を利用した兵器のことです。福島原発事故による被害状況を考えれば、この「汚い爆弾」の脅威ははかりしれません。

 

核兵器の使用

 

核保有国の戦争の軍事オプションには、状況に応じて「戦術核」や「戦略核」の使用も入っています。戦術核は、小型の核爆弾で、相手の部隊などをせん滅させるものが目的です。今回のウクライナ戦争では、予想に反してウクライナ軍の抵抗が激しく、ロシア軍の侵攻作戦が遅れていますから、形勢を一気に変えるオプションとして戦術核の使用も考えられると思います。

 

また、戦争がさらに拡大して、NATO軍との交戦という場面も後述するようにありえますから、こうした場面で、劣勢が予想されるロシア軍が戦術核を使用することも考えられます。

 

戦略核というのは、大陸間弾頭ミサイル(ICBM)で相手方の大都市などを破壊する核兵器です。冷戦時代はソ連と米国が核弾頭をつけたICBMをどれだけ持っているかという数を競い、お互いに相手を破滅させる核兵器を持てば、お互いに核戦争はできないという「相互確証破壊」(MAD)という理論(フィクション)が核戦争の抑止力となりました。

 

冷戦が終わったことで、人類の滅亡につながるような核戦争の危険性は遠のいたように見えましたが、今回の戦争で、プーチン大統領が臭わせた核兵器の使用は、戦術核よりも戦略核のように思えます。というのも、大統領が「特別警戒」を命じたのは、西側諸国が経済制裁という「非友好的な行動」を取ったからだと説明しました。また、欧米諸国による経済制裁は「宣戦布告のようなものだ」とも語っています。戦場から遠い米国を含む西側諸国に対して「特別警戒」するということは、戦術核ではなく戦略核の準備をしろ、という意味でしょうから、その行く付先は核戦争ということになりかねません。

 

もちろん、プーチン大統領の発言は「おどし」で、経済制裁に同調する国々に対する強いけん制ということなのでしょう。しかし、プーチン大統領の頭のなかでは、米国が音頭を取ってロシアを軍事的にも経済的にも封じ込めようとしているという構図が描かれているとすると、被害妄想のはてに、その突破口は戦争だということになるおそれはあると思います。

 

第3次世界大戦

 

プーチン大統領は、世界各国の首脳による和平の説得に、停戦はウクライナの「非軍事化」と「中立化」が条件だと繰り返しています。「非軍事化」とは、武器を捨てることですから「降伏」ということです。「降伏」を条件にした停戦交渉に相手方がたやすく応じるはずはありません。また、ロシアとウクライナが合意した「人道回廊」と呼ぶ一般市民の避難路も、ロシア側が銃撃や爆撃で妨害する一方、ロシア側が提示した「回廊」はロシア側への誘導で、これではウクライナ市民を捕虜か人質に取るのと同じで、ウクライナが応じることはできないでしょう。そうなると、プーチン大統領が考えているのは、停戦交渉の間にロシア軍の態勢を整えて、停戦交渉の決裂を理由に、航空機による無差別爆撃を含む、総攻撃ではないかと心配します。

 

戦争が継続し、拡大した場合、ウクライナ以外の国との戦争も視野に入ってきます。ロシアは、ウクライナに武器供与をしている国々に対して、供与された武器がロシア軍に対して使用された場合には、「相応の責任を取らせる」と警告しています。戦争は、相手の弱点を突くのが常道です。いま、フィンランドはウクライナに武器供与をしていますが、フィンランドはNATOの加盟国ではありません。ロシアがフィンランドを攻撃した場合、NATOはウクライナのときと同じように間接的な支援しかできません。

 

また、今回の経済制裁で、国際的な銀行決済の仕組みであるSWIFTからのロシア排除など厳しい対応を呼びかけたのがエストニア、ラトビア、リトアニアの「バルト三国」です。この3国はNATOの加盟国ですが、旧ソ連のなかにあった国で、プーチン大統領の神経を逆なでている「NATOの拡大」の急先鋒ともいえる国々です。いずれも小国ですから、ロシアが攻撃すれば、それこそひとたまりもない国です。集団的自衛権でNATOがロシアに反撃すれば、ロシア対NATOの全面的な戦争になりかねません。

 

ロシアのウクライナへ攻撃は、住宅への爆撃、クラスター爆弾や燃料気化爆弾の使用など非人道的な行為が目立ちます。さらに都市への爆撃など大規模な非人道的攻撃が続けば、多国籍軍による人道的な軍事介入の可能性も出てくると思います。これまでもボスニアに対するセルビア人の「民族浄化」などの非人道的な行為に対しては、国連による人道支援のための軍事介入は行われてきました。今回は、国連安全保障理事会で拒否権を持つ常任理事国のロシアが戦争の当事者であるため、国連による軍事行動はできませんが、何としてもロシアの行動を止めたいという国際的な世論が強まれば、欧米諸国の指導者は人道的な軍事介入に追い込まれる可能性もあります。

 

その場合、避難民が国外に脱出するための「人道回廊」の確保、病院など人道的な施設の保護、食料や医薬品の安全輸送の確保などと軍事行動は限定されるでしょうが、ロシアが認めるはずはありませんから、ここでも軍事衝突の危険性は高まります。

 

欧州全体が戦場になる第3次世界大戦や、ICBMがロシアと米国の間を飛び交う「核戦争」は、絵空事でしたが、いま欧州各国は第3次大戦、米国は核戦争を視野に入れはじめていると思います。核戦争だ、第3次世界大戦だ、とあおるつもりはありませんが、いまのプーチン大統領をみると、とても国益を考えて合理的な判断をする指導者とは思えません。ウクライナ戦争は、こうした「最悪のシナリオ」もその延長線上にあり、そうなれば私たちも無傷ではいられないのは明らかです。

(冒頭の写真はウクライナ政府が公開しているゼランスキー大統領の映像)

 


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