大手メディアが伝えない情報の意味を読み解く
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モバイルメディア・SNSを利用する人間の知恵とワザとは?

2016.07.08 Fri
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「クリエイジ」という名のネット書店がありました。広義のビジネス書に重点を置いて特色を出していましたが、amazonの一人勝ちという中で残念ながら10年ほどで閉店となりました。そのサイトには各界の人が寄稿する書評欄があり、私は定期的に執筆していました。今回は、いまから12年前の2004年に私が書いた書評をあえてご紹介します。

ご紹介するのは社会学者の野村一夫さんの著書『インフォアーツ論』についての書評です。これを読み直してみると、野村さんの主張はいまでも十分通用するし、それどころか、いまなお新鮮な問題提起になっています。この本の書かれた頃と比べると、現在ではSNSの主役も交代し、文中のmixiの存在は後退してツイッターやFacebook、Lineがプラットフォームとして台頭しています。また、端末ではスマートフォンが圧倒的な普及を見せるようになど、技術やサービスはますます高度化、洗練化してきています。しかし、そのような変化に対応して、それらを賢く利用する「知恵とワザ」は、果たしてどれだけ人々に備わってきているのでしょうか。野村さんの提起する「ネットワーカー的情報資質」や「情報学芸力」の必要性はいっそう高まりこそすれ、決して減じてはいないように思われるのです。

この本自体は現在絶版になっていますが、なんと野村さんが、自身のサイトで全文を公開しているのです。すぐにパソコンで読むことができます。ぜひお読みいただければと思います。

https://nomurakazuo.com/2011/07/01/info-arts10/

 

書評『インフォアーツ論』(野村一夫著、洋泉社新書、2003年1月刊)

ブログ(ウェブログ)ブームが、ようやくアメリカから日本に飛び火して、燎原の火のごとく広がりつつある。個人が自分の日記を発信するのに最適のしくみ として普及しているが、近鉄球団買収に名乗りを上げて名前を売ったライブドアの堀江社長の「社長日記」のように、有名人のブロッガーも増えている。

アメリカでブログが特に存在感を示したのは、あの9・11以後、ブログを使った「市民ジャーナリスト」がたくさん誕生して以降だ。ニューヨークタイムズ やワシントンポストなどの大手マスコミがそろって「ブッシュの戦争」を肯定する大合唱に飲みこまれてしまった中で、市民ジャーナリストがブログを使ってマ スコミに載りにくい情報や意見を発信し、対抗的な国際世論を形成する役割を果たした。しかし、そのすべてがまともであり一定の水準を持っているかと言え ば、もちろんそうではなく、玉石混淆なのは事実だ。

「インフォアーツ論」の著者野村一夫は、「ネットは外部からの可視性に優れた流言である。長く記憶にとどめられ、検索され、たえず引用されつづけるうわ さである」という。確かに、ブログも含めて星の数ほどあるホームページで語られていることの大部分は、基本的に「流言」(うわさ)である。ただし、流言と いうとマイナスの響きがあるが、ここではプラスかマイナスかの価値判断は込めていない。いずれにせよ、ネットのコミュニケーションは基本的にこのような特 性を持っているのであり、しかも文字で書かれているので、遠く離れた第三者も容易に知ることができる。

さて、こうしたことを踏まえて浮かびあがる疑問は、いまや生活になくてはならない存在になってしまったネットというメディアを、我々はうまく使いこなす 知恵とワザを持っているのだろうかということである。著者は、いま学校で行われている情報教育が実は情報工学的な「インフォテック教育」であって、それとは異なる「インフォアーツ教育」が必要だと主張する。実際、日頃学生に接触している著者の目からは、本をろくに読んだこともなく、携帯を一時も離さず内向 きのローカルな口コミにかまけている学生(著者によれば「台無し世代」)にインフォテックな情報教育をしても、「安直な情報主義」を強めるだけになってし まうという。

では、インフォアーツとは何か。それはリベラルアーツを模した著者の造語であり、新時代の情報環境を生きる知的素養のような意味を込めている。「ネットワーカー的情報資質」ないし「情報学芸力」という言い方もしている。「コンピュータの操作ができるだけでなく、そこで得られる情報の吟味や能動的探索」、 「図書館や書店に並んでいる無数の情報パッケージや新聞や放送での情報の比較・吟味」、「メールやメーリングリストや掲示板などによって討議して認識を深 めたり問題解決をしたり、コミュニティを形成していく関係構築的能力」、「さまざまなツールやメディアを駆使して仕事を展開するノウハウ」といったものが 著者の描くインフォアーツの内容である。

コンパクトな本ながら、著者の社会学者としての見識と厚みのある経験に裏打ちされた説得力のある好著である。

(参考)著者の個人ブログ https://nomurakazuo.com/

「ソキウス」   http://www.socius.jp/


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