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だれが「取材するメディア」を殺すのか

2022.08.01 Mon

◇Yahoo!ニュースで〇〇を見たという人は配信元のメディア名を言えるか?

メディアには「取材するメディア」と「取材しないメディア」があります。

その取材するメディアが殺されかかっています。殺そうとしているのは誰でしょうか。それは、プラットフォーマーであり、そこに配信しているメディア自身であり、さらには、プラットフォームの無料ニュースで事足れりとしている読者です。

 注)プラットフォーマーの代表はヤフーニュース、LINEニュース、スマートニュース。アグリゲーターないしキュレーションメディアなどとも言う。

昨今、若者に限らず、ニュースはYahoo!ニュースLINEニューススマートニュースなどのプラットフォームが載せているニュースで十分という人が多数を占めるようになっています。「オッケーグーグル、今日のニュース教えて」という呼びかけで主要なできごとを知ることもできます。あるいはツイッターやFacebookで誰かが取り上げているのを見てニュースを知るというケースも増えています。

そのようなニュースはYahoo!やLINEが取材をして作っているのではなく(一部独自取材のものもありますが)、新聞社や通信社・放送局・出版社などから配信を受けて流しています。Yahoo!ニュースなどでニュースを見る読者は、通常配信元メディアがどこかということを気に止めていません。つまり配信元メディアはメディアとしてのブランディングがあまり期待できないということになります。

確かにプラットフォームから配信元の新聞社等メディアには配信料が入るのですが、それは微々たる額であり、それだけでメディアが食っていくことはできません。特に新聞社は紙の新聞の販売が毎年激減しており、崖っぷちに立っています。それでも今は紙の売り上げでなんとか成り立たせていますが、紙がなくなったら、取材に人と金を投入していくことは困難になってしまいます。

従来の記者クラブなどの取材体制に改善すべき問題があることは見逃せませんが、新聞の取材体制が細ってしまうのは社会的に望ましくありません。「取材するメディア」として重要な位置を占める新聞を殺してしまっていいのでしょうか?そもそも新聞は「取材するメディア」というみずからの存在価値を読者・視聴者に十分伝えているのでしょうか?その価値を実現するには大きな金が必要であることを十分伝えているのでしょうか?そんな疑問が浮かびます。

アメリカでは多数のローカル紙がつぶれて取材するメディアがカバーしてない空白地帯が各地に生まれています。日本はまだそこまで行っていませんが、対岸の火事と言ってはいられません。

◇ヤフトピでの新聞の地位は安泰か?

本稿冒頭と下記に掲げた表は、ヤフトピ(ヤフートピックス)の各記事の配信元を筆者がカウントしたものです。Yahoo!ニュースのトップページに表示される記事はヤフトピと呼ばれています。国内とか経済といったカテゴリーのうち「主要」に採用された記事です。

調査対象は2022年7月の7日分(12日~18日)。そのうち、新聞の全国紙に着目すると、5社合計のシェアは19%です。読売、毎日、朝日がそれぞれ5~6%というところです。そのほか通信社3社、テレビキー局4局を合わせた中央のマスメディアがおよそ50%を占めています。なお、この時期は、安倍さん暗殺事件の翌週ということでその関連のニュースと、線状降水帯のニュースが目立ったという点を付記しておきます。

 

私の実感としては、以前より新聞社の比率が下がっている印象があります。その一方、テレビ局の比率が上がっているような印象を持っています。テレビの映像付きニュースが重視されてきている感があります。また、ネットメディアや個人メディアがよく採用されるようになって、配信元メディアが多様化していると感じています。ただし、過去のデータが取れないので、正確な比較はできません。とはいえ、ヤフーが公表している配信元メディア数(ヤフーの用語ではコンテンツパートナー数)は2018年頃約300だったのが、現在は700近くに増えているので、新聞社の占める比率が下がっていても不思議ではありません。

◇ヤフーに頼るな

このような情勢のもと、仮に新聞が束になってヤフーと価格交渉をしてもあまり期待できないと思います。要するに完全にヤフーの買い手市場であり、新聞に記事を出してもらわなくても通信社やテレビがあります。もっと言えば、ヤフーは報道機関というより、本質的に広告ビジネスの企業であり、アクセスが増えるのならコンテンツは何でもよいという面があります。今は編集部に新聞社出身者がいてふんばっていますが、少なくとも今のトップからジャーナリズムにかける思いが発せられたことはありません。

ではどうするか。スマホで無料ニュースを見るので満足しているユーザーを責めてもしかたありません。『2050年のメディア』の著者下山進さんは、雑誌「世界」(2022年8月号)で「持続可能なメディアはヤフーに頼らない」というタイトルで、前打ち(速報で先行する)の記事には競争力がない、むしろ独自の見方や発見のある記事を工夫せよと主張しています。その場合、持ち場に降ってくる情報だけに頼るとか、単なる評論にとどまるのでなく、独自に目をつけたテーマを対象に足でかせぐ取材をあくまでも主軸にしてほしいものです。そのような価値を提供する有料デジタル路線でいくしかないと確信します。現在、その路線で最も先行しているのは、ヤフーに記事を提供してこなかった日経電子版であり、有料契約数83万に達しています(2022年7月1日)ただし、月額4277円という高料金が壁になってか、ここ数年頭打ち感があります。(料金はすべて税込月額)

朝日新聞デジタル毎日新聞デジタルは、ヤフーニュースからのリンクで読者が流れてくることにも期待をかけて配信を続けていますが、低料金のスタンダードプラン(紙面ビューアーを利用できないプラン)を用意して契約者獲得に躍起になっています。特に毎日は月額1078円でウォールストリート・ジャーナルも読めるというというかなり“お得な”低料金を打ち出しています。朝デジも1980円スタンダードプランを前面に出しつつ、プレミアムコース(3800円)の魅力も増そうと、紙面ビューアーで過去90日分の紙面が見られるサービスを打ち出しています。

紙の紙面に比べて、デジタルでは、量的、時間的、機能的制約が小さいという特性があります。中身の記事・コンテンツの勝負であることはもちろんですが、それらを生かしていく新しいメディアデザインが求められています。デジタルならではの表現のさまざまな工夫ができるし、単なるコンテンツ消費ではない記者と読者のつながりを強めるなど、メディアの新しい形をデザインできるはずです。

補足:

取材するメディアの代表は新聞社と放送局です。新聞社のうち全国紙は、中央の政府や官公庁、警察、業界団体などに設置された記者クラブに記者を常駐させています。同時に、全国各県や海外主要国に支局などを置いて取材をしています。地方紙の多くは県紙とも呼ばれていて、おもに県内を取材エリアとしており、足元の県では全国紙よりも密な取材網を敷いています。放送局の中で突出して強力な取材網を持っているのはNHKです。また、主として地方紙に海外や中央の情報を配信している通信社も、自前の発表媒体は持たないですが取材するメディアの一員に入れていいでしょう。フリージャーナリストも取材するという立場としては同列に並べられます。

マスメディアの従来からの取材体制は、官公庁や警察などに“へばりついて”いるいわば「持ち場型」だと言えます。また当局の発表を所与のものとして読者に伝達する「発表ジャーナリズム」という性格が濃いのは確かです。特に記者クラブについては、官公庁などから場所を提供されて便宜をはかられていることや、また取材対象との“一体化”について疑問を向けられてきました。

とはいえ、日々の事件・事故や行政の動向などについて継続的に幅広く取材・報道していけるのはマスメディアの強みです。また、今度のウクライナ戦争の報道でもわかるように、マスメディアの記者やフリージャーナリストは世界各地での戦地や紛争地の現場をめざしています。

また、これまでの枠を超えて、特定テーマを深掘りする調査報道や、現場に足を運ぶような取材・報道も増えてきています。実際、伝統ある新聞協会賞のほか、近年さまざまな団体(スローニュース社、PEP政策起業家プラットフォームなど)が調査報道を対象とする賞を設定しています。それらの受賞作には、チームを組んで手間と時間をかけて実現したようなものがたいへん多いです。また、その中には、取材に注力しつつも発表の場は他に依存する通信社やフリージャーナリストの存在も目に付きます。

取材の方法の面では、近年では公開情報(政府機関、メディアの発表だけでなく一般個人が撮影した映像などオープンになっているさまざまな情報)をもとに事実を解明する手法が報道で目立つようになりました。この方法はオシント(Open Source Intelligence)と呼ばれています。これは取材というより調査という言葉の方があてはまりそうですが、本論の趣旨では取材と同様に考えてよいでしょう。


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