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6000万人を対象とするインターネット調査dサーベイは既存の世論調査を駆逐するか?

2022.11.05 Sat

◇1%の違いでも「支持率低下」、2%の違いでも「横ばい」?!

 最近の日経の世論調査の報道で気になる表現がありました。

 日経新聞とテレビ東京による最近の世論調査について「岸田文雄内閣の支持率は42%で9月調査(43%)から1ポイント低下した」と記事にあります。(電子版2022年10月30日、紙面では翌日掲載)

 この調査はいわゆるRDD方式によるもので、「固定電話と携帯電話にかけて全国の18歳以上の男女から929件の回答を得た。回答率は39.4%だった」とあります。その場合、「誤差の目安は、この規模ではおよそ3ポイント以内におさまる」とのことです。(「」内はいずれも同じ記事から)逆に言うと、最大3ポイントの誤差がありうるということです。それなのに「1ポイント低下した」とは奇異ですね。

 一方、同じ頃に調査を実施した毎日新聞では「岸田内閣の支持率は27%で、9月17、18日の前回調査の29%から横ばいだった」(10月24日)とあります。「横ばい」とありますが、もし日経に倣うとしたら「2ポイント低下した」と言ってもいいはずです。しかし、毎日は、2ポイントの違いは誤差の範囲だと判断したのでしょう。(朝日調査では41%から40%への変化を「横ばい」と報道。10月3日)

 岸田首相は日経に抗議してもいいと思うのですが、したでしょうか?(笑)

◇巨大パネル調査登場

 ところで、6000万人という巨大規模の調査対象名簿を持つ社会調査「dサーベイ」が始まりました。毎日新聞社などが出資して設立された株式会社社会調査研究センターがドコモの協力で実現しました。主としてドコモのdポイント会員からなる約6000万人をパネルとして、インターネット調査を行うものです。

  ※社会調査研究センターのサイト https://ssrc.jp/

  ※同社の社長(松本正生埼玉大名誉教授、政治学者)によるdサーベイの解説動画  https://www.youtube.com/watch?v=PjLIPto7v4w

 従来のインターネット調査は、調査ごとに単純に回答者を募るタイプから、10万人規模のパネルを維持して適宜調査をかけるというものまでがありました。後者もいわば志願制なので、国民ないし有権者全体の縮図とは言えない名簿でした。そのような縮図であることを代表性を満たしていると言います。もちろん、できるだけ国民全体の属性(年齢、性別、居住地など)に近づけるような補正を行うなどの工夫がされてきていますが、やはり代表性の不安があります。そのため、マスメディアによる世論調査は、訪問面接調査の困難度が増す中でも、インターネット調査には飛びつかず、主として電話調査で行ってきました。

 注)訪問面接調査は、不在率の高まり、協力度の低下、実施コストの負担といった要因から困難さが増しました。内閣府の世論調査は、今でも住民基本台帳をもとにサンプル抽出をし、訪問面接ないし留め置き法で主として行っています。マスメディアも一部、訪問留め置き法で行っています。電話調査はあらかじめ名簿を用意して電話をするのではなく、コンピューターでランダムに番号を発生させて次々に電話をかけていく方式(RDD方式)です。この場合、名簿を用意するという発想をやめたところに特徴があります。 

 この6000万人の名簿が果たして有権者1億人の縮図なのか、代表性を有しているのか?という点が気になりますが、同社のサイトでは、地域差なく、人口構成に比例した会員数であり、有権者の縮図であると明記しています。携帯ユーザーないしdポイントユーザー(ドコモ以外の通信会社のユーザーも入っているとのこと)がそのまま有権者の縮図となるのか、もう少しきめ細かい説明がほしいところではあります。これまで、選挙の事前に調査した数値と、実際の選挙結果を突き合わせることを何度かやってきているようなので、もしかしたらそこから6000万人名簿が有効と経験的に評価したのかもしれません。

◇投票所での出口調査は不要に?!

 6000万人もの名簿をもとに調査を行えば、内閣支持率のような調査は、誤差もほとんどない結果が得られるでしょう。とはいえ、内閣支持率のような単純・単一の比率を出すだけなら回答者1000人でも、誤差はあるにせよ用を成しますが、選挙のときの全国津々浦々の地域ごとの調査はたいへんな手間がかかりました。事前の地域別情勢把握のためのサンプル調査や聞き込みなどの手間と、投票日の出口調査にNHKや全国紙、通信社は大きな人力を投入してきました。特に、出口調査は、人海戦術で各投票所に調査員を張り付ける方法を取らざるを得ませんでした。それに対して、dサーベイだと、居ながらにして従来よりも低コストでできてしまうのが画期的です。

 ちなみに、10月(2022年)に岸田内閣の支持率調査をdサーベイで実施していて、その結果、支持率は26%という低さであることがわかりました。回答者数は3000人強ですが、何人に当たったのか、回答率はどのくらいかは明記されていないが気になります。いずれにせよ、毎日の電話調査とほぼ同じ数字になっています。調査の質問文(調査票)をウェブに掲載しており、それを見ると、内閣支持については、定石通りトップに置いています。

 ※dサーベイ質問文 https://ssrc.jp/materials/166658993292301.pdf

 ついでながら、日経や読売の場合は、いつも毎日、朝日より支持率の数字が高いですが、それは、「重ね聞き」と言って、当初はっきり支持・不支持を答えられなかった人に、「どちらかと言えば支持ですか、不支持ですか」と重ねて質問する方法を取っているからです。毎日は自動音声なのでその方法は取っていませんし、dサーベイの場合はweb上で質問文を見せる方式なのでやはり重ね聞きはしていません。

 今後もdサーベイには注目していくつもりです。 

 なお、世論調査や市場調査について、代表性や設問の妥当性などについて、以前本欄で書いたことがありますので、そちらもご参照ください。

 ※「世論調査やアンケート調査にだまされない法」

世論調査やアンケート調査にだまされない法


この記事のコメント

  1. 高成田享 より:

    味噌汁はどこをすくっても味は変わらない、というのが無作為抽出の論理です。dサーベイの味噌汁がうまく混ざっていれば、RDD方式よりも有効に思えます。世論調査は民意を反映するのでしょうが、議論のないアンケートを民意と呼ぶことには抵抗を感じます。

  2. 校條 諭 より:

    「味噌汁はどこをすくっても味は変わらない、というのが無作為抽出の論理」とはうまいたとえですね。dサーベイの場合、6000万人のパネルは有権者の縮図であると言っているので、言い換えれば有権者1億人から無作為抽出した集団に相当すると言っていることになりますね。実際の調査は、その上でさらに一定数を無作為抽出して調査をすることになります。
    民意については、佐藤卓己さん(メディア史)がよく言っている輿論と世論の違いということを連想します。前者はPublic Opinion、後者はPopular sentimentだという説明です。ひんぱんに行われている世論調査は輿論ではなく、情動によって形成されたそのときどきの空気を計っている印象を持ちます。

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