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「アメリカと中国」からの来日在住者が体験している日本

2017.10.05 Thu
社会

平成29年 2017 10月
仲津 真治

この小論は、米国と中国(チャィナ)の二人がともに日本に滞在していて、当地で
日本語で語り合った対談をまとめた本の印象記です。
うち、対談の当事者で、もと東からやってきた人は、アメリカ合衆国カリフォル
ニア州弁護士で、1952年生、日本在住約四十年になる米国人、タレントで日本語
は達者、テレビに良く出演しています。宣教師でもあります。夫人はアメリカ人
で日本語は不得意、買い物が出来る程度と言います。その名を明かすと、拙著で
も良く取り上げてきた「ケント・ギルバート」氏です。

もうひとかた、西からやってきた人は、中国(チャィナ)の四川省出身、1962年生、
北京大学哲学科卒、神戸大学留学中に所謂第二次天安門事件が発生、徹底した
弾圧と友人などの大勢の死者・犠牲が出たことを知って、大いなる疑問を抱き、
結局爾来三十年ほど、日本に定住、2007年帰化した人です。日本語は相当なもの
で、著書多数、夫人は生粋の日本人です。テレビなどに、しばしば出演、邦人名
は夫人姓で持つものの、通称は前からの「石平」です。この方も取り上げてきま
した。

以下両者の、充実した多岐に渉る対談から強く、印象に残ったことを記します。
私ども日本人に参考になる切口や論点が多々あります。

1)  日本では、「神さま」は誤解されます

ギルバート氏は、キリスト教の派であるモルモン教の宣教師です。 日本にやっ
てきた当初から宣教師の任に在りました。そして「大変苦労した」由です。
「キリスト教では神が一人、全世界で唯一の神さま」なので、それを前提に話す
と、「日本には、そうした唯一神が居ないことに」気付かされます。 其処は、
万物に神が宿る「やおろず」の世界ですね。 神の概念が全然違うのです。

また、キリスト教では、全ての人類が罪人であって、その罪を購って下さるのが
イエスだと言う事を語りますと、日本人には当然ぴんときません。 「私は、別
に罪を犯していませんが、・・・。」と言う反応が返ってきます。

斯くて、長年試行錯誤した結果、ギルバートさんは「こちらからではなく、相手
側に聞く」ようになった由です。「神様について、あなたはどう考えていますか」
とたずねると、やっと話が始まるというのです。

この点、韓国は随分と違うと云います。韓国の古代から伝わる宗教には
シャーマンというパイプ役がいて、神と人の繋ぎ役をすると云います。今でも、
そういう人々がいる由です。 韓国前大統領の弾劾の契機となった「崔順実」の
父親もそうでした。 他方、日本の神主にはそういう役割はありません。

こうしたこともあってか、キリスト教の普及度に関しては、韓国は日本より、
大変高いのです。

2)  中華思想と韓国の「恨」

ここに石平氏はギルバート氏から、韓国の「恨(はん)」ついて聞かれ、次のよう
に応えています。

「それは儒教(チャィナでは儒学)から出てくる思想ではないと思います。
韓国には古来儒教を取り入れた自分たちこそ本当の「中華」なのに、民族的に
朝鮮人はずっと外の世界に置かれ、虐められて来たという思いがあると
見ています。」 より詳説すれば、「新羅の時代からチャィナの属国となり続け、
元や清のように、自分たちより下だと思って来たモンゴル人や女真人にも
支配されることになってしまった。最後は日本人にも支配された。 こういう所
から来る劣等意識が「恨」の根底にあると思います。」と指摘しています。

更に、韓国・朝鮮の中でも、「両班」という制度があり、両班と一般人の間には
大変な格差があって、その下で多くの庶民は搾取され、虐められていると申しま
す。だから人々は「恨」をもって対抗すると云うのです。

この辺り、ギルバート氏も事情に通じているようで、「両班」という特権階級は
「未だ、今日韓国の財閥として生きている」としています。

こうしたことは、この両者の対談だからこそ出来る「遣り取り」のように思われ
ます。

3)  世界で最も早く政経分離を成し遂げた日本

まず、石平氏は、「日本では、鎌倉時代から武士の政権が誕生しました。ある意
味ではこの時代から日本的な政経分離が出来たと云えるかも知れません。」とし
ています。

それ以前の奈良、平安時代は「王朝時代」で、権力者は天皇であり、その天皇は
神道の祭司でした。 即ち、天皇は権力の頂点であり、同時に宗教の頂点でも
あったと言う分けです。 しかし、「鎌倉時代以降江戸時代まで武家の時代とな
り、天皇は政治権力から離れています。それは、政教分離と云えるものです。」
という分けです。

この見方に賛同したギルバート氏は、日本の政教分離がキリスト教の世界より早
かった、もしかすると世界で日本は一番早く、政教分離を成し遂げた国かも知れ
ませんとしています。 こうした指摘は従来の西洋人の見方に無いし、私どもも
そういう捉え方はしてきませんでした。

事象としては色々生起していますし、様々な見方があると思いますが、此処は
冷徹な見方をして、歴史から学びましょう。

4)  日本は国の危機への対処が上手ですが、西欧の帝国主義の真似は誤りでした

二人は、大化の改新や明治維新を例に、危機に瀕したときの日本の危機管理を
高く評価しています。 特に、武力も何の力もなかった江戸時代の天皇が、幕末
の国難に際して担ぎ出され、国家体制を立て直し、外部の危機に対応したのは
凄いと云う分けです。 それはチャイナや朝鮮に大いに刺激となりました。
斯くて、二人は江戸時代から幕末・維新に掛けての日本を良く考察すべきだった
という意見のようです。

然るに、維新以降日本が西欧を真似て、帝国主義を続けてしまったのは
良くなかった、誤りであったとしています。 そして、戦後の占領統治に当たっ
て、GHQがその時代の日本を否定的に見て、占領政策を展開したのも
今日の問題に繋がっているとしているようです。 重視すべきは江戸時代と
云うのです。

5)  社会の流動性と「科挙」 そして今は?

私どもは、チャィナや朝鮮では科挙制度ゆえ、身分・門地にかかわらず、誰にで
も道が開かれている社会だと教えられて来ました。 試験を受け、合格しさえす
れば、朝廷の官僚に登用されたのです。

しかし、石平氏に依れば、それは全く建前のことであって、現実はいろいろ
だったと言うのです。第一に誰でも受けられたと言うが、実際上、農民の子供が
受験するなどまず無理であったと申します。

また、限られた優秀な人は、誰もが科挙を目指すと言う事ですから、彼らが行う
ことはただひとつ科挙の受験、そして官僚になる事です。皆、四書五経を読み、
暗記します。 結果として、科学をやる人も技術を磨く人も居なくなりました。

韓国やチャイナでは、成功者となるのは官僚ばかりで、詩人すらも官僚です。
文化人がそのまま官僚となって来たのです。

斯くて、王朝から独立した知識人はいません。科学技術も発達しません。
日本のように町人文化が花開くこともなく、市井の学者も出なかったの
です。

今は、科挙制度は無くなりましたが、共産党という支配者が登場しています。
そして、其処では共産党の幹部になる事が栄達の道です。賄賂も取れるのです。

6)  チャイナは孔子の国なのに、あのマナーの悪さには戸惑います

これはチャイナからの観光客の急増に伴い、あちこちで体験されるように
なりました。 例えば私どもも、成田空港に向かうとき、電車に乗り合わせた
チャィナからの女性の観光客の二人連れに閉口したことがあります。
比較的空いている車両でしたが、となりで向かい合って座った二人が大声で
話し始めたのです。 隣同士で話せば小声で済むのに、わざわざ通路を隔てて
向かい合っての遣り取りでした。意味は分からずとも、旅行の話題と言う事は
見当が付きました。

それにしても目的地の駅までの約半時間ほど、たまらない思いをしましたね。

「一体どうして?  儒教の国なのに。」と思いましたが、それは日本人の誤解の由
です。儒教の「祖先を敬う一族主義」や「先ず家族を優先する行動パターン」は
は、チャイナの人々の生活や行動にしっかりと組み込まれてきましたが、道徳面
は完全に形骸化してきたとのことです。 そもそも科挙の影響はそれを受けた
一部の官僚に限られ、一般の人には、儒教として全く関係が無かったと申します。
孔子学院という組織ないし学校が世界各地に作られ、盛んに宣伝されいるのに、
チャイナは昔も今も、実際上孔子の国ではない由です。これには実体験とともに、
驚いた事のひとつです。

他方、明治期に日本に留学した魯迅などが、多くの日本の若者が熱心に、漢詩を
暗唱し、四書五経などを学ぶのを見て驚愕の弁を語っているように、日中は対照
的なのです。

7)  「戦争への罪悪感を日本人の心に植え付ける宣伝計画」の影響は未だにある

この計画は、実はGHQの内密の意思決定で進められていたもののようですが、
疑問に思ったギルバート氏が丹念に調査して、その実在と実績を明らかにしたも
のです。 原文は、「War Guilt Information Program」(WGIP)と云う由です。
「敗戦に依る占領によって、日本人は魂を奪われ、骨抜きになった。」
と戦後日本人の大人がいろいろ語っているのをしばしば聞きましたが、その計画
と実践は矢張り在ったようですね。

ただ、この事実を米国人自身からまともに直言されていることには、驚きました。
アメリカという国と社会の率直さと開放度には感心致します。

ギルバート氏に依れば、それは教育、報道、政治、行政、経済活動、社会生活
などの全般に亘って進められ、占領終了の後も色濃く影響が残り、今日にも幅広
く、及んでいると申します。 氏自身、日本社会の至る所で多くの日本人に接し
てそれを経験している由です。 時折、論争にさえなるそうです。 私もこの指
摘を知って、あらためて実感する次第です。

8)  日本の紹介や主張の発信を英語で、そして英語圏へ

石平氏は既に日本人ですが、此の国が情報戦の重要性を認識しているのであれば、
政府がそういう機関をつくり、日本の紹介や主張を英語で行い、アメリカなどの
英語圏に発信すべきだとしています。 そして、石平氏はギルバート氏と対談
しつつ、氏を顧問やトップにして活躍してもらうべきだとしています。

英語や英語圏への発信は確かに大切なことですね。


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