公平さをかなぐり捨て吉村一族のために働く人たち
時に逆行することはあっても、歴史はより自由で、より公平で、より開かれた社会に向かって動いている。自由は「法の支配」を確立することによって広がり、公平さは普通選挙の実現や農地の解放によってもたらされた。そして、次の「開かれた社会」を実現するために生み出されたのが情報公開制度である。
北欧生まれのこの制度を日本で初めて導入したのは山形県の金山町である。1982年に金山町情報公開条例を制定し、翌83年に神奈川県と埼玉県がこれに続いた。国が情報公開法を施行したのは2001年、19年後のことだ。「開かれた社会」への挑戦は、日本では地方から始まったのである。
吉村美栄子・山形県知事の義理のいとこ、吉村和文氏が率いる企業・法人グループは山形県や山形市からどのような形で公金を受け取っているのか。その実態を解明するうえで、情報公開制度は抜群の威力を発揮する。その好例が今回お伝えする「山形県による観光キャンペーンの業務委託問題」である。
吉村知事の2期目、2014年にJRグループは「山形デスティネーションキャンペーン(DC)」という大規模な誘客事業を展開した。メインテーマは「山形日和。」。豊かな自然と食、温かい人情を多様なメディアを駆使してアピールし、より多くの観光客を惹(ひ)きつけようとした。
山形県は、これに連動する形で「山形DC関連県内周遊促進事業」という新しいプロジェクトを立案した。県民向けに県内の観光地を訪れるよう促すキャンペーンを繰り広げることにしたのである。もちろん、県職員が直接こうした誘客事業を行うわけではなく、業務は3500万円の予算内で民間企業に委託することにした。
事業を担当したのは商工労働観光部の観光交流課である。業務委託は公募ではなく、指名型プロポーザル方式という独特な方法で行われた。県側が業務を引き受けてくれそうな企業5社を選定・指名し、各社に企画案を出してもらい、審査して決める方法だ。建築物の設計などでよく使われる手法で、業界では「コンペ方式」と呼ばれる。
選ばれたのはケーブルテレビ山形と県内の民放4社(YBC、YTS、TUY、さくらんぼテレビ)である。県民向けにどのようなキャンペーンを展開することを期待していたのか。情報開示された県内周遊促進事業の基本仕様書によると、委託する業務の主な内容は次のようなものだった。
①県民に県内周遊を促すテレビCMを4種類以上制作し、県内のテレビ2局以上で延べ240回以上流す②県内周遊を促す3分程度のテレビ情報番組を制作し、県内のテレビ2局以上で延べ24回以上放送する③二つ以上の新聞、二つ以上の雑誌などに周遊を促す広告を掲載する④テレビで放送した内容と関連する内容をウェブサイトにも掲載する⑤リーフレットなどのPR資料を作成する⑥これらの映像媒体、印刷媒体を組み合わせて展開する⑦効果的なPRイベントを1回以上開催する。
観光交流課は2014年2月24日、この仕様書を含む文書を5社に郵送し、企画書を出すよう促した。提出の締め切りは3月10日。当時、この文書を受け取った民放テレビの担当者は一読して、「何だ、これは」と驚いたという。企画のメニューが多岐にわたり難しい内容なのに、締め切りまでわずか2週間しかなかったからだ。
それ以上に問題だったのが仕様書の第2項目だ。「情報番組を作って県内の2局以上で放送する」という内容に目をむいた。民放テレビが自ら番組を制作した場合、それを系列が異なる県内の他のテレビ局で放送することはあり得ない。つまり、仕様書には「民放テレビにはできないこと」が盛り込まれていたのである。
当然のことながら、民放4社は企画書を出すことができず、ケーブルテレビ山形だけが締め切りまでに提出した。県の内規によれば、1社だけを対象にして審査会を開いて決めることも許される。開示された審査結果に関する文書には「5社のうち1社応募、4社辞退」と記され、審査の結果、「ケーブルテレビ山形が最上位に決定された」と書いてある。
民放各社には達成できない条件を設定したうえで企画書の提案を促し、「4社辞退」と表現する。さらに、審査の対象は1社だけだったのに、臆面もなく、審査の結果、「ケーブルテレビ山形が最上位に決定された」と記す、この破廉恥さ。民放の担当者の中には県庁まで出向いて抗議した者もいたが、「手続きは適正」という言葉が返ってきただけだったという。
そもそも、県民に県内を旅行するよう促すために3500万円も費やす必要があったのか。素朴な疑問を抱いて、この事業の予算査定に関する公文書の開示を求めた。すると、さらに興味深い事実が浮かび上がってきた。
予算配分の権限を持つ財政課は当初、この事業の必要性を認めず、観光交流課の予算要求を撥(は)ねつけていたのだ。表1にあるように、課長レベルの折衝ではゼロ査定。部長折衝でもゼロ回答をしたうえで、「事業のロードマップだけが示され、具体的なイメージができるものがなければ、議論さえできない」と突き放した。
ところが、財政課が「議論さえできない」と酷評した事業の予算は、最後の知事による折衝で満額復活した。2014年度の予算編成で「知事復活」の対象になった事業は7件あったという。山形DC関連県内周遊促進事業はその一つになった。どのような理由で復活したのか。文書はなく、不明である。
翌2015年度から、この県内周遊促進事業は公募方式になり、県のホームページに企画募集のお知らせがアップされるようになったが、その後もケーブルテレビ山形(2016年にダイバーシティメディアに社名変更)が受託し続けている(表2)。途中から「コンソーシアム(共同企業体)」に加わった山形アドビューロと山形コミュニティデータセンターは、山形新聞グループの会社である。
県内の広告業界では「あの事業はヒモ付き。応募しても無駄」との見方が広がった。応募する会社がなくなることを恐れたのか、観光交流課(2016年に観光立県推進課に改称)から「企画を出しませんか」と誘いを受けた広告会社もあると聞いた。
とはいえ、どの業界にも一匹狼のような会社はある。今年度はダイバーシティメディアを中心とする共同企業体とシー・キャドに加え、エーディーバンクという会社が事情を知らずに応募した。表3は今年度の「重点テーマPR誘客促進事業(近県向け)」の審査結果である。
審査員は外部の有識者2人と主管する観光立県推進課長の3人。関連する文書と照らし合わせると、審査員AとBが外部有識者、Cが課長と考えていい。AとBの点数を合計すると、ダイバーシティメディアを中心とする共同企業体の企画案(提案②)は、エーディーバンクの企画案(提案③)にかなり差をつけられていた。
ところが、C(課長)が前者に最高点、後者に低い点数を付けたため、3人の合計では形勢が逆転し、業務の委託先は共同企業体に決まった。吉村県政の下で幹部がどのように振る舞っているのか。それを象徴する結末である。
一連の業務委託で、ダイバーシティメディアと同社を核とする共同企業体に支出された公金は1億2000万円を超える。その出発点となったのは2014年度の業務委託である。観光交流課長としてこの仕事を仕切った武田啓子氏はその後、村山総合支庁の保健福祉環境部長、本庁の健康福祉部長とトントン拍子で出世し、昨春、観光文化スポーツ部長に上り詰めた。
民放4社を指名しておきながら民放テレビには達成できない条件を付け、ケーブルテレビ山形しか応募できないような事業を推し進めたことをどう考えているのか。面会を求めたが、武田氏は応じない。課員に質問書を託したが、回答はなかった(*2)。
「資産隠しではないか」との質問に答えない吉村知事と同じく、武田氏も黙してやり過ごす気のようだ。山形県庁には、公務員として堅く守るべき公平さをかなぐり捨て、それを恬(てん)として恥じない人たちがいる。
*1 この文章は、月刊『素晴らしい山形』2019年2月号に寄稿したものを若干手直しして転載したものです(表1~表3をクリックすると、内容が表示されます)。
*2 『素晴らしい山形』2月号の原稿締め切り後、武田啓子氏から「平成26年度山形DC関連県内周遊促進事業に係る業務委託につきましては、地方自治法等に基づき適正に行っております」との回答が届いた。寄稿文で指摘した問題についての釈明はなかった。
≪写真説明とSource≫
山形への旅にいざなうJRグループのポスター。レトロな雰囲気が人気の銀山温泉(日本観光振興協会のサイトから)
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日本人は、集団とか複数で作る組織などの捉え方に、自分もその一員であり客観的に他と同等の部品的存在であり、対応としては自由・平等・博愛の概念を持たなければ、そのグループ、団体は何れ滅びるだろうと思ってない。
だから日常の行動は、その場限りで自分の懐に金をくすねたら大喜びし、同じグループであっても他の人には無関心のまま留まっている。
関心を払うのは身内だけ。結局ヤクザ意識が老若男女のあらゆるところに残ったままということですね。
生活の基盤を同じにする個人と団体のあり方に関心が育たず、未開人のまま今日に至ってるということかな。