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振り仮名や現代語訳というバリアフリー

2026.07.24 Fri

最近、メディアの世界で話題になった言葉に「AIに全振り」というのがあります。朝日新聞社の角田社長が、近い将来の自社についてAIを全面的に活用するという趣旨の発言をしました。全振りという言葉はもともとはゲーム用語のようですが・・・。
ここでは、全振りというのを、すべての漢字に振り仮名を振るという意味で使ってみました。

マネックス証券創業者の松本大さんが最近出した本『振り仮名があれば学力は上がるのか』(ポプラ新書、2026/6)は、まさに全振りの本です。松本さんの下の名前にも「おおき」と振り仮名がついています。それでないと読めませんよね。

◇振り仮名があることは、学力の向上、学ぶ力に

本の解説文から引用します。
「漢字が読めなくて、本を閉じてしまった経験はありますか? 
読み方さえわかれば、意味が分からなくても、調べることができます。
しかし読めないと、学ぶこともできません。
(中略)
漢字の読み方を助ける振り仮名は、昨今では、どんどん少なくなってきているのですが、
それはなぜでしょうか?
本書では、その謎を解き明かし、振り仮名があることは、学力の向上、学ぶ力になるということを伝えていきます。」

旧暦明治3年12月(1871年)に創刊された『横浜毎日新聞』を筆頭に、明治の初めに登場した日刊新聞は漢文調で大部分の庶民にはとても読めるものではありませんでした。
ところが、明治7年に出た讀賣新聞は、口語体で全文振り仮名付きというものでした。いわば全振りの大衆新聞の登場でした。(ただし、文体や用語が違うので、現代人から見ると読みにくいですが)

振り仮名付きの新聞は、当時の国民の知力の向上を妨げたでしょうか?逆ですよね。ですから、私は松本さんに拍手を送ります。

振り仮名ばかり付けると漢字を覚えないんじゃないかという“配慮”があるのかもしれません。でも、それは余計なお世話では?映像(動画)に大勢が流れている昨今、全面ルビのおかげで文章を読む人が少しでも増えることはとてもよいことなのでは?

関連して、歴史小説のことを思い浮かべます。そこには、通常何人もの登場人物が出てくるのですが、それらの人名に仮名が振ってあるのは、たいてい最初に出てきたときだけです。私個人の経験では、あとから再度出てきたときは、もう読み方を忘れてしまっているということがしばしばです。えーっと最初に出てきたのはどこだっけとあちこち探したりする羽目になります。電子書籍なら検索すればいいのですが、小説を読む流れの勢いがそがれてしまいますよね。その結果いやになって投げてしまうということもありました。

◇明治の新聞の漫画、おもしろいけど・・・

ニュースパーク(日本新聞博物館)の企画展「漫画記者 楽天」はたいへんおもしろかったです。

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左:企画展のチラシ
右:『北沢楽天 日本で初めての漫画家』(さきたま出版会、2019年)

たとえば、時事新報の「日曜附録 時事漫画」の第1号(大正10年(1921年)2月11日)には、こんな漫画が載っています。

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時事新報の「日曜附録 時事漫画」の第1号から(大正10年(1921年)2月11日)

このページの下から2番目の漫画を“現代語訳”してみました。
・御用請負人「今度の工事はぜひ手前どもにお願いします。これは些少ですが・・・」
・役人「こんなものをもらったら世間の噂がうるさいから」
・請負人「それほど問題になるほどの品ではありませんからお納めください」
・役人「それでもいかんよ」
・請負人「ではこういたしましょう。5銭ほどで買っていただけませんか?」(注:文字が不鮮明ですが5銭かなあと・・・)
*役人の細君、しきりにうしろからつっつく。
・細君「白ちりめん1反ね。ね、あなた、買うのなら差し支えないのでしょう? だったら10反ほど売ってくださいな」
(請負人、ひっくり返る(笑))

最初の2コマを拡大すると以下のようになります。全振りだし、現代と用語がそれほどかけ離れてないこともあり、一般の記事よりはとっつきやすいですね。とはいえ、慣れてない人が展覧会場でサッと読み取るというわけにはいかなさそうです。

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ちなみに、今年(2026年)生誕150年という北沢楽天は、大宮宿の旧家の四男として生まれました。横浜の居留地にある外国人向け新聞で職を得て、挿絵を描くようになった楽天は、明治32年(1899年)に東京の五大紙のひとつ「時事新報」に入りました。
時事新報は、福澤諭吉が明治15年(1882年)に創刊した新聞で、海外情報を重視したり、広告を積極的に扱ったりと、新聞界に新風を吹き込みました。
時事新報での楽天のデビューは「支那の粟餅」という1枚の風刺画でした。濡れ手に粟の列強と、それに対する弱小日本を描いています。(『北沢楽天 日本で初めての漫画家』(さきたま出版会、2019年)

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企画展会場には、楽天の時事漫画を掲載した新聞が多数展示されています。そこに書き込まれているセリフは少々読みにくいですが、慣れてくるとけっこう楽しめます。とはいえなかなかスイスイとは行かず、写真撮影OKなので、主なものは撮ってきて拡大して読みました。

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なお、この展覧会は2026年8月30日まで、みなとみらい線日本大通駅真上のニュースパーク(日本新聞博物館)でやってます。
通常展も興味深いです。また、閲覧室には全国の120近い新聞の最新1週間分がそろっていて、気軽に読めます。

◇新聞代不払いって読者のことかと思ったら、なんと販売店(取次店)

上でご紹介した企画展は新聞漫画がテーマですが、漫画以外の記事も当然目に入ります。たまたま目についたのがこれ。
明治38年(1905年)の『時事新報』に「購読者諸氏に謹告」という社告が載っていました。

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現代文で書き起こしてみると→→
「新聞取次店が、しばしば時事新報の代金を不払いなので、本社は再三請求の手続きをとっています。ところが、それでも払い込まない店があり、その店には断固として新聞の発送を中止することにしました。読者のみなさんには、たいへん不本意ですが、このような場合にはなにとぞ本社に直接ご注文くださるようお願いいたします」という感じでしょうか・・・。

最初見出しを見たときは、不払いの読者への催促かと思いました。ところが、取次店というからびっくりです。読者からは金を取って、新聞社には滞納しているということでしょうか?

原文を再現してみると・・・(旧字体は新字体で表記しました。)
「新聞取次店にして往々時事新報代金不払の向有之候に付き本社は再三請求の手続きを尽くし尚払込まざるに於ては該店へは断然新報の発送を中止する事に相定め候読者諸氏に対しては誠に不本意に存候得共致し方も無之〇に付斯る場合には何卒直接に本社へ御注文被成り丁度率希候」(〇の字が読めません。)

それにしても、いつもながら、昔の新聞は読みにくいです。ほかの施設での展覧会でもそうですが、注目している記事だけでも現代文をどこかに付けてほしいといつも思います。記事の要点が書かれていることはあって、それは無いよりはありがたいですが・・・。

本における引用でも同じ感想を持つことが多いです。要旨を記述していても、そのまま現代文に“翻訳”しているケースは希有です。ちなみに、私が2019年に出した『ニュースメディア進化論』(インプレスR&D)では、現代語訳にした上で引用して好評でした。

江戸時代以前の古典の場合、現代語訳を用意するのはめずらしくありませんが、明治以降戦前期の場合、これくらい読めるだろうという判断なのか、現代語訳をわざわざ付けるケースは少ないですね。福澤諭吉の『文明論之概略』や『学問のすすめ』などのように現代語訳を独立の書として発行している例もありますが。

現代語訳を付けることは入場者や読者のすそ野を増やすのに役立つと思うのです。(展覧会の実施にあたってはたいへんな手間がかかっていることは理解した上での願望です。)

振り仮名も現代語訳も、せっかく読みたい、読もうという気持ちのある人々にとって心理的な壁にならない、バリアフリーの方法として重視したいものです。


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