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日本統治時代を取り上げた韓国映画「密偵」を鑑賞して          

2017.11.19 Sun
社会

日本統治時代を取り上げた韓国映画「密偵」を鑑賞して

平成29年 2017  11月
仲津 真治

1) 朝鮮人警察官が、日本語を話す韓国映画

この事だけでも話題性を帯びる映画と思われます。 邦題は「密偵」と言い、原語でもその意味と申します。主演男優がソン・ガンホと言い、時代は1920年代、大正の頃でしょうか、日本統治時代の京城と中国・上海です。

彼が演ずるのは、朝鮮総督府警務局勤務の警察官で、映画では「警務」と呼ばれていました。地位は相当偉くなっている指揮官でした。 朝鮮人なのに、日本警察のために働いているのでした。

2  ほとんど正面から取り上げられなかった日本統治自体の様相が
遂に映画に登場:現代韓国も変わりつつあるよう

この作品自体はフィクションですが、キム・ジウン監督は、この時代に朝鮮各地であったことを幾つも取り上げ、それらを、この「密偵」という物語にした様ですね。従って原作は無く、脚本のみです。斯くて、ガンホの如く朝鮮人だが、被治者で無く、統治側の日本警察に属していた人もいたようです。

他にも、この映画には日本語を話す人が結構出ていて、日本人か朝鮮人が演じていました。例えば警務局部長の「東 ヒガシ」は日本人俳優「鶴見辰吾が扮していて、そのセリフは日本語でした。 ガンホのライバルの警務は「高橋」と名乗り、日本人役と思われましたが、言葉は日本語が変で、朝鮮語が滑らかでした。実は朝鮮人男優と見られます。 なお、街中の雑踏では和服姿の婦人など
が結構いました。

公判の場面の司会は官庁用語の日本語でしたし、ソウルは「京城」と書かれ、「けいじょう」と発音されていました。部長室の机には日章旗と旭日旗が置かれ、警官隊の出動の場面では、日本のお巡りさんの感じが良く出ていて、将に日本統治下の朝鮮を良く示していました。その中で指揮を執っているのはガンホで、当然日本語によっていました。それは滑らかと「ややもたつく」のあいだでしょうか。

3  ガンホは、以前、東部長に分け有って情報を提供したことがあり、それが役に立ったので、爾来、部長に引き立てられ、総督府警察の中で昇進していた模様

されどガンホの表情は苦渋に満ちていて、その内面の苦悩が良く表れていました。祖国への愛と、現実を見据えた仕事と生存の必要に挟まれて、暗く重いのです。

ガンホ自身、俳優として、その成長のため、そうした役回りを演じてみたかった事が、この作品への出演の動機のようでした。それも貢献したのか、昨年一年の韓国での本作の観客動員は七百五十万人に達したと言います。その意味は大きいでしょう。

斯く、統治者の日本側に参画、協力する朝鮮人も各地、各所にいて、皆それぞれ事情があったと思われます。

4  物語

ガンホは、東部長から、朝鮮独立運動を進める結社「義烈団」を監視しろと特命の指示を受けます。 ガンホは、そのため、義烈団のリーダーであるウジンに近づき、懇意になります。 ここに、義烈団とは架空の組織ですが、モデルとなった団体は在るようです。

だが、この工作は、義烈団の団長チュサンがガンホを、自らの陣営に引き込むための餌でした。 斯くて、日本警察も義烈団も、それぞれの狙いと思惑があって情報戦や工作を展開し、熾烈な戦いや闘争となります。 状況は複雑極まりなく、変幻自在の感がありました。

そして、工作は一段と進み、独立運動の拠点である、大韓民国臨時政府のあった上海から、大量の爆薬を京城に運び込む算段と手配へと移ります。 朝鮮総統府を爆破すると言う工作なのです。 でも誰が味方で敵なのか、それぞれ、誰がどの陣営なのか、良く分からなくなってきます。 と言うのも、相手方に知られていないはずのことが、漏れていることが判明したからです。 誰が密告したのか?
密偵はいずこで誰、二重スパイがいるのか、誰がそうで、何のためなど、・・・。

もともとガンホにも、朝鮮人であって、且つ日本警察の指揮官と言う二重性があり、複雑多様なのです。私も観客として、彼の動きを中心に必死に追いました。 でも良く分からず、ふらふらになりました。御関心在れば、これ以上は本編を是非御覧になって下さい。

5  監督が滲ます、この映画の特性

本作は朝鮮の抗日運動を扱っています。しかも時は日本統治下の時代です。でも所謂反日映画ではありません。 失われた祖国を探し求める抗日武装団体の話しであり、この時代の最も矛盾した人物、ガンホの演ずる「ジョンチュル」を通して、時代の矛盾と影を描こうとしたものです。

他方、本作は将に迫力在るスパイ映画という面があります。この作品は第一級のスパイとサスペンスものとしても鑑賞できるでしょう。

6  時代を学ぶ

朝鮮・韓国は東洋文明に属する国です。 しかも、隣国のチャイナに長年朝貢してきた事大主義の伝統を持ちます。

中世「高麗」のあと、これを倒し王位に就いた「李 成桂」は王朝を起こすに当たり、国号の変更をしようと重臣と協議し、「明」に朝貢した折り、「朝鮮」と「和寧」の二案を持って相談したと言われます。 明の洪武帝は、「朝鮮」を選びます。この経緯や選定の理由に微妙なものが感じられますが、ともあれ、此の国の国号は爾来一旦「朝鮮」となりました。

しかし、近代にいたり、情勢は急変します。 「明」を打倒した満州族の「清」がチャイナの覇権を掌握、約四百年の長きに亘り統治して行きますが、1895年日清戦争に敗れます。その結果、「朝鮮」は事大主義の伝統から離れ、「現チャィナは異民族の支配する所、我々こそが正統な東洋の帝国とし、初の皇帝位を設け、国号を「大韓帝国」と致します。 現在の韓国は、正式の国号を「大韓民国」
と言い、旧「大韓帝国」を継承していると言われます。

話を戻せば、此の国が日露戦争(1904~05)後の1910年、所謂「日韓併合」により、大日本帝国の一部となるのです。 このときから、終戦の1945年(昭和20年)まで日本統治時代が続きます。

7  この映画が世界にうったえるもの

本作品が扱う問題事象は、現代世界で言えばテロリズムです。
そして、この映画は多分にイスラム世界の過激派の主張や行動を連想させるところが在ります。

種々の報道で分かるとおり、大多数の良識在るモスレムは、過激派の
言動に困り果てながら、同胞としての同情や義理もあって、惑い、混乱しているのでは無いでしょうか。 この作品でガンホが演ずる男のように、どっちつかずで、苦悩している人は現代でも大勢いると思われます。

つまり、この作品は、韓国映画であるとともに、ハリウッド映画でもあり、世界にうったえる狙いで作られているように思われます。 韓国は金大中政権の頃から、映画文化に大いに力を入れている由、その成果が出て年月が経ち、引き続き花を咲かせている感がありますね。 其処は政治・外交とは別に、注視すべきでありましょう。

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本作の上映箇所はネットで検索できます。
ちなみに、東京では、シネマート新宿:新宿3-13-3 で上映中。


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