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株価の下落と世界経済の変調

2016.02.10 Wed
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私たちが経済の変調に気づくのは、株価や為替相場が大きく変化したときです。このところの株価の下落は、何やらよからぬことが経済の世界で起きていることを予感させます。2008年のリーマンショックのときに、米国は1930年代の世界恐慌(引き金となったNY株式の大暴落は1929年)を思い起こして、「非伝統的な金融緩和」に着手しましたが、2016年の現在も、同じようながけっぷちに立っているようです。

 

日本の株価についていえば、資産の大半を株式で運用している、などという人を除けば、株価の上げ下げで、大騒ぎすることはないでしょう。しかし、昨年6月24日に20,868円付けた日経平均株価は、今年2月10日には、15,713円となり、アベノミクスによる上昇分のほぼ半分を消してしまいました。深刻なのは、マイナス金利政策などの金融緩和策を追加しているなかで、その狙いとする株高や円安が実現せず、逆の方向に向かっていることです。

 

安倍政権は、株価連動内閣とも言われ、デフレからの脱却を掲げるアベノミクスは肝心のデフレ脱却は実現せず、株価の上昇だけが実績の証しで、それが内閣の人気を支えてきました。株価の下落だけで内閣支持率が急速に下がるとは思えませんが、内閣の賞味期限が切れかかっていると見るべきでしょう。不倫疑惑の宮崎謙介議員は、2012年の総選挙で初当選した安倍チルドレンのひとりです。足元から政権が崩れていく前兆現象かもしれません。

 

株が下がったのも、円高になったのも、みんなアベノミクスのせい、などと言うつもりはありません。むしろ大胆な金融緩和でも、今起きている流れには逆らえない、ということだと思います。世界で何が起きているのか、株の下落に刺激されて考えてみると、BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国の頭文字ですが、実質は中国がトップ)に代表される新興経済諸国が主導してきた世界景気が息切れを起こし、“BRICs”景気のうえで好景気を享受していた米国や日本、欧州の経済も息切れを起こしている、ということではないでしょうか。

 

株の下落は世界的な傾向ですが、それ以外の経済事象としてはっきりしているのは、中国経済の減速と原油価格の下落です。これまで7%の成長を維持してきた中国の成長率が7%を切りました。たった1%程度の減速で、それほど悲観することはない、という意見もあります。数字だけをみれば、その通りで、中国政府の主張する「新常態」を日本の歴史に置き換えれば、高度成長時代から安定成長時代への転換だということでしょう。

 

しかし、中国経済の減速は、もっと深刻だと思います。1990年代以降、安価で大量にある労働力を背景に「世界の工場」として急速な成長を見せた中国経済ですが、労賃の引き上げなどによりメリットは減り、2008年のリーマンショックで世界景気が悪化すると、「世界の工場」にも陰りが見えてきました。そこで中国政府が選んだ経済政策が公共事業を主とする財政政策で、これまでの外需主導型から内需主導型の経済成長に軸足を変えて成長を続けようとしてきました。しかし、どこの国でもそうですが、公共事業は政治の腐敗と結びつきやすいうえ、労働コストの上昇などによる国際競争力の低下によって、効率の悪い国営企業の経営がますます悪化、内需主導型への転換はうまくいっていません。

 

つまり、中国経済の自壊がはじまったわけで、海外からの中国への投資が減るばかりでなく、中国から海外への資金の移動も増加しています。世界的に著名な投資家のジョージ・ソロスが「中国経済のハードランディングは不可避」と語ったのは、こういう意味だと思います。原油価格の下落が目立ちますが、鉄鉱石も大幅に下落しています。中国経済の需要の減退が中国経済だけでなく、中国への輸出に依存している韓国、台湾、ブラジル、オーストラリアなどの経済を悪化させているのです。

 

“諸悪の根源は中国”ということですが、高度成長経済が行き詰まり、構造改革の時期を迎えているのは、日本もたどった道筋です。日本の場合、高度成長から“安定成長”への転換は1970年代前半の石油ショックとそれに伴うスタグフレーション(インフレと経済停滞)のなかでの製造業の技術革新で、その結果が1980年代の日米貿易摩擦を招くと、構造改革に取り組み内需主導型の経済をつくり上げようとしました。そのあげく、バブル経済➡バブル経済の崩壊➡長期的な経済停滞に陥りました。中国の場合も日本が経験した以上のハードランディングになる可能性は十分にあると思います。

 

経済の世界は道徳の世界ではありませんから、誰が悪いとか良いとか犯人捜しをしても意味はありません。問題は、これからの世界経済を誰が主導していくのか、ということです。新興国経済がだめなら先進国の出番かもしれませんが、欧州にも日本にもそんな力はありませんし、米国も自国の経済成長を維持するのが精一杯でしょう。中国経済がハードでもソフトでも、安定成長の「新常態」に着陸するまでは、世界経済は金融も含めて不安定な状態が続くと見るべきだと思います。まさかの「世界大恐慌」のおそれだってあるのです。

 

日本がなすべきことは限られています。日本の国内政策でいうなら、もはや金融緩和に頼るのではなく、言葉はともかく「地方創生」を軸とする経済構造の変革に力を入れるべきだと思います。本格的な高齢社会の時代を迎え、大都市圏に集中してきた人口をできるだけ地方に分散させ、そこで経済を活性化させることに官も民も全力を傾けるべきでしょう。「ささやかな幸せ」路線です。

 

しかし、いまの世界経済の変調は、新興経済諸国の経済悪化が原因ですから、中国などの成長鈍化にわせた需給調整が終わるまで待つしかありません。心配なのは、市場にまかせず、中東の火薬庫に火をつけて、原油価格引き上げのハードランディングを狙う動きが出てくることです。戦争なのかテロなのか、わかりませんが、そんなことが起きるかもしれません。日本が巻き込まれるのも心配ですが、積極的にかかわることになりかねない安倍政権の安保姿勢にも不安があります。年寄りの冷や水ではなく年寄りの杞憂だといいのですが…。


この記事のコメント

  1. タロウ より:

    5っかん

  2. hagiwara より:

     嘘つきの首相だろうが相場に手を染めるものにとっては関係なし。政治家や官僚は日常的に嘘をつく人種です。
     情報とその情報をどのように纏めることができるかは本人の能力次第です。
     
     

  3. タロウ より:

    甘利問題はもう少し話題になるのかと思っていたら内閣の支持率は元に戻るし、もうサンザンです。マイナス金利の導入によって両論あるのは知っていますが、宮崎議員の問題でなんか陰に隠れた形ですね。

  4. タロウ より:

    甘利問題はもう少し話題になると思っていたのに、内閣の支持率は元に戻るしもうサンザンです。宮崎議員の問題でなんか話題にもならなくなってから久しい。マイナス金利が導入されて両論あるのは知っていますが、何とかならないですかねぇ。

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