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日本の混迷深める?菅政権の誕生

2020.09.16 Wed

 

安倍首相の突然の退陣表明から2週間余、16日に開かれた臨時国会で、自民党の菅義偉氏が首相に選ばれ、菅政権が発足しました。菅氏は7年8か月に及ぶ安倍内閣を官房長官として支えた人で、安倍政権が取り組んだ政策を継承すると言っています。経済も外交も政治も行き詰まりを見せていた安倍政権を継承するという政権の誕生は、日本の混迷をさらに深めることになるのではないかと、心配します。

 

ビジョン(理念)なきリアリスト(現実主義者)、というのが菅氏に対する評価のようですが、総裁選を前に日本記者クラブが開いた討論会にオンライン参加して私が菅氏に抱いた感想は、ビジョンなきオポチュニスト(日和見主義者)です。

 

この討論会は、質問者がベテラン記者だったこともあり、興味深いやりとりがいくつかありました。菅氏が日米首脳会談には、出張中をのぞいてすべて同席していると、外交の経験を誇ったのに対して、橋本五郎氏(読売新聞)は「首脳会談で同席することと、相手のトップと交渉することは違う話では」と切り込みました。すると、菅氏は少し気色ばんで、「すべて事前に相談を受ける中で電話会談に出席している」と反論しました。

 

ベテラン記者ともなれば、挑発的な質問で相手の本音を引き出すのは常套手段です。橋本氏は秋田出身で、菅氏とは同郷であることはお互いに承知しているはずなのに、菅氏がむきになったのは、「外交は門外漢」という批判をよほど意識しているからでしょう。表舞台に出る機会は少なかったが、裏舞台で演出してきたのは自分だという自負と自信があれば、もっと落ち着いて答えられたはずだと思いました。

 

この問答は多くのメディアが取り上げていましたが、私が驚いたのは、金融政策についての問答でした。藤井彰夫氏(日本経済新聞)がデフレからの脱却をめざすアベノミクスの柱ともいえる「2%の物価目標」について、継続するのか否か3候補に尋ねました。最初に答えた石破氏は、2%は「世界標準」になっているとしたうえで、「いまのように必要なところにお金がいかない」あるいは「(低金利)利子が減少している」などについては「再点検」が必要だと述べました。次に答えた菅氏は「まったく同じです」としか答えませんでした。最後の岸田氏は、金融、財政政策だけでなく成長戦略が必要だと、アベノミスクに沿った説明をしたうえで、「2%目標をどこまで追求すべきなのか」と、疑問を口にしました。

 

こうした討論会では、たとえ同じような意見であっても、自分の言葉で表現することで、自分の見識や独自性を打ち出そうとするものですが、菅氏はもっとも対立する石破氏と「まったく同じ」というのですから、試合放棄というか、具合のよさそうな他人の回答にタダ乗りというのはまさに日和見主義です。これには、質問者も「まったく同じですか」と、苦笑していました。

 

菅氏は自分の言葉で金融政策を語る自信がないのでしょう。外交だけでなく、金融政策も門外漢であることを示したことになります。

 

菅氏はこの討論会で、国家像を問われたのに対して、「自助、共助、公助、絆、規制改革」とボードに書きました。自助、共助、公助という順序は、「自己責任」や「小さな政府」を掲げる新自由主義の香りが漂いますし、規制緩和というのも、政府の役割を民間に委ねる「小さな政府」のひとつ手立てです。

 

振り返れば、規制緩和を前面に掲げたのは小泉政権(2001~2006)でした。その第3次改造内閣(2005~2006)の総務相だったのが新自由主義の旗手ともいえる竹中平蔵氏で、そのとき副大臣として竹中氏に仕えたのが菅氏でした。菅氏にとって経済政策の師匠は竹中氏なのかもしれません。ただ、新自由主義というと、弱者切り捨てというイメージがありますが、菅氏が「絆」と書いたのは、そうした非情さを打ち消す意味があるのかもしれません。

 

菅氏は、総裁選の間、地方銀行の再編に何度か言及しました。地方を活性化するには、地方の企業を資金面で支える地方銀行の経営基盤を強くする必要があり、そのためには地方銀行の統廃合を進めて、強力な地方銀行をつくる必要があるという論理でしょう。銀行再編も、小泉政権で金融担当相だった竹中氏が掲げた「竹中プラン」のひとつであり、今回の菅氏のアイデアは、その焼き直しのように映ります。

 

世界を見渡せば、冷戦後のグローバリゼーションを背景に世界に浸透した新自由主義への反省が世界で起きています。コロナ禍は、新自由主義の当然の帰結ともいえる貧富の格差が広がるなかで、経済的、社会的弱者に対して、より厳しい環境をもたらしています。そんななかで、「自助」を強調し、「規制緩和」に力を入れるのは、新自由主義時代への反省がないというか、時代遅れという思いがします。

 

新政権で期待したいのは、田村厚労相によるコロナ対策です。前任の加藤氏は、財務省出身の官僚OBだけに、厚労省の役人の言い分に沿ったコロナ対策を進めているとしか思えませんでした。PCR検査体制が広がらなかったのは、厚労省の既得権益を大事にしたからで、国民の要請に応えたとは到底いえない方策でした。田村氏もいわゆる厚労族の議員ですが、少なくとも大臣に就任する前は、PCR検査の拡大など積極的に発言していました。

 

米中の激突が懸念される時期に、最悪の事態を避けるための仲介役となりえるのか、経済が悪化するなかで、有効な「成長戦略」を提示できるのか、エネルギー・環境政策で、「持続可能な開発」(SDGs)を基本に据えた新しいビジョンの政策を進めることができるのか。日本のリーダーに与えられた課題に新首相が応えられなければ、日本がおかれている環境はさらに悪くなるのは確実です。新政権の発足にあたって、注視しなければならないのは、首相の立身出世物語よりも、派閥人事の裏話よりも、実行される政策の有効性だと思います。

 

(冒頭の写真は、日本記者クラブが公開している総裁選討論会の写真コピー)


この記事のコメント

  1. KG小林 より:

    「ていねいな説明」とやらを一度も聞いたことのない安倍政権を継承するということは,これまで積み重ねてきた森・加計・桜・検察問題への不誠実な対応(という言葉では甘すぎるきらいがありますが)や記録破却・独善的法解釈など立憲主義・民主主義への反逆も引き継ぐことに他ならないのに,なぜ菅内閣を3人中2人も支持するのか,まったか理解に苦しみます.
    この国民にして,この政権あり,ということなのでしょう.この日本が米国とは違う形で「分断」されているとい,次の論考を読んで少なからず衝撃を受けました.
    「見たいものだけ見る政治」支えた国民意識 宮台真司氏
    https://www.asahi.com/articles/ASN9D36M2N9BUPQJ00V.html (9/14)
    「マトモ」な日本人は,どう己を律して,どう世の中と向き合っていけばよいのか,コロナ禍の比ではない閉塞感を覚えます.

  2. 国家再生 より:

    新政権へ国民の支持率が高いのは、これまで既存の政治がエリ―ト中心で進められ、民主主義精神が何時までたっても抑え込まれてきたからではないか。
    今回、菅に代わって一般庶民を目視する地についた町内政治が実現できそうという将来への期待感の表れでは。

  3. 反ディープステート より:

    森友問題。自殺した近畿財務局職員の元上司が改竄理由を「少しでも野党から突っ込まれるような事を消したくてやりました。改竄はやるべきでない。ただ追い詰められ少しでも作業量を減らす為にやった」と。産経抄は野党とマスコミを痛烈非難。罵声、パワハラの野党は責任を感じないのか。
    常々思いますが、加計問題にしても元愛媛県知事加戸さんが国会で証言した言葉を見もせずに与党を攻め立てるのを見ると、なんて浅はかなのだろうと感じます。

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