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黄金が黄色信号に変わった岸田政権の命運

2022.09.13 Tue

岸田内閣への支持率の下落が止まりません。朝日新聞の最新の世論調査(9月13日朝刊)によると、支持率41%、不支持率47%で、政権の発足後初めて、不支持が支持を上回りました。支持率は昨年10月と同じで過去最低でしたが、そのときの不支持率は26%でしたから、不支持が倍増したことになります。

 

岸田首相の国民の印象は、「当初は可もなく不可もなく」というものだったように思います。しかし、安倍元首相の銃撃死のあと、旧統一教会と自民党との密接な関係が浮上したのに対して、政府・自民党の対応は後手を引くばかりだったのに加え、岸田内閣は世論の動向を無視するように安倍氏の「国葬」を強行しようとしています。これが、「可もなく不可もなく」から「不可」の印象を強めたのではないかと思います。そして、通奏低音のように五輪汚職の広がりが政治不信の音を響かせています。

 

7月の参院選で自民党は改選議席の過半数を獲得する勝利をあげ、今後3年間は国政選挙が予定されていないため、岸田政権は「黄金の3年」を手に入れたと言われました。選挙の心配がないので、思う存分、岸田政治を発揮できるという意味です。しかし、あっと言う間の支持率低下で、同じ黄色でも政権運営に灯ったのは黄色信号です。

 

岸田首相は参院選後、統一教会問題が浮上すると内閣改造を前倒しして、統一教会との関係が指摘された議員を閣僚からはずすことで、統一教会との関係でクリーンな内閣を示すつもりだったと思います。後手ではなく先手を打ったはずだったのですが、「後出しじゃんけん」の山際経済再生相が統一教会の関係団体主催の海外会合に参加していたことがわかり、クリーンなイメージは一気に吹き飛びました。

 

山際氏のしらじらしい会見映像を見ると、「目が泳いでいる」という言葉がいつも浮かんできます。何か落ち着かない表情なのです。あらためてこの言葉をweblio辞書で引くと、「瞳が左右に揺れ動くこと。隠しごとや後ろめたいことを指摘された際などに、心の動揺表れとして、生じることが多い」とありました。まさに山際氏の表情は、辞書の通りだと思いました。

 

岸田さんも早く山際氏を辞めさせたいのでしょうが、この人の後ろ盾は隠然たる力を持つ麻生さんです。仮に辞めさせても、世論の次の矛先は、統一教会との関係がかなり深い萩生田政調会長となり、今度は萩生田氏が属する安倍派が黙っていない、ということを考えているのではないでしょうか。「聞く耳を持つ」という岸田さんの姿勢がリーダーシップの欠如につながっているようです。

 

東京五輪汚職も、東京オリンピック組織委員会の高橋治之元理事に対する東京地検特捜部の追及はAOKIからKADOKAWA、大広へと横方向に広がる一方、組織委員会の会長だった森喜朗元首相を参考人聴取するなど縦方向にも目が向けられているようです。今後も大物政治家の名前が取りざたされるようなことになれば、「贈収賄事件」が「疑獄事件」になってしまいます。

 

為替市場の円安も止まらないようで、統一教会、国葬、五輪疑惑、円安の四重苦に岸田政権はあえいでいることになります。考えてみれば、どれも安倍元首相にからむ事柄で、岸田さんは黄金どころか貧乏くじを引いたのかもしれません。

 

◆統一教会問題で知りたいこと

 

統一教会問題で、自民党は党所属の国会議員と教会とのつながりについての「点検」結果を発表しました。自民党は、これで幕引きをはかるつもりだったのでしょう。しかし、国民が知りたいのは、「接点」があった国会議員の人数よりも、その内容です。統一教会の名称変更にとどまらず、統一教会が政府の政策に影響を与えてきたのではないかという疑問と不安です。

 

たとえば、地方自治研究機構によると、家庭教育の支援に関する条例を制定している地方自治体は、県レベルでは熊本、鹿児島、静岡など10県、市町村レベルでは、石川県加賀市など6市になっています。家庭を重視するのは自民党の憲法改正草案などにもみられますが、こうした条例制定をめぐっては、「世界平和統一家庭連合」と名前を変えた統一教会が積極的に自民党議員らに働きかけてきたようで、国レベルでも家庭教育支援法を制定する運動を後押ししてきたと報じられています。

 

「子どもの貧困率」が先進国の中でも高いといわれる日本では、「子どもは家庭で育てる」という考え方よりも、「子どもは社会で育てる」という考え方がより必要になっています。また、自民党の保守派が主張する「家庭教育」の重視は、社会の多様性を否定し、LGBTQと呼ばれる人たちの排除につながるとの指摘もあります。家庭教育をしっかりすればLGBTQは育たない、とでも考えているのでしょう。世界の流れに逆行するような「家庭教育」は、まさに統一教会が叫んできた思想であり、自民党と統一教会との密接なつながりがわかってくると、自民党の家庭重視の思想は、どこまでが自民党なのか、統一教会なのか、わからなくなってきます。

 

また、統一教会と自民党との関係は、安倍元首相の祖父になる岸信介元首相(1896~1987)までさかのぼります。それからどういう系譜で両者の関係が続いてきたのか、これは現役議員の自主点検だけでは、わかるはずはありません。自民党が国民の疑問を払しょくしたいのであれば、第三者委員会をつくって、過去のしがらみを明らかにするべきだと思います。

 

◆「アダム国とエバ国」の矛盾

 

それにしても、統一教会と自民党との関係は不思議です。統一教会は、日本での献金活動は、戦前の日本の朝鮮半島支配への贖罪だと信者に教え、韓国は神から選ばれたアダム国であり、日本はアダムを誘惑した堕落したエバ国だと説いてきたそうです。しかし、戦前の朝鮮半島支配の正当性を主張してきたのが自民党の保守派で、安倍派はその中核ともいえる存在でした。

 

安倍氏は以前から統一教会と関係を持ち、昨年9月には、統一教会の創始者である文鮮明氏の妻、韓鶴子氏が総裁を務める天宙平和連合の会合にビデオメッセージを寄せていました。この映像が安倍氏を襲った山上徹也容疑者の目に留まり、犯行のきっかけになったと伝えられていますが、安倍氏がなぜ、そこまで統一教会に肩入れしなければならなかったのでしょうか。岸以来の統一教会と自民党とのしがらみを調べる必要があると思います。

 

統一教会は1954年に文鮮明(1920~2012)がソウルで創設した宗教団体で、日本では1964年に宗教法人の認可を得ています。それから4年後の1968年に文が韓国と日本で設立したのが国際勝共連合で、反共産主義の政治活動を展開します。岸は積極的に勝共連合を支援したようで、文が1974年に訪日した時に開いた晩餐会の名誉実行委員長は岸が務めました。

 

そのときの文の講演の様子がネット上には残っています。それを聴くと、下記のように、文は日本列島を「神様が誰よりも愛してきた」と語っています。信者に献金を求める統一教会の論理と日本の有力者におもねるような文の論理とは、どちらが本当で、どちらが方便なのでしょうか。

 

「日本の国があるいは日本の国民が願う前に、神様がこの日本列島を誰よりも愛してきたと思うところであります。この日本列島のこの地に、日本の国と日本の国民を立たせて今まで守ってこられ、とくに第2次大戦後において、祝福を恵まれた国があるとするならば、それは日本以外にはないということを、諸先生方もよく知っていらっしゃる通りであります。日本の国民の努力もあろうけれども、その半面、神の保護と祝福と愛が多かったことは言うまでもありません」

 

統一教会が一時、本部としたという渋谷区南平台の屋敷は、岸が1950年に購入した私邸の隣で、岸の首相時代(1957~1960)には迎賓館(公邸と報じているメディアもあります)として岸が借り、その後、統一教会が入居したようです。岸邸から教会へ借主が移った背景には、日本の統一教会や勝共連合の初代会長になった久保木修己(1931~1998)と岸が親しい関係があったと推測されます。

 

旧満州国の経済官僚として辣腕を振るった岸にとって、満州国軍事学校から陸軍士官学校を経て満州国軍の将校になった経歴を持ち韓国大統領になった朴正煕(1917~1979)は、同じ「満州人脈」だったと思います。また、朴と文鮮明は、韓国中央情報部(KCIA)を通じての盟友関係だといわれています。

 

岸、朴、文の3人の関係を俯瞰すれば、日本からの公的資金(経済協力という名目の戦後賠償)を朴が引き出し、日本からの民間資金(献金)を文が吸い取り、北朝鮮に対抗する反共国家としての韓国を支え、それが日本にとっても米国にとっても安全保障になるという岸の思惑があったのではないでしょうか。そして、政治にはつきものかもしれませんが、それぞれの理念には、「うまい汁」が添えられていたのかもしれません。

 

統一教会はキリスト教の世界では異端とされ、霊感商法など問題を起こしながらも、日本では宗教法人の地位を維持し、米国では共和党を中心にレーガンからトランプに至るまで親交関係をつくり、韓国でも多くの企業や不動産を持つ「統一グループ」という「財閥」となっています。岸・朴・文のトライアングルの“遺光”がいまも輝いているのでしょうか。

 

統一教会と自民党政治家との関係を「票とボランティア」で説明するのは、わかりやすいようですが、それだけではすまされない「闇の世界」が隠されているように思えます。岸田首相は、国葬についての国会審議で、安倍元首相と統一教会との関係について、「本人が亡くなられているので、その実態を把握するには限界がある」と弁明しました。しかし、自民党と統一教会との闇を解明しなければ、「統一教会との関係を断つ」と言っても国民の多くは納得しないと思います。

 

9月10日の朝日新聞朝刊の「かたえくぼ」欄には、次のような風刺が掲載されていました。

 

『確認には限界がある』

我慢にも限界がある

――国民

岸田首相殿

 

まさに、国民の不信は「限界」に近づいています。

(冒頭のグラフは2022年9月13日の朝日新聞朝刊から)


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