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近代日本 欧米を鏡として歴史を刻んだ :ヘレン・ミアーズの名著の鋭い指摘 

2017.10.24 Tue
社会

近代日本 欧米を鏡として歴史を刻んだ :ヘレン・ミアーズの名著の鋭い指摘
平成29年 2017  10月
仲津 真治

1)現著者「ヘレン・ミアーズ」( Helen Mears)のこと

現著者「ヘレン・ミアーズ」( Helen Mears 1900~1989)は、アメリカの女流東洋学者で戦前二度訪日、訪中の経験があり、また戦時中はミシガン大学などで、日本社会について講義していたと云います。 戦後、GHQの諮問機関である十一人委員会のメンバーとして来日、日本の労働基本法の策定に携わった由、実に該博な知識を持ち、情報が豊富で、米欧、日本を中心に国際関係に良く通じています。こう言う人物が、対日占領の重要な一角を占めていた事に驚きを禁じ得ませんで
した。同時に、なのに、何故、占領政策が実際は偏より、思い込みに満ちたものであったのか、疑問も大いに沸いてくるのです。

さて、原著は、1948年に英語で書かれ、マッカーサー最高司令官にも提出され、アメリカでも出版された由です。そして、原百代(翻訳家)が現著者より、原著の寄贈を受け、日本での翻訳出版の認容を得たと申します。

斯くて、原氏は、占領時代のこととて、嘆願書を添えて、本邦での訳出と刊行の許可を求めました。しかし、その許可は下りませんでした。マッカーサーは、不許可とする理由を記した書簡の中で、「自ら、この書を精読したが、それはプロパガンダであり、公共の安全を害するものであって、占領国日本に於ける同訳書の出版は、絶対に正当化し得ない」と記している由です。即ち、欧米文明に批判的な内容から見て、日本語に訳出することは、許容されなかったのでしょう。

昭和27年 1952年 に到り、占領行政は終結、日本は独立します。
すると、その翌年、この翻訳は「アメリカの反省」と題して出版されました。然るに、この訳本は何故か忘れられ、限られた専門家以外知られることなく、そのまま、近年に及んだと申します。

今回新訳を訳出した伊藤 延司氏は、現代史研究家で、アメリカにいる友人から、この原著の「Mirror for Americans:JAPAN」の存在を知らされ、内容を知るに至り、その中身と歴史観に衝撃を受けて、これは多くの日本人に読まれるべきと思い、原百代訳のことを知らぬまま、1995年に出版した由です。

そして、この程、この新訳版の完全版が、角川ソフィア文庫として刊行され、小生も、ハーバード御縁のケント・ギルバートの対談著書から、その事を知り、入手・読書するに至ったという経緯です。

2)  本書の骨子 欧米と日本に対する見方け:歴史観

著者の主張の骨子は、「近代日本は西洋列強が作り出した鏡であり、そこに映っているのは、西洋自身の姿なのです。」と言う所に在るようです。

当時は、所謂「東京裁判」が行われていました。それに代表される裁判の姿勢や占領自体が、つまり、「近代日本の犯罪は、それを裁こうとしている連合国の犯罪である。」と言う事に繋がるというのです。

その際、ミアーズは、その姿勢を取る主体を三人称ではなく、「私たち」と言う一人称にしていることが注目されるようです。 この言い方からすると、近代日本の犯罪には、私たち、西洋文明が深くかかわっていると言う、ミアーズ自身の痛みが込められている感じがします。

斯くまで、自省し、本質を見抜き、透徹した見方をしていた米人専門家が実在したのです。そして。対日占領の政策と実践の中で、枢要な位置を占めていたのです。

3)  以下、本書の終章である九章や十章である「共栄圏」からの引用を中心に、幾つか印象に残ったを記します。

3-1)  往時のアジア太平洋地域の蠢きと日本

往時、アジア太平洋地域の植民地には、もともと(欧米の)経済的支配からの政治的独立や自由への渇望がくすぶっていました。 日本のプロバガンダと指導は、それに火を点けたにすぎないと、ミアーズは見ています。より詳しく引用すれば、

「始めのころ、若干例外はあったが(フィリピンはその一つ)、アジアと英仏蘭領植民地で日本が勝てたのは、現地協力者の活動があったからだ。 開戦当初の日本は、ほとんど銃火を交えないで、戦禍を収めている。」

そして、これら協力者は、国を代表する人々でした。対日協力の動機は純粋に愛国心からだと胸を張っていたのです。 対ナチ協力者とは大違いでした。

3-2 )   西洋と日本の概括的評価

ミアーズ曰く、「西洋列強はいま、日本を激しく糾弾している。日本が凶暴で貪欲であったことは明白な事実だが、だからといって、列強自身の責任は、彼らが思っているようには、免れることは出来ない。」と断じた上で、

「日本の本当の罪は、西洋文明の教えを守らなかったことではなく、良く守ったことなのです。」とまで、明言しています。

その事を良く分かっていたアジアの人々も大勢いたようです。

などなど、各部面や諸段階で起きたことやその背景を実に分かり易く、ミアーズは深く突っ込み、解説し、自省しています。

なお、占領軍が進めたという、所謂「WGIP, War Guilt Information Program 」(仮訳 戦争有罪意識浸透計画)について、触れたところはありませんでした。

終わりに、本書は実に大部な書であり、扱う時点は確かにかなり前なのですが、西洋文明の意義とその役割、効用、問題点が良く描かれています。 また、これに対し、日本が何をしていたか、その近代とは何か、それまでの長い平和の時代や、ほとんど内乱に止まった、様々な時代変遷の意味も良く考えるベキ事が観取されます。 そして、空間的にも視野はチャィナ、台湾、韓国、北朝鮮、ロシアやアジア太平洋、全世界へと広がっていきます。 また、問題は優れて現代的意義を帯びます。

戦後教育で教えられたことを学んでいるだけでは、不十分なことが良く認識できました。是非、一読をお奨めします。


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