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嘘に嘘を重ねながら、一国の宰相が落ちてゆく

2018.04.12 Thu

森友学園への国有地売却に関する決裁文書の改竄に続いて、朝日新聞が加計学園の獣医学部新設について「首相案件」と記した文書がある、とスクープしました。10日の朝刊によると、その文書には、愛媛県や今治市、加計学園の幹部が2015年4月に首相官邸で柳瀬唯夫(ただお)首相秘書官に面会した際、柳瀬氏が「本件は首相案件となっている」と語った、と明記されているというのです。

文書には、この席で「加計学園(の関係者)から、安倍総理と同学園理事長が会食した際に、下村文科大臣が加計学園は課題への回答もなくけしからんといっている、との発言があった」という記述もありました。これは当時、文部科学省が加計学園の計画に難色を示していた経緯とも符合し、安倍首相が2015年の時点ですでに獣医学部の新設計画を知っていたことを示すものです。

柳瀬首相秘書官に面会したのは愛媛県の地域政策課長ら4人と今治市の企画課長、加計学園の事務局長らで、柳瀬氏に会う前に内閣府の藤原豊・地方創生室次長にも会い、藤原氏が「内容は総理官邸から聞いている」「これまでの構造改革特区とは異なり、国家戦略特区の手法を使って突破口を開きたい」と発言した、といったことも記しています。

報道を受けて、愛媛県の中村時広知事は記者会見し、首相官邸を訪れた県職員の1人が作った文書であることを認めました。「職員が文書をいじる必然性はまったくない。全面的に信頼している」と語り、面談の事実をそのまま記録した文書、との認識を示しました。企画課長が同席した今治市にも首相官邸に出張した記録が残っています。決裁文書をいじくり回した財務省とは異なり、こちらは事実を正確に記した文書と考えて間違いありません。

ところが、当の柳瀬氏(現在は経済産業審議官)は文書でコメントを出し、「自分の記憶の限りでは、愛媛県や今治市の方にお会いしたことはありません」と否定しました。柳瀬氏は昨年7月の衆院予算委員会で今治市職員らとの面談の有無を問われ、「お会いした記憶はございません」と答えています。今さら「実は会っていました」とは言えない、ということでしょう。一度、嘘をついたら、嘘をつき続けるしかありません。

首相のお友達、産経新聞は12日の社説で「一体、何が本当なのか。国民は戸惑うばかりである」などと、乙女チックなことを書いていますが、「どっちが本当のことを言っているのか」などと問う必要もないほど白黒はハッキリしています。愛媛県の文書の信憑性を疑う理由は何一つないからです。文書の性格についても、中村知事は「(知事への)口頭報告のために作ったメモ」と説明しましたが、この文書が文部科学省や農林水産省への説明にも使われたことを考えれば、立派な公文書でしょう。

このスクープは、決裁文書の改竄に劣らぬ破壊力を持っています。「安倍晋三首相は嘘つきだ」ということを示す文書だからです。首相は国会で、国家戦略特区を活用した加計学園の獣医学部新設計画を知ったのは2017年1月だ、と繰り返し答弁してきました。首相が議長をつとめる国家戦略特区諮問会議が加計学園を事業者として正式に決定した時です。「それまでは知らなかった」と説明してきたのですが、愛媛県の文書は、安倍首相のそうした答弁は嘘で、ずっと前から首相が獣医学部新設計画に関与していたこと、首相の秘書官らもこの計画を「首相案件」として取り扱ってきたことを示しています。

安倍首相と加計学園の加計孝太郎理事長はアメリカに留学していた時からの友だちです。一緒にゴルフをし、しばしば会食する仲です。獣医学部の新設について語り合ったとしても不思議ではないのに、首相は「立場を利用して何かを成し遂げようとしたことは一度もない。獣医学部をつくりたいとか、今治にという話は一切なかった」と釈明してきました。

こういう発言は、ひっくり返すと真実により近くなる。「立場を利用していろいろなことを成し遂げたし、獣医学部のことも何度も話になった」と言っているようなものです。この1年間の推移を振り返れば、森友学園問題でも加計学園問題でも首相は嘘をつき続けている、と判断するしかありません。言葉を大切にする、自分の言葉に責任を持つ、という意識がまるで感じられません。

首相の嘘を取り繕うために、財務省の佐川宣寿・理財局長(当時)は国会で嘘の答弁を繰り返し、決裁文書の改竄にまで手を染めました。今回も、首相秘書官だった柳瀬氏は嘘をつき続けるしかないのでしょう。理財局長から国税庁長官に上り詰めた官僚が今や訴追される恐れがあるとおびえ、日本の通商交渉を担当する経済産業省の幹部が記者の質問に答えることなく、紙に書いたコメントを出して逃げ回る。そして、首相自身も「柳瀬元秘書官の発言を元上司として信頼している」と、その嘘にしがみつく――。

ここまで来ると、哀れさを覚えるほどです。嘘に嘘を重ね、政治家どころか人間としての信頼すら失って、落ちてゆくしかないでしょう。私たちの国は、こういう人物を宰相とするしかなかった。それが何よりも悲しい。

 

≪参考記事&サイト≫

◎2018年4月10日~12日の朝日新聞、毎日新聞、読売新聞、産経新聞(山形県内で販売されている版)

◎愛媛県職員が作成した柳瀬唯夫・首相秘書官との面談記録全文(東京新聞電子版)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201804/CK2018041102000126.html

◎下村博文・文部科学相(当時)の「加計学園はけしからん」発言について(中日新聞電子版)

http://www.chunichi.co.jp/article/front/list/CK2018041102000081.html

◎加計孝太郎・加計学園理事長の略歴(ウィキペディア)

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8A%A0%E8%A8%88%E5%AD%9D%E5%A4%AA%E9%83%8E

◎月刊『文藝春秋』2018年5月号の「佐川氏に渡された総理のメモ」(安倍首相が経済産業省の官僚を重用する理由と背景を描いて秀逸)

 

≪写真説明&Source≫

◎柳瀬唯夫・元首相秘書官(東京新聞電子版)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201804/CK2018041002000246.html

 

 


この記事のコメント

  1. 松岡茂雄 より:

    誰が書いたか分からないメモを頼りに「安倍降ろし」に邁進する野党、大手新聞、TVニュースショー。一歩譲って「首相案件」であったとして何が悪いのですか。岩盤規制50年間のゆがみ解消こそ総理の願い。秘書官答弁の上げ足取りに狂奔し、この国際情勢ただならぬ中、総理を委員会に釘付けする、売国奴のやりかたと思いませんか。何が何でも9月の自民総裁選に安倍さんを出馬させないつもりの印象操作に惑わされてはいけません。トランプや文大統領、プーチン、習近平、メルケルその他世界の指導者と渡り合えるのは安倍さん一人しかいないと思うのですが。

  2. 長岡 昇 より:

    愛媛県知事によれば、この文書は首相官邸を訪ねた県職員が作ったものです。氏名を明かさないのは職員への配慮からでしょう。「誰が書いたか分からないメモ」ではありません。「首相案件」であることが悪い、と言っているわけではありません。安倍首相が2017年1月まで加計学園の獣医学部新設計画を知らなかった、と述べているのは嘘だろう、と批判しているのです。嘘をつくのにはそれなりの理由がある、と考えています。「世界の指導者と渡り合えるのは安倍首相しかいない」とは思いません。「余人をもって代えがたい」というのは、しばしば、役割を終えた人に使われる日本語ではないでしょうか。

  3. 匿名 より:

    ひとつでも嘘をついている人は、全てが信用できない。 いや、信用してはいけない。
    人として。

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