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JFKはなぜ殺されたのか?ストーン監督の新作を観る

2023.10.29 Sun

米国のケネディ大統領(JFK)が1963年11月22日に暗殺されてから60年になります。その暗殺事件の真相に迫る映画『JFK/新証言 知られざる陰謀』が11月17日から日本全国で公開されます。日本記者クラブの試写会で、このドキュメンタリー映画を鑑賞しました。オリヴァー・ストーン監督は、さまざまな関係者の証言や資料の精査によって、暗殺の背後に「陰謀」が存在することを観客に訴えています。今後、ケネディ暗殺事件を語るには必見のドキュメントになるのではないかと思いました。

 

テキサス州ダラス市内をオープンカーでパレードしていたケネディ大統領は、発射された3発のうち2発の銃弾を浴びて死亡します。その犯人とされたのがリー・ハーヴェー・オズワルトで、事件の1時間後に逮捕されたのち、2日後にダラス警察署内で、ナイトクラブの経営者だったジャック・ルビーに射殺されます。事件を検証したウォーレン委員会が翌年の1964年に出した報告書では、オズワルドの単独犯とされました。

 

これに異を唱える人たちは「陰謀論者」とひとくくりにされています。ストーン監督もそのひとりということになりますが、その組み立てはなかなか説得力があります。たとえば、大統領への致命傷となった3発目の頭部への弾丸が大統領の後方から撃たれたものではなく、大統領の前方から発射されたものではないかという疑問を提起しています。後方からなら、オズワルドがいたとされる教科書倉庫ビルからの銃撃の可能性がありますが、前方からなら別の犯人による銃撃ということになります。

 

映画で強調されているもうひとつの疑問は「魔法の弾丸」と呼ばれる2発目の銃弾で、大統領の背中に命中したのち、大統領の前席に座っていたコナリー・テキサス州知事に当たったとされています。その軌道が不自然なので、「魔法の弾丸」と呼ばれているのですが、回収され証拠品となっている銃弾は使用前のように傷が少なく、とても2人の人間の体内を回ったものとは思えません。映画では、銃弾がすり替えられた可能性を追求しています。別の銃弾があったとすれば、教科書ビルで押収された銃とは異なる銃で発射された可能性がでてきます。

 

ストーン監督は、オズワルドの単独犯という「正史」に対して、さまざまな疑問を提示し、単独犯でないのなら複数犯であり、複数犯なら暗殺組織による謀略があったと主張します。そして、暗殺の謀略があったとすれば、暗殺で得をしたのは誰か、ということで、「黒幕」の存在を浮かび上がらせます。

 

「黒幕」として映画で語られるのはCIAであり、ケネディが目指していたベトナムからの米軍撤退などの路線をひっくり返した大統領として、暗殺で副大統領から大統領に就任したジョンソンン大統領の名前がでてきます。試写会で配布された資料の「プロダクションノート」には、ストーン監督の次のような言葉が書かれています。

 

「事件以後、変貌を遂げたアメリカは、諜報機関と軍が、政府の国家安全保障や戦略といった巨費が絡む案件の舵取りを水面下で握ることになり、それ以来その方向性を変えることができた大統領は一人もいませんでした。どの大統領も、アメリカの軍国主義に大きな変化を及ぼすには限界があったのです」

 

アイゼンハワー大統領が1961年1月の退任演説で、米国の自由と民主主義を脅かす存在になりかねないと警告したのが「軍産複合体」です。第2次大戦で、巨大化した軍とそれを支える軍需産業の複合体が生まれ、それが「政府のさまざまな部局において、意識的にせよ無意識的にせよ定着することのないように、守りを固めなければならない」と、国民に訴えたのです。

 

アイゼンハワー大統領の跡を継いだのがケネディ大統領で、ストーン監督の言葉と結び付ければ、ケネディ暗殺によって、軍産複合体が諜報機関を媒介にして政府を乗っ取り、軍国主義を進めてきた、ということになります。

 

ケネディ暗殺から60年後の世界をみれば、軍産複合体もどきの影は、ウクライナ戦争にも、パレスチナ戦争にも見え隠れしています。それを見ると、防衛力の増強にひた走る日本で、自由と民主主義を脅かすような軍産複合体や諜報機関が育つことはないのか、不安を感じないわけにはいきません。

ストーン監督は、『プラトーン』(1986)、『7月4日に生まれて』(1989)などの作品で社会派監督として知られ、今回の作品はケビン・コスナー主演の『JFK』(1991)のドキュメンタリー版ともいえるもので、米国では2021年に公開されました。

 

(冒頭の写真は、©2021 Camelot Productions, Inc. All rights reserved. Photo: John F. Kennedy Presidential Library, National Archives 配給:STAR CHANNEL MOVIES)


この記事のコメント

  1. 中山昇一 より:

    小生、10歳のとき、ケネディ暗殺が報じられ、そのときは一瞬絶句しました。後にいろいろな解説を知り、さらに驚きました。ニコラス・ケイジのLord of Warを視た時には、そういうものかと唖然としました。アイゼンハワーの言葉には言葉を失いましたが、戦争の無い世界は夢物語であることのほうが現実的ではと、空しい思いです。てこの原理は頭をかち割ることと地面を掘ることとどちらが先に使われたのか、興味がありますが、とにかく、人類が技術を手にしたときからの運命にしたくない運命なのかもしれません。

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